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柔沢ジュウ「雨か」 堕花雨「お呼びですか?」
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36 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(SSL)
[saga]:2014/11/27(木) 23:27:26.33 ID:11dEd/U30
>>35
紫「おかしいな。環はしていたと言ってたはずだぞ」
37 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/11/28(金) 00:10:10.03 ID:QyPPEJSqO
電波から読んでた身としては、アニメは紅香がイメージ違いすぎた
38 :
◆yyODYISLaQDh
[sage saga]:2014/11/28(金) 01:28:56.98 ID:TLlppmv/O
いくでー
39 :
◆yyODYISLaQDh
[sage saga]:2014/11/28(金) 01:30:10.36 ID:TLlppmv/O
=====
「で?」
村上銀子は、苛立ちを隠そうともせずにそう言い放った。
その視線は、椅子に腰掛けている彼女よりも更に下、無様にも床に正座させられている男に向けられている。
「……『で?』とは……?」
その視線を一身に受け止めている男、紅真九郎は、身体を強張らせながら鸚鵡返しのように聞き返す。
真九郎は、銀子がなにについて聞きたいのかはわかっていて、なぜ怒っているのかも当然わかっている。
しかし、後ろめたい気持ちがあるために、どうにか逃げ果せることができないものかと、大して良くもない頭を懸命に働かせているのだ。
「…………」
銀子はそれに対し、こめかみから青筋が立つ音が聞こえてきそうなほどに真九郎を睨む眼光を強める。
真九郎は恐ろしさのあまり、目を逸らすことはできても、その場から逃げ出することはできない。
真九郎の身体能力から言えば、運動音痴である銀子から逃げることは全くもって難しくはないのだが、もしそれを実行した場合の報復を思えば脚も竦んでしまう。
銀子は、ふぅ、と大きく溜息を吐くと、眼鏡を外してそれを自分の机の上に置き、瞼を閉じた。
この季節にしては若干短めのスタートから伸びる、タイツに包まれた脚を真九郎に見せつけるように組み直すと、銀子は再び喋り出す。
40 :
◆yyODYISLaQDh
[sage saga]:2014/11/28(金) 01:30:42.95 ID:TLlppmv/O
「真九郎、先週の月曜日は、何処で何をしていたのか、もう一度説明してくれる?」
質問の内容自体は、ひどく簡単だ。
当然、それに対する答えもひどく簡単であり、真九郎はそれに答える。
「だから、道に迷ったお婆ちゃんの案内をしてたらお茶に誘われて、まだ案内の途中だったから断われなくて……結局そのまま一日……」
「そう。じゃあ、火曜日は?」
銀子は、若干食い気味に質問を重ねる。
「仕事の依頼で猫探しを……」
「ふうん、それで、水曜日は?」
質問を重ねる。
「二日酔いで具合の悪い環さんを介抱してて……」
「へえ。木曜日は?」
41 :
◆yyODYISLaQDh
[sage saga]:2014/11/28(金) 01:31:49.22 ID:TLlppmv/O
質問を重ねる。
「夕乃さんが急に稽古をつけるとか言い出して……」
「なるほど。……で?」
「……『で?』とは……?」
こんなやり取りを、既に10回近く重ねている。
銀子は天井を仰ぐと、再度、ふーっ、と、大きく溜息を吐く。
人差し指の爪がコツ、コツ、と机に打ち付けられて、苛立たし気に音を鳴らす。
どうやら、我慢の限界らしい。
いや、既に限界など超えているのかもしない。
視線を真九郎に戻した銀子の眼光は、それほどに冷たく、鋭いものだった。
「私から言わせるのは酷だと思って、あんたが自主的に言い出すのを待っていたわけだけど、そんなに聞いて欲しいなら、そうするわ」
「…………」
勿論、真九郎もそんなことはわかっていた。
42 :
◆yyODYISLaQDh
[sage saga]:2014/11/28(金) 01:32:19.83 ID:TLlppmv/O
わかっていて恍けていたのだ。
しかし、その最後通告をもってしても、真九郎は口を噤む。
その顔色が真っ青でさえなければ、少しは格好もつくのかもしれないが、幼馴染の怒髪天を前にした真九郎には、それは無理が過ぎると言うものだった。
「金曜日、私との、幼馴染であるこの村上銀子との約束をすっぽかして、一体全体、何処で、誰と、何をしていたのかしら?」
「ごめんなさい!」
自分の人生で、一体これまでに何度土下座をしたことだろう。
その中でも今回は、まず間違いなくナンバーワンにエントリーされるぐらいに、美しい土下座だろう、と真九郎は思った。
当たり前なことに、土下座の美しさなど、された当人である銀子には関係あるはずもなく、真九郎の頭上から降り注ぐ威圧感はますます勢いを増していく。
「真九郎、紅真九郎くん、揉め事処理屋の紅真九郎くん、開業してから10年近く経つのに未だにペット探しが主な業務内容の紅
真九郎くん? 私はあんたの土下座なんか見たくないのよ。質問に答えてくれればそれでいいの。わかる?」
頭上から降り注ぐ精神攻撃は、傷口にグリグリと指を押し付けられている光景を真九郎に思わせる。
普段無口な銀子だが、幼馴染で親友である真九郎といるときはその例ではない。
しかし、その会話も淡々としたものであり、ここまで感情的に言葉をぶつけてくることはかなり稀である。
それほどまでに怒り心頭なのだ。
……もうこれは、正直に話すしかないか。
43 :
◆yyODYISLaQDh
[sage saga]:2014/11/28(金) 01:32:51.26 ID:TLlppmv/O
そう思った真九郎は顔を上げようとするが、ぎゅむ、と上から押さえつけられてしまう。
「誰が顔を上げて良いと言ったの?」
幼馴染の女の子に頭を足蹴にされる経験も、なかなか無いだろう。
真九郎も、そんなことはあり得ないと思っていた、ついさっきまで。
しかし、こんな状態でも屈辱より恐怖が心の大半を占めている真九郎に、もはや為す術は無い。
事実を言えば、既に怒髪天の銀子の怒りはそれを超え、どうなってしまうかわからない。
それでも真九郎は覚悟を決め、拳を握り、口を開いた。
その時。
「真九郎! 遊びに来たぞ!」
真九郎の部屋の古びたドアが勢いよく開かれ、同時に快活な声が飛び込んでくる。
肩甲骨の辺りで揃えられた黒髪が、扉から吹き込んでくる風に靡き、鮮やかに輝く。
可愛らしくも美しい顔立ちが、声音と同じく楽しさを全面に押し出すように綻び、その笑顔はどんな人間が相手でも心を和ませてしまうだろう。
この少女の名は九鳳院紫。
自称、紅真九郎の婚約者である。
そして、少女は扉を開け放ったまま、その笑顔のまま固まった。
44 :
◆yyODYISLaQDh
[sage saga]:2014/11/28(金) 01:34:04.16 ID:TLlppmv/O
「「「…………」」」
その時、確かに時は止まっていた。
自室で土下座する男性に、椅子の上で見下ろしながらその頭を足蹴にする眼鏡の女性。
この構図を見て、瞬時に状況を理解できる人間はまずいないだろう。
三者三様にフリーズした、ある種の三つ巴のような状態から、一番早くに動いたのは土下座をしていた男、真九郎だった。
「むむ、む、むむ紫!? な、なんでこんなところに!?」
「あ、あ? あぁ……遊びに、来た……のだ、が……?」
真九郎の問いに、つっかえつつも答える紫。
その視線は未だに定まってはいないないが、真九郎と銀子の間を行ったり来たりしている。
「さ、さっきのは違うんだ紫。 えっと、えーっと……ぎ、銀子! 銀子もなんとか説明を……!」
テンパり過ぎて普段からも働かない頭が更に働かない真九郎は、幼馴染に助けを求めて振り返る。
「もう……おしまいだわ……」
「銀子ーーー!!」
そこには、変な場面を見られたせいで真っ白になって膝を抱える、幼馴染の姿しかなかった。
〜〜〜〜〜
45 :
◆yyODYISLaQDh
:2014/11/28(金) 01:34:47.95 ID:TLlppmv/O
ここまで。
今日は紅パートでした。
説明不足が多いけどそこは追い追い。
46 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/11/28(金) 07:59:52.18 ID:AI6cwtwKO
「こういうプレイなんだよ、紫」キリッ
47 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/11/28(金) 10:24:42.22 ID:w2N2N9/0O
乙!のんびり6年位掛けて書いていいのよ
48 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/11/28(金) 12:07:26.42 ID:PQ22PUumO
乙
10年後って事は、真九郎達ももうアラサーか……
49 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/11/28(金) 12:10:04.23 ID:MzJwXupYo
>>48
26じゃないの?
確か紅の真九郎って16歳だった気が
50 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(SSL)
[saga]:2014/11/28(金) 13:10:24.21 ID:e6rhNmTB0
>>49
夕乃さんはアラサーで環と紅化と闇絵さんはアラフォーってことか。・・・おっとこんな時間に誰か来たみたいだ
51 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/11/28(金) 13:37:31.87 ID:NgGvhe5Do
乙です
52 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/11/29(土) 00:47:40.73 ID:5Et+L7QYo
紫はJKなのかJCなのか
53 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/11/29(土) 00:49:31.66 ID:yrzvQB/Mo
>>52
17歳です
54 :
◆yyODYISLaQDh
[sage]:2014/11/29(土) 02:38:23.39 ID:t/YdTk7HO
(10年近くって書いたけど実は9年のつもりだったなんて言えない…)
55 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(SSL)
[saga]:2014/11/29(土) 13:27:01.15 ID:dECMRCMz0
それでもいいから書くのです
56 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/11/30(日) 17:52:29.81 ID:YA8eehNio
はよ
57 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/11/30(日) 19:22:44.27 ID:JD/Yetl1O
ちーちゃん参戦もあるのか(ゴクッ)
58 :
◆yyODYISLaQDh
[sage]:2014/12/02(火) 18:33:00.49 ID:U6LtA2flO
つーかモノローグで「この一年」とか言ってるけどまだ出会って半年ちょっとぐらいじゃんね
脳内補完よろしく
59 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2014/12/16(火) 23:55:43.38 ID:TthW5QXMo
さっさとかけたろう
60 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2014/12/24(水) 08:14:33.51 ID:IUqDdnBFO
追いついた!
昨日電波のアニメ見返したばかりで
こんなスレがあったとは
超俺得
61 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2014/12/26(金) 00:16:54.88 ID:DySJEThBO
まだかなー
62 :
◆yyODYISLaQDh
[sage]:2015/01/02(金) 21:40:30.84 ID:Wf2PHQphO
もう一ヶ月か
63 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/01/02(金) 21:55:46.55 ID:rH23IbaDo
そうなのか…
64 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/01/06(火) 11:50:37.86 ID:LjSrKTWWo
待ってるよー
65 :
◆yyODYISLaQDh
[sage]:2015/01/08(木) 15:11:00.73 ID:Cwd3kG63O
新刊読んだら本気出す
66 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/01/08(木) 16:03:39.19 ID:+PxJRIVmo
勝手にして
67 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/01/08(木) 21:27:04.36 ID:fdHZUxR2O
早く読め!
68 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/01/09(金) 20:48:53.64 ID:C4TMqRkDo
新刊って未だ出ぬ奴じゃないよね?歪空だよね?
早く読み終わってください
69 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/01/23(金) 07:55:08.41 ID:mMCghhJEO
待ってる
70 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/01/31(土) 08:20:33.73 ID:VCPIyndAO
おれも歪空見終わった
面白かった
電波の続刊出ないかなー
71 :
◆yyODYISLaQDh
[sage]:2015/02/07(土) 10:42:52.37 ID:pOo9wVP8O
テイルズが忙しくて全然書けてない
72 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/02/07(土) 16:56:15.92 ID:imL6wj3Xo
そうですか…
73 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/02/10(火) 14:05:00.56 ID:aD+nt2j3O
まあ
待つよ
74 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/03/01(日) 00:37:15.48 ID:/1FhykmYO
待つ
75 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/03/04(水) 00:22:47.76 ID:/BmjvgX5O
マダー?
76 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/03/05(木) 01:49:39.19 ID:jZgZVqFcO
>>71
テイルズと同時進行でもいいんで続きを…!
続きを早うオナシャス!
77 :
◆yyODYISLaQDh
[sage]:2015/03/05(木) 23:36:27.98 ID:CTS/ljFaO
すまんな
一週間以内には投下する
78 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/03/05(木) 23:51:31.78 ID:64I/KV4ho
待ってる…
79 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/03/06(金) 15:10:18.10 ID:uBWvqI5fO
待ってるぞ
80 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/03/11(水) 14:29:33.69 ID:25YECDZvo
今日か明日か
81 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/03/16(月) 16:34:50.19 ID:yPMi7ThZO
月曜日<続き、待ってる。
82 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/03/19(木) 00:36:32.16 ID:tOd/0K/dO
長い一週間だぜ…
83 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/03/27(金) 01:14:08.68 ID:DZe6S6dlO
舞ってるよ。
84 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/04/03(金) 11:26:05.30 ID:/FSKKjk1O
おいこら
早くこないと、一生完結させることができなくなる呪いをかけるぞ
85 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/04/08(水) 23:39:44.57 ID:l5ErbPO+o
時間かかっても完結だけはしてほしいなって
86 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[マダー?]:2015/04/18(土) 17:21:17.81 ID:suz/0hTOO
age
87 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[マダー?]:2015/04/29(水) 13:55:07.44 ID:kdeDkLyZO
GW中に
>>1
が来て投下する…はず!
88 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2015/04/29(水) 16:30:11.88 ID:Z+pI/KZNO
早く書くのです
89 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/05/04(月) 16:06:10.30 ID:32iz6k3UO
おいぃ
90 :
◆yyODYISLaQDh
[sage saga]:2015/05/06(水) 05:30:32.11 ID:5SUkXYlxO
週末投下予定
91 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2015/05/06(水) 15:00:29.65 ID:GVa5RhHWO
>>90
キターーー!!!楽しみなんだぜ!
92 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/06(水) 16:24:17.81 ID:jLt+bmOf0
>>90
やったぜ。
93 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/05/06(水) 20:35:58.58 ID:xUjc4a8GO
そうですか…
94 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2015/05/11(月) 06:41:50.91 ID:G6037G9HO
また来ないのか…?
95 :
◆yyODYISLaQDh
[sage]:2015/05/11(月) 11:33:15.50 ID:AekEfTjZO
=====
誰が言い出したのか知らないが、溜息をつくと幸せが逃げていくらしい。
しかし、柔沢ジュウは今の状況に溜息をつかずにはいられなかった。
場所は自宅のダイニング。
テーブルには湯呑みが2つ用意されており、一つは当然ジュウの物。
もう一つは、堕花光の物だ。
光は湯呑みに視線を落とし、くるくると回して弄んでいる。
その唇は拗ねるように少し尖っており、年齢相応の子供らしさを感じる。
その様子は微笑ましくもあるが、今のジュウにとっては面倒な相手でしかない。
ジュウは再度溜息をつくと、面倒臭そうに口を開く。
「で? なんで俺がお前とデートしなきゃならないんだ」
「で、デートじゃない! デートのフリ!」
間違えないでよ!、とジュウに向かって怒鳴る光だが、ジュウにとっては同じことだ。
なぜ、こんな面倒なことを光が言い出したのかといえば、そもそもの発端は光が同級生に告白されたことにあるらしい。
それに対し、光は丁寧に断ったのだが、相手はそう簡単に折れてはくれなかった。
何度も告白を繰り返されて参ってしまった光は、安易な発想から、彼氏がいると言ってしまった。
しかし、相手もそんなことで折れるぐらいならこんなことにはなっていない。
それを証明するように要求された光は、渋々、ジュウに助けを求めることにしたのだという。
96 :
◆yyODYISLaQDh
[sage]:2015/05/11(月) 11:34:05.93 ID:AekEfTjZO
「なんで俺なんだ。伊吹にでも頼めばいいだろう」
「それは……」
そう言って、再び俯いてしまう光。
先日の騒動のとき、光は最後に伊吹と和解したようだったが、やはり一度できた溝はそう簡単に埋まらないのかもしれない。
しかし、自分を頼るのは良くないだろう、とジュウは眉間に皺を寄せる。
光はジュウとの噂をばら撒かれ、酷い目に遭っているのだ。
それは全くの事実無根であり、写真なども合成の嘘っぱちだった。
しかし、本当にデートをしてしまえば話は別だ。
恋人同士であることが光の嘘だったとしても、そういうことが事実として一度でもあったのなら、光の立場は再び悪くなってしまうかもしれない。
幸福クラブのような連中がいないとも限らないし、実際その思考に毒された者にジュウは殺されかけたのだ。
それに、光は姉と同様、容姿端麗文武両道。
妬みや嫉みで、光を陥れようとする奴はゼロではないだろう。
総合的に考えて、良い判断ではない。
ジュウは湯呑みを煽ると、自分の答えを切り出した。
「断る。どう考えても、お互いのメリットよりもデメリットの方が大きい。諦めて、相手が飽きるまで我慢しろ」
助けられるなら助けてやりたい、という気持ちはある。
97 :
◆yyODYISLaQDh
[sage]:2015/05/11(月) 11:34:32.05 ID:AekEfTjZO
しかし、行動の結果が現状よりも悪い方向に傾くのなら、それを許容することはできない。
ジュウの答えに、光は納得していないようだった。
上目遣いにこちらを見上げ、何かを訴えるように見つめてくる。
こういうところは、雨に似ている。
姉妹揃って、たまに犬っぽい振る舞いをしてくるのだ。
雨が小型犬だとすれば、光は大型犬。
どちらも愛らしいことに変わりはないが、それに負けて、ここで折れてしまうわけにはいかない。
「……姉貴にでも相談してみろよ。何かいい案が出るかもしれないし……」
「そ、それはダメ!」
何の気なしに出した提案だったのだが、光は思った以上に突っぱねてきた。
テーブルから身を乗り出して、全力で拒否の姿勢を表してくる。
その拍子に湯呑みが揺れ、お茶が少し溢れる。
気づいた時には間に合わず、お茶が光の手に少しかかってしまっていた。
「熱っ……!?」
98 :
◆yyODYISLaQDh
[sage]:2015/05/11(月) 11:35:28.98 ID:AekEfTjZO
淹れたてではないにしても、火傷の心配はある。
ジュウが光の手を取って確認すると、指先が少し赤くなっていた。
「来い」
「えっ……」
光の手を引いて誘導すると、ジュウはシンクの蛇口をひねった。
水が十分冷たいのを確認して、そのまま光の指を流水にさらす。
暫くそうしてから光の指先を確認すると、さっきよりは赤みが引いたように見えた。
ジュウはいつだったか、ズブ濡れの雨の頭を拭いてやったことを思い出した。
「も、もういいからっ……」
「ん? ああ」
ジュウから逃げるように手を振り払う光。
光は顔を俯けて、悔しそうな表情でジュウに掴まれていた手を握りしめている。
咄嗟の判断とはいえ、勝手に手をとったのは軽率だったか。
その体勢のまま黙り込んでしまった光を見て、ジュウは怒鳴り声が飛んでくるまで、片付けをすることにした。
99 :
◆yyODYISLaQDh
[sage]:2015/05/11(月) 11:36:02.82 ID:AekEfTjZO
布巾を取って、テーブルに溢れたお茶を拭っていく。
幸い、床にまで被害は及んでいなかったので、簡単に処理できた。
湯呑みを綺麗にして、急須に残っていたお茶を注ぐ。
暫く放置していたので、急須の中身は既に冷めていた。
さっきよりも渋味の強くなったお茶をジュウが眺めていると、光が漸く口を開いた。
「あんたのせいよ……」
「は?」
「あんたがあんなになってまで助けてくれたから、今度も期待しちゃったのよ! 悪い!?」
「な……」
唐突な逆ギレに絶句するジュウ。
光はそんなジュウの様子もお構いなしに、怒声をぶつけてくる。
「もう! なんなのよ! しょうがないでしょ! 私はあんたにお願いしてるの! 伊吹さんは関係ないでしょ!」
「い、いや、でもな……」
100 :
◆yyODYISLaQDh
[sage]:2015/05/11(月) 11:36:59.61 ID:AekEfTjZO
光の勢いに気圧されて、思わずたじろぐジュウ。
「なんであんたはダメで伊吹さんなら良いのよ!」
「なんでって……あいつは優等生で空手部の主将だし、俺は不良だ」
「髪!」
「は?」
「黒くしなさい! そしたら不良に見えないでしょ!」
「いや髪の色一つで」
「今度の日曜日の正午に駅前で! それまでに黒くしておきなさいよね! 私はもう帰る!」
一方的に約束を押し付けてから湯呑みを煽り、バタバタと帰り支度を済ませる光。
「ごちそうさま! お邪魔しました! 馬鹿!」
律儀に挨拶をして、最後に罵声を投げつけてから荒々しく玄関のドアを閉める光。
断る時間すらも与えられなかったジュウは、その背中を見送ったまま、再び大きく溜息をついた。
〜〜〜〜〜
101 :
◆yyODYISLaQDh
:2015/05/11(月) 11:39:17.43 ID:AekEfTjZO
待たせて遅れて申し訳ない
原作の文体を意識してみたけどゴチャゴチャになるんでやっぱり自分の書き方でやっていきます
他人の文体は難しい
102 :
◆yyODYISLaQDh
[sage]:2015/05/11(月) 11:51:48.50 ID:AekEfTjZO
番外【堕花光01】
勢いに任せて、約束を取り付けてしまった。
困惑と、呆れが入り混じったあいつの顔を思い出す。
憎たらしいったら。
何が伊吹さんよ。関係ないじゃない。
私はあんたにお願いしに来たのに。
指先を見つめる。
まだ少し、火照っているような感じがする。
火傷のせいじゃない。
別に、最初から熱くはなかった。
条件反射的に、熱い、という言葉が出てきてしまったのだ。
あいつに握られた手首。
大きくて、硬くて、熱い、あの掌。
父親とは少し違う、優しい眼差し。
断られたのは、想定内。
でも、断られた理由は、想定外。
面倒っていうのは、やっぱりあると思う。多分。
でも、自分が不良である事を気にしていた。
つまり、外聞が悪いということ。
あいつの外聞。そして、私の……。
馬鹿、と毒づく。
こんなことで赤くなって、馬鹿みたい。
手首をさする。
まだ少し、あいつの熱が残っている気がした。
103 :
◆yyODYISLaQDh
:2015/05/11(月) 11:54:20.49 ID:AekEfTjZO
なんかこういうのってどうなんだろというテスト。
原作だと一人称視点は皆無なので、こんなん書いても違和感がちょっとあるな。
アンケート的な感じで、今後もこういうのをちょくちょく挟んでも良いかどうか、レス貰えるとありがたい。
今回の投下はコレで終わりです。
104 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/05/11(月) 12:11:28.24 ID:G6037G9HO
むしろ原作に無いからこそ良いと思う。
SSは二次創作、原作の雰囲気を壊さない程度なら何でもやってみる価値はある…と自分は思う。
105 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/05/11(月) 12:17:54.73 ID:CMuvWHzpO
面白ければどうでもよいかな
原作はある程度知ってるだけでまだ読んだことないから、雰囲気うんぬんは何も言えないけど
個人的にはいい感じだし、好きにやればいいと思うよ
106 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2015/05/11(月) 12:51:02.80 ID:ln1hZXLRO
面白いですよ
雰囲気壊れてないしいいとか思うよ
107 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/05/11(月) 15:23:27.34 ID:AemeL2uVO
キターーーーーーー!
待ってたぜ!
文体が少々違っていても雰囲気出てるし、何より面白い。
108 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/05/11(月) 16:19:58.01 ID:Sf2a8AxJo
面白いと思うし自由に書けばいいんでね
乙です
109 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/05/11(月) 20:40:58.09 ID:tTDkm7TgO
乙です
110 :
◆yyODYISLaQDh
[sage saga]:2015/05/13(水) 12:08:15.60 ID:8C56zXWXO
=====
この五月雨荘は木造アパートとはいえ、隙間風などは殆ど無い。
それなのに、肌に感じるこの悪寒はなんだろうか。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
卓袱台の上には、4人分の夕食が並んでいる。
栄養バランスを考えられた、見事に健康的な食事だ。
味も勿論申し分なく、一口食べる度に、幸せな気分になれる。
否、そうなれるはずだった。
部屋の主である真九郎の右隣には、幼馴染である村上銀子。
その向かい側、真九郎の左隣には、真九郎にとって姉のような存在である崩月夕乃。
そして真九郎の正面には、他の三人よりもひと回り近く歳下で、真九郎にとっていろいろなきっかけを作ってくれた少女、九鳳院紫。
美女と美少女に囲まれて、誰もが羨むシチュエーションだろう。
しかし、そこに仲睦まじい雰囲気は感じられない。
111 :
◆yyODYISLaQDh
[sage saga]:2015/05/13(水) 12:08:49.31 ID:8C56zXWXO
三者三様に、お互いを牽制しながら食事を進めている。
「ほら、真九郎さん。これも美味しいですよ?」
「ゆ、夕乃さん、自分で食べれるから……」
「そんなこと言わずに、はい、あーん」
「崩月さん、行儀が悪いです。だから嫁き遅れるんですよ」
「良いんですよ、私は真九郎さんに貰ってもらうので」
「真九郎はウチの家族みたいなものですから、貴女のような人には差し上げません」
「それを言ったらウチの家族でもありますよ? 実際に正月やお盆はウチで過ごしていますし」
「待て、ここ数年の年始は私と二人で過ごしている。一年の計は元旦にあり。つまり真九郎は私のモノだ」
「真九郎さんはモノではありません」
「では訂正する。真九郎は私の夫だ。お風呂にも一緒に入ったことがあるし」
112 :
◆yyODYISLaQDh
[sage saga]:2015/05/13(水) 12:09:32.62 ID:8C56zXWXO
「昔のことでしょう。それなら私も入りました。真九郎さんがウチに来た頃は本当にもう可愛くて……」
「……私は高校生の時に一緒に入りましたけどね」
「ぶっ!?」
「は?」
「なんだと?」
「いやアレは事故みたいなもので……! 銀子!」
銀子はシレッとした顔で味噌汁を啜っている。
他の二人は眼差しだけで真九郎に説明を求めてきていて、真九郎は四苦八苦しながら漸く誤解を解くことに成功した。
納得した二人は再び三つ巴の膠着状態に戻ってしまい、真九郎はその様子を見て嘆息する。
最近は、この3人が揃うといつもこんな感じになってしまう。
真九郎としては結婚や恋愛などという幸せは二の次で仕事が優先されているのだが、この3人、特に銀子と夕乃には年齢的に決着をつけたいという焦りがあるのだ。
二人のアプローチが激しくなれば、当然紫も黙ってはいられない。
今日も、銀子に足蹴にされているところを紫に目撃され、2人が落ち着いたかと思えば夕乃がアポなしでやって来て、あれよあれよと言う間に料理対決になってしまったのだった。
ほぼ強引に迫ってくる3人に、真九郎は困惑を隠せないが、未だに明確な答えは出していない。
113 :
◆yyODYISLaQDh
[sage saga]:2015/05/13(水) 12:10:02.20 ID:8C56zXWXO
昔よりもあからさまな言葉を使うようになったので、流石の真九郎も好意には薄々気付いているが、自分のような人間には3人とも勿体無いと感じているのだ。
そのくせ明確に拒絶もしないのだからタチが悪いとも言えるが、拒絶したところでこの3人が諦めるはずもない。
隣の部屋の住人は、権力でも金でも使って法改正するか、重婚できる国に移住しろなどと無責任なことを言うが、真九郎は無視している。
「(それこそ、いつまでこのアパートにいるんだあの酔っ払いは……。)」
早くいい相手を見つけて出て行って欲しいと真九郎は思っているが、本人は「晩婚が流行ってるから大丈夫ー」などとどこ吹く風で焼酎を煽っている。
もう一人の酔っ払いは……まあ、アレのことは放っておこう。
そういえば、二日酔いのための薬が切れかけていた。
事務所に顔を出すついでに買っておこうかな、などと真九郎が呑気に考えていると、膝の上に温い塊がのしかかってきた。
見てみると、黒猫が丸くなっていた。
「女難の相が日に日に強くなるようだな、少年」
いつの間に入ったきたのか、喪服のように全身を黒で彩った美女が窓の淵に座っていた。
黒猫の名前はダビデ、美女の名前は闇絵という。
真九郎がこの五月雨荘に来た10年ほど前からずっとこの見た目を保っている。
今が中世なら、とっくに火炙りにされているだろう。
114 :
◆yyODYISLaQDh
[sage saga]:2015/05/13(水) 12:10:40.50 ID:8C56zXWXO
「私はその程度では死なんよ、少年」
「……少年はやめてください」
心を読まれて動揺した真九郎は、苦し紛れにそんな抗議の言葉しか搾り出すことができなかった。
それに対して闇絵は妖艶に微笑むだけで、コレもいつの間に取り出したのか、煙草の煙をくゆらせていた。
真九郎はそんな絵画に描かれたような姿に、思わず見惚れてしまう。
「真九郎はやはりああいうのがいいのか……?」
「真九郎さん、私だって負けてませんよ! 紫ちゃんや村上さんには無いものですよ!」
「わ、私だって銀子よりはあるぞ!」
「…………チッ」
また騒がしくなってきた部屋の中で、真九郎は願う。
「(頼むから、3人とも仲良くしてくれ……)」
〜〜〜〜〜
115 :
◆yyODYISLaQDh
:2015/05/13(水) 12:13:53.61 ID:8C56zXWXO
結構大筋だけ決めてだらだら書いてるんであちこちに矛盾がやってくるかもしれませんが悪しからず
そんなに大きなものはない…はず…
116 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/05/13(水) 12:31:05.41 ID:XOKoIzV6O
おつ
117 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/05/13(水) 12:36:33.83 ID:oiAq0OF+o
乙です
118 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/13(水) 13:26:41.65 ID:BHhffRyY0
乙だよー
119 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/05/14(木) 00:03:33.04 ID:tQ+W/h7vO
いやー嬉しいな
楽しいよ
120 :
◆yyODYISLaQDh
[sage saga]:2015/05/19(火) 20:04:45.20 ID:AAAmLQu+O
=====
平日というのは学校や仕事があって面倒に感じられるものだが、この時ばかりは休日が近づくのを憂鬱に感じていた。
今日は金曜日、時刻は12時30分。
昼休みの時間である。
ジュウはいつも通りの握り飯を頬張りつつ、窓の外を眺めていた。
教室内はかなり賑わっており、特に暖房機の前にたむろしている女子が騒がしさを通り越して喧しい。
女子というのはどうしてこう集団になると声高く喋るのだろうか。
夏と冬では、断然冬の方が昼の教室内は騒がしくなる。
夏は部活に行ったり、外で弁当を食べたりする連中が一挙に教室にやってくるからだ。
実際、夏場は窓の外に見られていた運動着の生徒たちも、今は見えない。
部活をしている連中を馬鹿馬鹿しいなどとは思わない。
彼らはそれに熱中し、やり甲斐と生き甲斐と達成感を得て青春を謳歌しているのだろうし、それはさぞ楽しいことだろう。
ジュウも、自分が青春期の中にいることは自覚しているが、所謂世間でいう『青春』とは、自分は無縁であることも自覚している。
輪をかけて、最近の自分は何かと傷だらけだ。
以前から喧嘩などで生傷は絶えなかったが、夏からこっち、刺されたり、殴られたり、トラックに轢かれかけたりと、生死の狭間を行ったり来たりしている気がする。
それもあの自称従者に出会ってからだ。
前世の絆に殺される男……などと考えてから、発想があの女に似てきたかもしれない、と自嘲した。
そこでジュウは、先程まで騒がしかった教室が静まっているのに気が付いた。
何事かと辺りを見回すと、暖房付近の女子集団の視線が、ジュウと廊下の方向をチラチラと往復している。
視線の先を追うと、教室の入り口に堕花雨が立っていた。
121 :
◆yyODYISLaQDh
[sage saga]:2015/05/19(火) 20:05:17.52 ID:AAAmLQu+O
「ジュウ様」
「……悪かった、ちょっと忘れてただけだ」
「いえ、ジュウ様は何も悪くなどありません。ご無事でなによりです」
その通り、ジュウは何も悪いことはしていない。
単純に、忘れていただけである。
何を忘れていたのかといえば、雨への定期連絡だ。
先日の騒動の後、雨はジュウに対し異常なほど過保護になった。
あれからこっち、毎朝ジュウの自宅まで迎えに来るし、昼休みには必ずメールか電話で連絡をしなければならない。
それを忘れると、こうして教室までジュウの無事を確認しにやってくる。
最初の頃は連絡を入れてもやってくるので教室でいい注目の的になっていたのだが、どうにかこうにか説得し、今は連絡だけに収まっている。
ジュウとしては朝の迎えも要らないのだが、「いつ敵がやってくるかわかりません」ということで譲れないらしい。
ジュウは辟易しつつも、半年もすれば落ち着くだろうということで諦めた。
「では、失礼します」
「おう」
綺麗にお辞儀をする雨。
そのまま去ってくれればいいものを、顔を上げた雨は、そのままジュウを見つめてくる。
122 :
◆yyODYISLaQDh
[sage saga]:2015/05/19(火) 20:05:49.10 ID:AAAmLQu+O
これがジュウは苦手なのだ。
こちらを見つめてくる雨は、まるで静止画のように微動だにしない。
その透けるように白い肌も、引き結んだ小さな唇も、掴めば手折れそうな華奢な体躯も、そして清流のような青みがかった黒髪も。
視覚だけでなく、まるで全身で見つめられているような、そんな感じがする。
「……おい」
「……っ、はい?」
耐えきれなくなってジュウが声をかけると、雨はワンテンポ遅れて反応する。
雨にしては珍しいことだったが、ジュウは状況の改善を最優先にして、言葉を続ける。
「確認は済んだだろ。さっさと自分の教室に帰れ」
「……御意に」
恭しく手を胸に当ててお辞儀をする雨。
そのまま教室の入り口まで歩いて振り返ると、失礼します、と付け加えて出て行った。
それを見送り、嘆息するジュウ。
静まり返っていた教室は、徐々に騒がしくなっていった。
123 :
◆yyODYISLaQDh
[sage saga]:2015/05/19(火) 20:06:28.81 ID:AAAmLQu+O
その内容は、先ほどまでのような中身のあってないような談笑ではなく、噂話にシフトしていた。
噂の対象は言わずもがな、ジュウと雨についてである。
教室のあちらこちらから自分の噂が聞こえてくるというのは、かなり居心地が悪い。
陰口に比べ、悪意がないというのもタチが悪い。
時計を確認すると、12時43分。
昼休みがおわるまで、あと15分以上ある。
ジュウはお茶の残りを一気に飲み干し、小さく溜息をついてから席を立った。
後ろ手に閉めた教室のドアの向こうから、女子の甲高い歓声が響いているのが、嫌でも耳に障った。
もう一度溜息を吐き、どこで時間を潰そうか、などととぼんやり考えながら、ジュウは廊下を歩き出した。
〜〜〜〜〜
124 :
◆yyODYISLaQDh
[saga]:2015/05/19(火) 20:08:24.52 ID:AAAmLQu+O
取り敢えずここまで
日常パートはもうちょっと続くんじゃ
次回の更新は例のあの子が出るぞい
125 :
◆yyODYISLaQDh
[sage]:2015/05/19(火) 20:12:46.28 ID:AAAmLQu+O
>>121
の頭が抜けてた
雨はジュウと眼を合わせたまま、流れるように机の間を縫って歩き、ジュウの眼の前までやってくる。
126 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/05/19(火) 20:24:36.30 ID:wIUFdFODO
乙ぅ!
この二人を見てるとなんかキュンキュンするんだ……
127 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/05/19(火) 21:37:35.12 ID:XEEtHSsFo
乙です
128 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/05/20(水) 00:34:15.13 ID:Fl+ppm01o
乙!
いいね
最高だ
129 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2015/05/21(木) 04:01:30.06 ID:jFira9o0O
追いついちまった
130 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/05/22(金) 14:27:34.77 ID:62+4rcG6O
追い付いてしまった
131 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/05/25(月) 01:00:36.20 ID:ZIXZGvH7o
コミケで売ってたらここまでで2000円は余裕で出せるくらいには期待してる
132 :
◆yyODYISLaQDh
[sage saga]:2015/05/26(火) 21:40:03.53 ID:9m0+RSJ8O
=====
自動ドアをくぐって右から3列目、手前から2番目の棚、上から2段目。
いつも通りの二日酔いの薬を手に取って、真九郎は溜息を吐いた。
ここは事務所からほど近くのドラッグストア。
月に2回は二日酔いの薬を買いに来る客として店員に認知され、パートのおばちゃんからは「いつも大変ねえ」などど哀れみの声をかけられる始末。
どうやら、アル中の父親がいるとでも勘違いされているらしい。
アル中はアル中でも、いい歳した女が二人なのだからタチが悪い。
他にも足りなくなった飲料水や携行食などをカゴに放り込んでレジに向かう。
「いつもありがとうございます」と言うレジの青年に愛想笑いで応えつつ、そそくさと店を出る。
辺りは住宅街とオフィス街の境目といった雰囲気で、フォーマルなスーツとカジュアルな私服が入り乱れている。
ドラッグストアを出てから、信号を越え路地を曲がって裏道を通り、五月雨荘より少しばかり小綺麗なアパートの前に辿り着く。
そのアパートの103号室。
表札には『紅相談事務所』という文字が丁寧に書いてある。
その名の通り、ここは紅真九郎が経営する事務所である。
経営といえば聞こえは良いが、大したことはしていない。
依頼を受けて、それを解決する。
依頼というのはもちろん、揉め事処理屋としての仕事だ。
揉め事処理屋の名前を出さないのは、知らない者にとってはなんとなく物騒なイメージがつきやすいかな、という程度のことで、特に意味は無かった。
銀子に言わせれば、裏稼業の揉め事処理屋が事務所を構えること自体おかしいということだが、こちらの方が口コミも広がりやすいし、小さな依頼でも立ち寄りやすいだろう、と真九郎は思う。
実際、3年前にこの事務所を開いて以来、依頼の件数自体は増えているし、規模も大きくなりつつある。
133 :
◆yyODYISLaQDh
[sage saga]:2015/05/26(火) 21:40:31.08 ID:9m0+RSJ8O
鍵を開け、電気を点けてから中に入る。
「……またか」
部屋の中央にある応接用のソファとテーブル。
二つあるソファのうち、小さい方の上で器用に丸まりながら眠っている女性がそこにいた。
長袖の革ジャンに季節感の無いジーンズのホットパンツ。
床にはブーツとニーソックスが脱ぎ散らかされ、タオルケットのようにマフラーをかぶっている。
そして、何故か黒いリボンだけがポールハンガーにかけられている。
最大出力でかけられた暖房が、彼女の明るい色の髪を微かに揺らしていた。
彼女の名前は斬島切彦。
男のような名前だが、正真正銘の女性だ。
真九郎はその安らかな寝顔を見ながら、一直線に窓へと向かう。
窓際のリモコンを手に取り、エアコンの運転を停止。
同時に、窓を全開に開け放った。
冬の冷たい風が顔面を通り抜け、温められ過ぎた部屋の空気を一掃する。
「……ふ……っくちゅ」
後ろから聞こえてくる可愛らしいくしゃみ。
振り返ると、切彦が身体を横たえたまま眠たげな目で真九郎を睨め付けていた。
134 :
◆yyODYISLaQDh
[sage saga]:2015/05/26(火) 21:41:01.04 ID:9m0+RSJ8O
「……寒いです」
「冬だからね」
真九郎はそう返して、窓をそのままにしてデスクに座った。
決して多くない書類に適当を目を通していると、切彦がもそもそと起き上がり、ペタペタと裸足のまま窓際へ歩いて行く。
自然の冷風に一度身震いしてから、緩慢な動作で窓を閉める。
それからゆるゆると視線を左右に動かし、真九郎を振り返る。
「……リモコンは?」
「ここ」
「……寒い」
「何度も言ってるでしょ。暖房つけっぱなしで寝たらダメだって」
「……寒いから」
「電気代がもったいない。今回も給料から天引きだからね」
135 :
◆yyODYISLaQDh
[sage saga]:2015/05/26(火) 21:41:52.33 ID:9m0+RSJ8O
「……チッ」
あからさまな舌打ちの後、切彦はダラダラとソファに戻っていった。
床に落ちたマフラーを回収して首に巻くと、今度は大きい方のソファの上で再び丸くなった。
「まったく……」
真九郎は立ち上がると、切彦が使っていない方のソファを元の位置に戻す作業に取り掛かる。
テーブルの上にはカップ麺やお菓子の袋、ジュースのペットボトルなどが散乱していたのでそれも纏めてゴミ箱に放り込む。
1年前、とある事情で彼女をこの事務所に引き入れてからというもの、ずっとこの調子である。
最初の頃こそ許していた真九郎だが、夏場になって冷房をガンガン効かせるせいで電気代の請求が大変なことになり、流石に見過ごせなくなってきたので給料からの天引きを決意。
しかし、暖房をつけなければいけない時期になってもこの有様で、改善は見られない。
真九郎は溜息を吐いてから、デスクに戻る。
書類とは言っても、依頼の内容を簡単に纏めただけのものだ。
内容は、猫探し、近所のコンビニに屯する不良少年を追い払う、人探し、浮気調査は興信所に回すとして……取り敢えずコンビニから始めるか……。
そんな具合に思索に耽る真九郎だったが、視界の隅でモゾモゾと蠢く影が気になってしょうがない。
横目に視線を送ると、太腿の裏を頻りに擦っている。
そんなに寒いならもっと暖かい格好をすればいいのに、と思う真九郎だが、これもいくら言っても聞かないのが斬島切彦なのだ。
仕方なく、暖房のスイッチを入れてやる。
生温い風が吹き出し、部屋を温める。
最低出力なので多少時間はかかったが、暫くすると小さな寝息が聞こえてきた。
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