柔沢ジュウ「雨か」 堕花雨「お呼びですか?」

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208 : ◆yyODYISLaQDh [saga]:2015/12/21(月) 22:15:50.18 ID:Hg+7sYzLO
げ、月曜日は週末だから……(震え声)
遅れてごめんなさい、今から投下します
209 : ◆yyODYISLaQDh [saga]:2015/12/21(月) 22:17:05.02 ID:Hg+7sYzLO
=====

下校中の小学生の波を眺めながら、たまに自分に向けられる挨拶に笑顔を返す。
真九郎はこの数年で保護者として既に認知されており、懐疑の視線を向けてくる者はほとんどいない。
聞いたところによると、紫の生徒名簿の緊急連絡先には真九郎の名前と電話番号が登録されているほどであり、学校側からも公認されているらしい。
紫が自慢気に語っていたので、少なくとも嘘ではない。
学校側としても、世界有数の大財閥である九鳳院家に電話をかけるより、職業不詳であろうと九鳳院家に認められている青年に連絡するほうが気が楽というのもあるのだろう。
九鳳院、麒麟塚、皇牙宮。
表御三家と言われるこの三つの家系は、日本を古くから支え、支配してきた。
その名は一般人でも知らない者はおらず、児童である紫にさえ尻込みしてしまう教師も少なくない。

「家の名は私の出自を保証するものだが、私自身ではない。しかし、不本意だが私個人よりも《九鳳院》という家の方が目立つのは仕方のないことだ」

とは、紫本人の言。
それは諦念というよりは、ありのままの事実を受け入れるという、良い意味で年齢不相応の器の大きさを表していた。
思えば、出会った頃から大人びた言動をする少女だった。
当時まだ高校生だった真九郎は、それに救われたのだ。
その生き方は、純粋にして高貴。
師であり命の恩人でもある柔沢紅香とは別の意味で、女傑と呼ばれる人間に育つだろう。
そんな遠くない未来を夢想し、遠くからその姿を見ることができればいい、と真九郎は思う。
高校も既に卒業している今、自分は完全に裏世界の住人であり、晴れて表の世界に立つことができた紫とは違う場所にいるべきだ。
210 : ◆yyODYISLaQDh [saga]:2015/12/21(月) 22:17:35.15 ID:Hg+7sYzLO
彼女がそれを望めば、真九郎はいつでも紫の前から消える準備をしてある。
しかし今のところ、紫がそんなことを望むは様子はない。
その事実に喜びを感じるとともに、自嘲の笑みすら零れる。

「真九郎!」

軽い足音とともに、真九郎の胸のあたりに小さな衝撃。
視線を下げると、長い黒髪が真九郎の視線の先に揺れていた。

「少し遅れた! 待ったか?」

ぱっと顔を上げた紫と目が合う。
その表情は嬉しさが満面に広がっており、もともとの目鼻立ちの良さが更に可愛らしく見える。
真九郎はそんな紫の頭に手を乗せて、わしゃわしゃと撫でてやる。
紫はされるがままになっており、嬉しそうに小さく笑い声さえ漏らしている。
尻尾がついていれば、それは大きく左右に振れているであろう。
しばらくそうしてから、真九郎は紫の頭に手を置いたまま話を続ける。

「俺もさっき来たぐらいだから、10分ぐらいかな。なんかあったのか?」

「うん。明日は国語のテストがあるのでな、友達に質問攻めにあって大変だった」
211 : ◆yyODYISLaQDh [saga]:2015/12/21(月) 22:18:11.59 ID:Hg+7sYzLO

真九郎の手を取り、歩きながら楽しそうに語り始める紫。
紫の学校生活は順調で、紫のおかげなのかそうでないのか、学校には表面的ないじめは存在しないらしい。
紫が直接注意をしていじめの標的になったり、逆にいじめっ子を改心させたりなどもあったらしいが、紫が直接関与しないものも含めて、徐々に無くなっていったようだ。
紫の裏表のない純粋な心が、子供達を変えていったということだろうか。
ちなみに、情報源はどこぞの忍者なので、確実だろう。
テロ対策も含めて、定期的に学校の内部をチェックしているらしい。

「(なんだかんだ、あの人も子供好きだよな……)」

犬塚弥生。
柔沢紅香の付き人で、忍者。
決して自称が付くような痛い人間ではなく、その働きぶりはまさに忍者そのもの。
何もない場所から突然現れたり、壁を走ったりもする。
真九郎は最近になって漸く気配が掴めるようになったが、そういうときは大概、弥生から真九郎に用事があるときなのでわざとかも知れない。

「真九郎!」

自分の未熟さに思索を巡らせていると、右下から抗議の声。
見てみると、紫が頬を膨らませて真九郎を睨んでいた。
212 : ◆yyODYISLaQDh [saga]:2015/12/21(月) 22:18:41.79 ID:Hg+7sYzLO

「あ、ごめんごめん。なに?」

「……今、違う女のことを考えていただろう」

紫の指摘に、ギクリ、と顔が引き攣る真九郎。
紫は昔から勘の良いところがあったが、年々その能力は向上しているような気がする。
夕乃もそうだが、どうしてこう女性というのは勘が鋭いのだろうか。
なんにせよ、紫には隠し事や嘘は無意味。
真九郎は素直に認めることにした。

「ごめん、ちょっと弥生さんとの実力差について考えてた」

「夕乃のこともな」

「……はい」

この子は本当に他人の頭の中が見えるのかもしれない。
そんなことがあるはずはないが、しかし、そう考えてしまうのも無理のないことだ。
真九郎は背中に冷や汗が流れるのを感じながら、話題転換を図る。

「今日はこの後、どうするんだ? 騎馬さんからは何も聞いてないけど」

「うむ、本当は予定が入っていたのだがな。相手側の都合でキャンセルになったのだ」

真九郎と繋いでいた手をパッと離し、今度は腕に抱きつくようにする紫。
その二の腕に頬ずりをしながら嬉しそうに笑う。

「だから、今日は真九郎だけの私だ!」
213 : ◆yyODYISLaQDh [saga]:2015/12/21(月) 22:19:35.58 ID:Hg+7sYzLO
嬉しそうに笑うその表情は、出会った頃と変わらずとても愛らしい。
成長期らしくこの数年で大きく伸びた身長は、既に真九郎の肩に迫る勢いだ。
本人曰く、胸の成長が芳しくないのが不満らしいが。
ともかく、そんな聞く人間が聞けば狂喜しそうな、紫の殺し文句を微笑ましく感じつつ、真九郎は一つの提案をする。

「それなら、久々に五月雨荘に来るか? 環さんも会いたがってたし」

「それも良いな! 真九郎の手料理も久しぶりに食べたいし」

真九郎の腕にぶら下がったまま、ゆらゆらと揺れる紫。
こういった仕草は、歳相応の実に可愛らしいものだ。

「真九郎、にやにやしてる」

「楽しいからな」

「ふふ! 私もだ!」

寄り添いながら、二人は五月雨荘に足を向けた。


〜〜


真九郎は五月雨荘の自分の部屋に入ると同時に、ここに来たのは間違いだったのだと悟った。
何故なら、昼から飲んだくれている大人が二人、真九郎の部屋で管を巻いていたからだ。
部屋には空になったビールの缶やつまみの袋が散乱し、鍵をかけていたはずのドアノブは破壊されて廊下に転がっていた。

「あー? しんくおうくん、あたしの酒が飲めないってぇのー?」

214 : ◆yyODYISLaQDh [saga]:2015/12/21(月) 22:20:21.98 ID:Hg+7sYzLO
ゴミを片付けている真九郎の腰にしがみついて絡んでいる女性は武藤環。
どこぞの空手道場の師範代で、大学を卒業して以来ますます酒癖が悪くなった。
そして、環とは別次元の大酒飲みがもう一人。

「ぎゃはは! 紅くん、ほれほれ、アルコールぶしゃー!」

消毒用アルコールを片手に卓袱台の上に胡座をかいている人物の名前は、星噛絶奈。
裏十三家の一角、《星噛》家の現当主。
かつては真九郎と敵対し、一騎打ちまでした絶奈だったが、紆余曲折あって現在は宿無しのホームレスであり、仕方なく真九郎が環の部屋に放り込んだ。
環と絶奈はあっという間に意気投合。
以来、真九郎の悩みの種が一つ増えるどころか相乗効果で何倍にも増え、もはやノイローゼ気味ですらある。
夕乃や銀子がいるときは比較的静かにしている(以前真九郎のいないところでヤキを入れられたらしい。因果応報だ)が、それ以外ではこの惨状である。

「……真九郎」

「ごめんな紫、片付けたらさっさと追い出すから――」

「これが、ダメな大人というものなのだな……」

「…………」

久々に見る身近な大人の醜態を見てそんなことを呟く紫の瞳は、どこか遠くの景色を映していた。


〜〜


部屋の片付けを終えて二人を環の部屋に押し込むと、真九郎は漸く夕食の準備に取り掛かった。
今から買い物に行ったのでは夜も更けてしまうので、適当に余り物で作ることになった。
ちょうど挽肉とトマトが余っていたので、スパゲティだ。
真九郎としては外食でも良かったのだが、紫が「真九郎と二人きりの方が良い!」と言うので、真九郎は快く従った。
215 : ◆yyODYISLaQDh [saga]:2015/12/21(月) 22:21:04.33 ID:Hg+7sYzLO

「真九郎! 次は何をすればいい?」

「じゃあ、麺が茹で上がったか確認してみてくれるか?」

「わかった!」

元気に返事をして、鍋の中に菜箸を差し込む紫。
年々、九鳳院としての仕事が多くなる紫だったが、時間が空いた時には料理の勉強をしているらしい。
曰く、花嫁修業だとか。
以前は踏み台がなければ届かなかったキッチンも、今では自由に移動して楽しそうに調理に参加している。

「うーん、もう少しかも」

「じゃあ、そろそろサラダを作るか。冷蔵庫にプチトマトがあるから、それ出して半分に切っておいて」

半年前に新調したばかりの冷蔵庫。
扉も開閉もしやすく、前の物とスペースは変わらないのに大量に収納できる優れもの。
真九郎の収入もこの数年で少しは見れるようになっており、事務所を構えたり、こうして家電を買い換えることもできた。
貯金には若干不安もあるが、銀子に報酬を支払うことすら困難だった頃に比べれば、かなり改善されたと言えるだろう。
216 : ◆yyODYISLaQDh [saga]:2015/12/21(月) 22:21:32.31 ID:Hg+7sYzLO
「紫ちゃんの伝手で仕事を回してもらっているおかげでしょ。どっちが世話されているんだか」などと銀子は不機嫌に言うが、要人が集まるパーティーの警護などの場面で、真九郎の名を知っている者も少なくはない。
おかげで、固定客とまでは言わないが、リピーターも徐々に増えている。
これも、紫と出会わなければありえなかったことだ。
いつだったか真九郎は紫のことを守護天使などと表現したが、あながち間違いではないのかもしれなかった。
そんなことを考えているうちに夕食も出来上がり、二人はテーブルに就いた。
二人揃って手を合わせ、和やかに食事が進む。
ここまでの道中では語り尽くせなかったのか、楽しそうに学校で起きたことを話す紫。
自分の小学生時代は絶望と修行の日々であった真九郎にとって、とても眩しい日々。
それを語る紫の笑顔は、出会った頃からは想像もつかないほどに、歳相応の女の子のものだ。

「それでな、私のファーストキスは真九郎に捧げた、と言ったら、その男子が急に泣き始めて……」

「やめてやれ……」

真九郎は心の中で相手の男の子に合掌しつつ、どうか呪われませんように、とだけ願っておいた。


〜〜〜〜〜
217 : ◆yyODYISLaQDh [saga]:2015/12/21(月) 22:22:27.43 ID:Hg+7sYzLO
今回は以上です。
そろそろ日常から動き出す予定です。
もうしばらくお付き合いくださいませ。
218 : ◆yyODYISLaQDh [saga]:2015/12/21(月) 22:25:44.75 ID:Hg+7sYzLO
それと>>140で言っていた「1年前」のことですが、別のスレでやります。
スレタイが電波なので、あくまで電波メインにしようかと。
それをやるときは紅オンリーになると思うので、よろしくです。
まあ、いつになるかはわからんけども……
219 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/21(月) 22:30:59.21 ID:5XXpue3lO
乙です
220 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/21(月) 22:46:05.41 ID:HNlII0FUO
乙ですね!
221 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/21(月) 22:49:31.14 ID:tyJVyY8w0
乙です
キャラの口調に違和感も無いし筆者が原作好きなのわかる文章ですわー
222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/21(月) 23:11:09.11 ID:6edvanB4o
乙!
ずっと待ってた!嬉しい!
223 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/22(火) 17:23:23.30 ID:I8n1t2hnO
待つぞ。

片山憲太郎先生のファンは待つのが得意だからな。
224 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/22(火) 20:10:34.22 ID:IlSOELnWO
乙!
素晴らしい。
新スレはこのスレで告知してもらえるのかな?
225 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/25(金) 08:25:21.60 ID:qEI2Z9770
あ、まだ紫はJSなのか
226 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/01(金) 21:42:49.29 ID:QGkobURuO
あけおめ!
227 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/07(木) 14:12:59.84 ID:IOYjVgbDO
待つのも楽しみの内
228 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/18(月) 01:02:54.28 ID:EUKflD45O
続きを書いてくれると信じている。
229 : ◆yyODYISLaQDh [sage]:2016/01/23(土) 17:25:00.71 ID:MbM1x/hHO
すまぬ・・・・・・すまぬ・・・・・・
230 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/23(土) 20:26:25.83 ID:KJrZQ83VO
待つよ。
231 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/23(土) 23:19:37.46 ID:LDrRj9/oO
待つさ。
232 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/24(日) 08:46:02.90 ID:8MAE4d/To
待ってます
233 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/01(月) 23:14:47.71 ID:hjDiscBOo
待つ
234 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/02(火) 23:04:13.40 ID:twK4Vuji0
ここはあみんの多いスレッドですね(自分も待ちながら)
235 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/02(火) 23:25:42.18 ID:2i9u/0SQO
ぺろぺろしながら待ってる
236 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/15(月) 07:36:04.90 ID:2KaRUYvMO
>>1さんや、続きはまだかい?
237 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/01(火) 12:17:01.32 ID:aL1i6/XIO
私は待つ>>1の帰還を
238 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/05(土) 01:39:45.93 ID:zXnfBpQ60
まだかい!?!!
239 : ◆yyODYISLaQDh [sage]:2016/03/10(木) 03:03:21.37 ID:1/9EGDqUO
すまん
FGOに忙しかった
今月は必ず更新します
240 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/10(木) 08:11:19.18 ID:ebBhLWN2O
マジかよ待ってたぜ
241 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/14(月) 18:20:50.19 ID:g0HOHhoOO
まつ
242 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/24(木) 21:42:14.03 ID:dDg8oSO0O
マダー?
243 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/26(土) 23:18:38.32 ID:sGeDgVaIO
今月は必ず更新する??
244 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/02(土) 08:15:51.70 ID:AH7WRMa4O
>>1さん生きてる?まだエタるには早いんじゃ無いか?
245 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/03(日) 07:21:39.38 ID:MjTD96v/0
もういいやお疲れ
246 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/10(日) 08:19:10.49 ID:leCTlBvj0
0510
247 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/13(水) 16:01:56.47 ID:frcsSg/iO
最初から読み直した。
やはり素晴らしい。
投下のテンポのせいで損してるな。
248 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/04/22(金) 18:07:31.51 ID:z4nsFNghO
生きてる?
249 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/28(木) 12:50:45.21 ID:W2h8UFUbo
まだまだ待てる
250 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/02(月) 07:36:51.32 ID:mV+VlIqVO
生存報告プリーズ
251 : ◆yyODYISLaQDh [sage]:2016/05/05(木) 04:09:32.27 ID:6pjKea2UO
生きてます
もうしばらくお待ちを
252 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/05(木) 07:48:37.54 ID:Myq1dZCeO
超待ってるよ
253 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/05/05(木) 10:10:54.30 ID:Z0/lBtDYo
生きてるだけ?
254 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/09(月) 09:05:50.04 ID:NqRqUEC70
おつ
255 : ◆yyODYISLaQDh [saga]:2016/05/10(火) 20:14:38.26 ID:FMHwTD6FO
=====


「いやー、なんか悪いねー」

まるで悪びれもせずにそんな台詞を吐く雪姫。
彼女の目の前にはケーキと紅茶が並べられており、彼女はそれらを実に幸せそうに口へと運ぶ。
対面に座るジュウは、そんな雪姫の様子を呆れ顔で眺めていた。

「それ食ったらさっさと帰れよ」

「ん〜、これも美味しい! ね、光ちゃんも食べなよ」

ジュウを無視して、光は自分の隣に座る光にフォークを差し出す。
光はフォークに乗ったケーキのスポンジを一瞥し、更に何故かジュウを睨みつけてからそれを頬張った。
咀嚼している最中も、ずっとジュウを睨みつけている。
雪姫はそんな光の様子を見て、何が楽しいのか厭らしい笑みを浮かべている。
公衆の面前で光に殴り飛ばされるようなことはなかったが、雪姫に絡まれるジュウと合流した直後、

「女ったらし」

と一言発しただけで、それきり光は一度も口を開かない。
ただひたすら、ジュウを睨みつけるばかりである。
ジュウは説得を試みたものの、光は聞く耳持たずと言った風で膠もない。
そんな中、雪姫が唐突に近くの喫茶店に入ることを提案。
昼下がりの駅前で人の目があったというのと、限定スイーツを食べさせてくれたら潔く帰ると雪姫が進言したため、ジュウは渋々承諾した。
256 : ◆yyODYISLaQDh [saga]:2016/05/10(火) 20:15:17.82 ID:FMHwTD6FO
入店の際に「3Pカップル一組」などと世迷い言を抜かす雪姫にジュウは逃げ出したくなったが、雪姫はジュウと光の手を掴んで離さず、そのままゴリ押しで入店し、カップル限定ケーキを頬張っている最中である。

「柔沢くんも食べる? はい、あーん」

「いらん」

「ちぇー、間接キスのチャンスなのになー」

マイペースな雪姫の様子に、思わず溜息が出る。
これでは光の目的が達成できないし、光の怒りも収まらない。
この女をどうしてくれようか、などとジュウが不穏なことを考え始めた頃、光が漸く口を開いた。

「……雪姫さん、今日はお姉ちゃん達と約束があったんじゃないんですか」

「あれ、知ってるの? 光ちゃんってば用意周到ー」

「…………」

「あはは、怖い怖い。なんかね、二人とも急用なんだってさ。何かは知らないけど。暇だから駅前で適当に服でも見てよっかなーと思ったら、柔沢くんがいたからちょっと絡んでみただけ」

発想がそこらのチンピラのそれである。
チンピラに絡まれれば拳で黙らせることもできるが、相手が女な上、雨の友人というのがジュウにとっては痛い。
そもそも女を殴るのは趣味ではないし、雪姫は普段はおちゃらけているものの、刃物を持てばおそらくジュウよりも強い。
雪姫は自称刃物愛好家であり、例えガラス片であろうとそれがモノを切れる物であれば、まるで二重人格者のように雰囲気が一変する。
257 : ◆yyODYISLaQDh [saga]:2016/05/10(火) 20:16:03.49 ID:FMHwTD6FO
その辺にいるチンピラや不良どもとは別の意味で相手にしたくない人間だ。

「光ちゃんと柔沢くんはデート?」

「違います」

「でも二人で待ち合わせしてたでしょ」

「たまたまです」

「柔沢くんはデートって言ってたよ」

ものすごい勢いでジュウを振り向いた光の目は飛び出るんじゃないかと心配になるほどに見開かれており、そこから非難を感じ取ったジュウは、テーブルを軽く叩く。

「雪姫、いいかげんにしろ」

雪姫は最初はヘラヘラしていたが、ジュウが眼光を強めると流石に萎縮したのか、拗ねるように唇を尖らせる。
その隣りに座る光も何故か驚きの表情でジュウを見つめていた。
ジュウは一度光に目配せすると、今回の件について雪姫に説明しはじめた。
光がしつこい同級生に好意を向けられて困っていること、安直に実際にはいない彼氏がいると言ってしまったこと、それを証明するために彼氏役が必要でそれを見せつけなければならないこと。
自身の口から説明してみるとなんとも阿呆らしい経緯ではあるが、雪姫は真面目な顔で黙って聞いていた。
説明を終えても、雪姫はジュウの目を真っ直ぐに見つめてくる。
今の話を疑っているのだろうか?
しかし、ジュウは一つも嘘をついていない。
暫く睨み返してやると、今度は光の方に向き直る雪姫。
258 : ◆yyODYISLaQDh [saga]:2016/05/10(火) 20:16:31.75 ID:FMHwTD6FO
光は雪姫の視線を真正面から受け止め、見つめ返している。
また暫くそうして、やがて雪姫は、ふうん、と言ってフォークを残っていたケーキに突き刺し、一口で平らげた。

「わかったわかった。そういうことならしょうがないよね。今日は帰りますよ」

ケーキを嚥下し、紅茶を一息に飲み干すと、雪姫は漸く納得したようだった。
光とジュウは、心の中で胸を撫で下ろす。

「じゃあ、ここは柔沢くんの奢りね」

「おい待て、なんでそうなる」

「奢ってくんなきゃ帰らない」

ジュウは再び言い返そうとしたが、目的を優先するために折れることにした。
レシートを持って支払いを済ませ、店外に出る。
先に出ていたらしい雪姫が、光に何か耳打ちをしている。
何を言われたのか、光は身体をビクつかせ、一歩離れた雪姫と目が合うと、途端に耳まで赤く染め上げた。

「おい、またなんか余計な嘘を教えてるんじゃないだろうな」

「私はね、この世のシンリってやつを教えてあげてたのだよ」

「もういい加減満足しただろ。とっとと帰れ」

ジュウがしっしと手を振って追い払うと、何が楽しいのか雪姫は大げさに手を振りながら帰っていく。
259 : ◆yyODYISLaQDh [saga]:2016/05/10(火) 20:16:59.95 ID:FMHwTD6FO
雪姫が駅の中に消えていくのを確認すると、ジュウは光を振り返る。
光は何故かジュウに背を向けて俯いていた。

「おい、大丈夫か?」

「…………ダイジョウブ」

ロボットのようにカタコトな返事をする光。
ジュウは不思議に思ったが、せっかく返事をしてくれるまで機嫌を直した光に下手なことを言ってまた怒らせては堪らない、と追求するのをやめた。
自分に背中を向けたままの光に問いかける。

「随分時間を喰われちまったが、今日はどこに行くんだ?」

光はハッとしたように顔を上げると、ちょっと待って、と言ってポケットから紙切れを取り出す。
背中越しなので詳細は見えないが、どうやら何かのメモのようだ。

「え、えっと、まずはその……服を見に、行きたいん、だけど……」

「わかった。そこの駅ビルとかか?」

「う、うん」

光は緊張した面持ちでジュウを振り返り、目的地に向かって歩き出した。
ジュウも少し離れてその横を歩く。
歩きながら光の様子を観察すると、今日は普段よりも可愛らしい格好をしていることに気がついた。
初めて遭遇したときはジャージにタンクトップという少年のような出で立ちだったのが、タイツの上にキュロットスカート、足にはショートブーツ、明るい色のダッフルコートを羽織っており、見違えるようだった。
260 : ◆yyODYISLaQDh [saga]:2016/05/10(火) 20:17:25.82 ID:FMHwTD6FO
そういえば、今まで光と会うときは制服姿ばかりであり、私服をまともに見るのは初めてかもしれない。
もともとこういう服も着るのだろうか、いや、これから行くのも服屋だというし、もしかしたら最近目覚めたのかもしれない。
ジロジロと見過ぎたのか、光が訝しげな視線を送ってくる。

「……なにジロジロ見てんのよ」

「いや、別に」

思ったよりも可愛い服を着るんだな、と言おうとしたが、また何かしらの罵声が飛んできそうでジュウは言葉を飲み込んだ。
光は女子中学生の平均身長どころか成人女性の平均身長を悠に超え、かなりの長身だ。
そのせいで雨と並ぶと光のほうが姉に間違われることもしばしばあるらしい。
そんな光が見た目相応の大人びた服ではなく、年齢相応の可愛らしい服を着ていることに、ジュウはなんとなく微笑ましさのようなものを感じていた。

「…………あっそ」

ジュウの返事に対して小さく呟くと、光は歩調を速めた。
自分の返答が気に食わなかったのか、とジュウは思案したが、他人の気持ちなどわかりようがない、といういつもの答えに辿り着き、考えるのをやめた。
そこからは二人とも無言で駅ビルに入り、そして光が適当に店に入っては服を物色するのを後ろからジュウが眺める、という状況が続いた。
ジュウとしては女性物の服と女性客に囲まれ続けるのはなんとも居心地が悪かったが、本物のデートもこんなものなのだろうか、と適当なことを思った。
ジュウはふと、以前、雪姫と二人で出かけた時のことを思い出す。
あの時には雪姫のマシンガントークが途切れることはなかったし、今の光のように仏頂面で黙っていることなどなかった。
今日も然り、雪姫には初めて会った時から振り回されてばかりだ。
いや、それは光も同じことか。

「……変態」

261 : ◆yyODYISLaQDh [saga]:2016/05/10(火) 20:17:51.46 ID:FMHwTD6FO
光の方を見ると、姿見越しに目が合った。
謂われのない罵倒なうえ、場所が場所なのでジュウは反論せざるを得ない。

「何がだ。というか、こういう場所でそういうことを言うのはやめろ」

「どうせ、雪姫さんのこと考えてたんでしょ」

どうしてこう、女というのは勘が鋭いのか。
ジュウが一瞬息を詰めたのを見逃さず、光は言葉を重ねる。

「お姉ちゃんや雪姫さんだけじゃなく、いろんな女の子を引っ掛けて歩いてるんでしょ、どうせ」

「言いがかりだ」

「どうだか」

ふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまう光。
女というのは本当に厄介だ。
やたらと勘が鋭い上に、突然怒るし、その理由もわからない。
ただ謝っただけでは許してはくれないし、かと思えばいつの間にか機嫌が直っていたりする。
こんな生き物と人生の苦楽を伴にするなど、考えるだけで辟易しそうだ。
そもそも、そんな不機嫌になるほどに嫌いな相手である自分をなぜ彼氏役などに指名するのか。
そこまで考えて、ジュウはふとあたりを見回した。
視界に入るのは女性ばかりで、たまに男もいるが、大抵は女連れ。
一人でいる男もいるにはいるが、どれも中学生には見えない風貌をしている。

262 : ◆yyODYISLaQDh [saga]:2016/05/10(火) 20:18:17.75 ID:FMHwTD6FO
「光、例の奴は来てるか?」

「え?」

「だから、お前に付き纏ってる同級生のことだよ。見る限りではいないみたいだけど」

ジュウの問いに光は暫く呆然とした後、あ、と小さく音を漏らした。

「……まさか、目的を忘れてたのか?」

「そ、そんなわけないでしょ! えーと、その、あれよ。ここに入る前まではいたわよ……たぶん」

「ふうん」

もう一度あたりを見回してみるが、それらしき人影は見えない。
ジュウと光の様子を見て諦めたのか、それとも、どこかこちらからは見えない位置に隠れているのかもしれない。

「ちょっとこの階を一周りしてくる。お前はこの辺にいてくれ」

用心に越したことはない。
そんなに大きな建物でもないし、一周してそれらしき人物がいなければ、おそらく諦めたと見ていいだろう。
後ろから光の呼び止める声が聞こえるが、すぐに戻る、と言い残して歩き始めるジュウ。
歩調は一定にせず、物陰や人の隙間、店の中なども注意深く観察する。
ジュウと光が現在いるフロアは女性物のみせしかないらしく、たまに店員から訝しげな視線を向けられるが無視。
ランジェリーショップなどもあるが、ここは流石にスルーした。
ジュウは、相手が男一人でこんな店に入れるような度胸の持ち主ではないこと祈った。
263 : ◆yyODYISLaQDh [saga]:2016/05/10(火) 20:19:32.26 ID:FMHwTD6FO
一周してジュウが元の店に戻ってくると、光の姿が見えなくなっていた。。
他の店に移ったかと近くの2、3店舗を見てみるが、そこにもいない。
それほど時間は経っていないはずだが、どこに行ったのだろうか。
電話を掛けてみようかとも思ったが、そもそも連絡先を知らない。
どうしようかと思案していると、店員がジュウに近寄ってきた。

「お客様、お連れ様ならこちらですよー」

お連れ様、と言うのは光のことだろうか。
この店にそれほど長居したわけではなかったが、どうやら顔を覚えられていたらしい。
他に手がかりもないので、店員に促されるままに店内を歩いて行く。
こちらです、と店員に案内されたのは、試着室の前。
カーテンによって仕切られている空間の足元には、光の履いていたショートブーツが揃えられていた。
なるほど、姿が見えなかったのはこのカーテンの向こうにいるかららしい。

「光、戻ったぞ」

「あっ!? ああああああんたもう戻ってきたの!?」

よほど驚いたのか、カーテンが光の動きによって大きく揺れる。
その拍子に中が見えるようなことはなかったが、ジュウは念の為に視線を逸らした。

「試着してんのか? 待っててやるから、早めに済ませろよ」

件の同級生がいないとわかった以上、こんな居心地の悪い空間に長居するのはごめんだ。
目的を達したのなら、ジュウは晴れて御役御免となる。
264 : ◆yyODYISLaQDh [saga]:2016/05/10(火) 20:19:59.30 ID:FMHwTD6FO
この駅ビルは若い女性にも人気の場所であり、それだけに誰に遭遇するかわからない。
自分は女の知り合いなど限られているが、光は友達も多いだろうし、学校でまたぞろ変な噂が立っては面倒だ。
しかし光はそんなジュウの心中を知ってか知らずか、カーテンの向こうからなかなか出てこない。

「ま、待ってるって……! あああんた、本気で言ってんの!?」

「本気も何も、俺一人で帰るわけには行かないだろうが」

なにかおかしなことを言っただろうか?
さっさと試着を済ませて、早く帰りたい旨を伝えただけなのだが。
何故かさっきの店員が少し離れたところから微笑ましいものを見るような表情をしているし、かなり居心地が悪くなってきた。

「おい、まだか?」

「ちょ、ちょっと待ってよ! すー……はー……。……あ、開ける、わよ」

カーテン越しに急かすと、光は一度大きく深呼吸をして、カーテンを勢いよく引いた。
そこには、柔らかそうな生地のフレアスカートに、厚手のタートルネックを着て佇む光がいた。
両手を胸の前で握りしめ、顔を真っ赤にして俯いている。
265 : ◆yyODYISLaQDh [saga]:2016/05/10(火) 20:20:47.12 ID:FMHwTD6FO

「…………」

「…………」

「…………な、なんか言いなさいよ」

「……なんで試着したままなんだ?」

そう、光は何故か、試着をしたままの姿で出てきたのだ。
これから帰るというのに、試着したままでは帰ることなどできない。
それとも着たまま会計を済ませて、そのまま帰るのだろうか。
ジュウが率直な疑問を口にすると、光は呆けたように口を開け、そして、真っ赤に染まった顔を更に赤くして拳を振りかぶった。

「ばかっ!!」


〜〜〜〜〜
266 : ◆yyODYISLaQDh [saga]:2016/05/10(火) 20:22:08.35 ID:FMHwTD6FO
大変遅くなってまことに申し訳無い。
今回はここまでです。
267 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/10(火) 20:38:09.10 ID:JTx11mw3o
乙です
268 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/10(火) 22:09:39.16 ID:PSth5lBdO
乙!キュンキュン来るぜ
269 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/11(水) 00:23:22.69 ID:PJLDLpY0O
くそ
ジュウ替われ
270 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/17(火) 20:08:45.91 ID:IInPq3rbO
次はいつかなー?
271 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/23(月) 23:38:07.89 ID:R46Uy6XpO
超待ってる
272 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/03(金) 22:31:57.26 ID:jLp+K2AGO
マダー?
273 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/10(金) 13:30:41.39 ID:9DbOROtaO
梅雨だよ
274 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/17(金) 23:20:49.89 ID:UEX7wiA2O
275 : ◆yyODYISLaQDh [sage]:2016/06/22(水) 20:04:31.48 ID:KzZmolM9O
長らくお待たせして申し訳ない
もうしばし
276 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/22(水) 21:38:44.46 ID:ZIVlvLnLO
おっけー
待つぜ
277 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/23(木) 02:13:02.07 ID:+SVfEIx/O
おほー待ってたよ
278 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/02(土) 00:38:21.30 ID:PlmpTPW+O
マダー?
279 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/13(水) 00:40:06.34 ID:NereEW+LO
また一から読み直した
とても素晴らしいね
読み返して思ったこと
もう1年半以上経つ
完結まで本当に6年かかるかもしれないと思った
>>47 こいつのせいだな
280 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/15(金) 19:50:55.95 ID:d2ufs8kWO
続きが待ち遠しくてビクンビクン
281 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/18(月) 00:53:36.98 ID:O8p45Egd0
おつおつ̀ー́
282 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/30(土) 16:03:43.71 ID:CjDn0OMRO
待ち遠しいビクンビクン
283 :1 [sage]:2016/07/30(土) 22:33:49.07 ID:cJpH03Wz0
284 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/01(月) 00:13:01.94 ID:aVqDNEvMo
酉のあるスレで馬鹿か
285 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/11(木) 23:29:38.52 ID:/nHWEhJI0
今追いつきました
違和感がなくてすごい・・・
286 : ◆yyODYISLaQDh [saga]:2016/08/12(金) 07:52:33.32 ID:jazHW5toO
お待たせしてほんとに申し訳ない
9月になるまでちょっとバタバタしてるので、更新はおそらくそれ以降です
287 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/08/12(金) 10:41:50.49 ID:GyaG00Ew0
288 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/09/04(日) 19:35:21.89 ID:uTbQrzSO0
うー
289 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/04(日) 21:52:18.18 ID:tSZjTCY4O
楽しみに待っておるよ
290 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/21(水) 16:39:41.39 ID:GdfLSx3TO
9月も半ば過ぎたよ
291 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/10/01(土) 07:19:39.34 ID:gwZkY8xS0
10月になっちまったよ…
292 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/12(水) 20:38:11.54 ID:g5impMbPO
おーいおーいおーい
生存確認!
293 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/10/12(水) 20:38:40.60 ID:g5impMbPO
おい!
294 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/13(木) 02:16:58.83 ID:25xmgEpkO
実生活がキツイのかねぇ…
295 : ◆yyODYISLaQDh [sage]:2016/10/13(木) 20:35:07.87 ID:PtTb73MdO
すまぬ…すまぬ…
今月中に書ければ投下したい
原作がクロス作品なのにクロスさせるの難しい…
296 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/14(金) 00:36:57.36 ID:Lnhat11iO
同じ世界だけど別世界…期待して待ってるよ
297 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/14(金) 07:50:57.76 ID:LhD5/wB/O
ギリギリすぎんだろ…
298 : ◆yyODYISLaQDh [saga]:2016/10/14(金) 22:20:35.32 ID:J8WJ1/+kO
=====


大きな窓に映る自身の姿を見て、やはり自分にはこういう格好は似合わないな、と真九郎は思った。
こういう派手な格好をするには、圧倒的に顔に貫禄が足りないのだ。
オールバックに整えた髪を乱さない程度に頭を軽く掻く。
もう成人式もとっくに終えたというのに、未だに高校生に間違われることもある。
真九郎は後ろを通った屈強な身体つきをしているガードマンを見て、その威圧感に嘆息した。
こんな自分だからこそこなせる仕事もあるのだから一概に悪いとはいえないが、いずれは九鳳院の近衛隊隊長である騎馬大作ぐらいの雰囲気は手に入れたいものだ。
もう一度、窓に映った自分の格好を眺めてみる。
比較的地味ではあるが、パーティ用のそこそこ高級なスーツに、オールバックに整えた黒髪。
真九郎は今夜、とあるパーティー会場に来ていた。
非合法な会合とか、なにかの組織が催すようなものではなく、国内外の大手企業や財閥の代表が集う、懇親会みたいなものだと聞いている。
真九郎はガードマンとして雇われてはいるが、全身黒尽くめのガードとは違い、綺羅びやかな格好をして他の参加者たちに混じり、怪しい人物がいないか目を光らせている。
今回のパーティーには九鳳院は参加していないものの、雇い主は以前九鳳院の伝手で雇ってもらった某グループ企業の会長であり、つまりは真九郎のリピーターだ。
リピーターの存在は仕事としては喜ばしいことだが、噂によると彼には衆道の気があるらしく、真九郎としては微妙な心情である。

「あら、お見かけしない顔ですわね。どちらからいらしたのかしら」

「こんばんはマダム。私、こういう者です」

参加者の夫人らしき女性に声を掛けられた真九郎は、慣れた手つきで名刺を差し出す。
女性は名刺を眺め、失礼ながら存じ上げませんね、などと愛想笑いを返してくる。
それもそのはず、真九郎がたった今差し出したのは、偽の名刺だった。
299 : ◆yyODYISLaQDh [saga]:2016/10/14(金) 22:21:25.90 ID:J8WJ1/+kO
偽とはいってもホームページや会社のビルまであることになっており、ネタばらしをするなら、銀子の手によって作られた架空の会社である。
もちろん、名前のところにも偽名が使われている。
真九郎も裏の世界で名前が広まっており、いつどこにどんな人間がいるかわからない場所では、いつも銀子が作ってくれた設定に頼っている。
裏の世界の人間ならば誰もが知る伝説の情報屋・村上銀次。
その全てを受け継いだ孫娘である銀子の情報操作は、ちょっとやそっとでは暴くことはできない。
真九郎は夫人に実態のない会社の説明をするが、彼女はさして興味もないのか、適当に聞き流しているようだった。
今回のようなスタイルでパーティーに潜入するのは別に初めてではない。
裏世界での知名度は上がったとはいえ、表世界の人間にまで認知されるほどではない。
それこそ道行く人が皆振り返るような、最高の揉め事処理屋と呼ばれた柔沢紅香ほどの目立つ人間であれば別だろうが、裏世界でどんなに仕事をこなそうが表世界では見向きもされないのだ。

「それにしてもお若いのね。失礼ですけれどおいくつ?」

「見た目ほど若くはないと自負しております。マダムこそ、随分とお若いのですね。それにお美しい」

「まあ、お上手」

夫人は口元に手を当てて上品に笑う。
最近はこんな社交辞令にも慣れてきて、口にする度に顔が赤くなるようなこともなくなった。
それから他愛もない話を二、三して、「すみません、お手洗いに」と言って夫人と別れた。
手を振る夫人を尻目に、ホールを出る。
出入り口付近にいたボーイに声をかけてグラスを二つ受け取り、トイレとは反対の方向にある階段を下って、屋敷の庭園へ出る。
無論、酔いを醒ましに来たわけでも、気まぐれに散歩をしているわけでもない。
この庭園は、つい先程まで真紅郎がいた3階のパーティーホールからよく見える位置にある。
上から一望することで、侵入者や危険物などをSPなどがいち早く発見できるようにするためだ。
しかし、この屋敷の所有者の趣味だろうか、庭園全体に薔薇などの草木が植えられており、視界が悪くなっている。
300 : ◆yyODYISLaQDh [saga]:2016/10/14(金) 22:21:52.68 ID:J8WJ1/+kO
庭師や警備の努力によって死角は極力減らされているが、上から見ても庭園の警備員から見ても死角となる部分が一箇所だけある。
頻繁にこの屋敷に招待されている者や、この屋敷を守護している者も気づかない、或いは見過ごしてしまう程の本の小さな死角。
草木によって作り上げられたその死角――そこに佇む、一人の女性。
この庭園の死角は偶然できたものではなく、人為的に作られたものだ。
真九郎の経験上、パーティーの会場で密かに逢瀬を楽しむ男女(或いは同性かもしれないが)の為に、こういった場所が設けられている屋敷は少なくないが、警護する側からすればはた迷惑な話だ。

「こんばんは」

真九郎は、その女性に声をかける。
身長は真九郎と同じ程度で、女性にしては長身。
黒い喪服のようなドレスを身に纏い、帽子を目深に被っている。
女性の装いに対して、脳裏に黒猫を抱いた魔女が浮かぶが、雰囲気や身体的な特徴から、それは違うと真九郎には断言できる。

「…………」

どうぞ、と言ってグラスを差し出すが、対する女性は口も開かないまま真九郎の顔を見つめている。
警戒されているのだろうか、と真九郎は考えるが、この場所と時間を指定してきたのは相手側であるし、さっさと話を進めろ、ということか。
真九郎は警護の仕事の為にこの屋敷へ来た。
しかし、この屋敷には、もう一つ用事がある。
それが、この女性と落ち合い、報告をすることだった。
このほんの小さな死角も、彼女が指定してきた場所である。

「あの――」

依然として沈黙を保つ女性に対して、真九郎がその報告を口にしようとした瞬間――
301 : ◆yyODYISLaQDh [saga]:2016/10/14(金) 22:22:18.68 ID:J8WJ1/+kO
――真九郎の視界の外から飛んでくる、鋭い蹴り。
それは紛れもなく、目の前の女性が繰り出した蹴りであった。
一撃必殺を思わせる速度と鋭さ。
撓るように放たれた脚は、しかし、真九郎のこめかみの手前で、ピタリとその動きを止めた。

「…………」

「…………」

女性はその姿勢のまま真九郎を観察し、そして真九郎もまた、女性を無言で観察していた。
ほんの数秒ほどそうしてから女性は元の姿勢に戻り、真九郎からグラスを受け取る。

「この程度にも反応できないの?」

漸く口を開いたかと思えば、嘲笑うような、落胆したような声色で言葉を向けてくる女性。
その声は、女性と言うよりも少女に近い、と言うのが真九郎の感想だった。
大人びてはいるがまだ少し幼さが残る雰囲気で、おそらくは真九郎よりも年下。

「定期報告のために俺より年下の方がお見えになるのは、初めてですね」

「……そうね」

帽子のせいで表情を窺うことはできないが、今の一言だけで自分の年齢を看破されたことに驚いたのか、グラスの水面に小さな波紋が起きる。
明らかな経験不足が見えるが、真九郎はあえてそこを追求するようなことはしない。
経験不足と言えば、先ほどの蹴りもそうだ。
先程の蹴りには、全く殺気が見えなかった。
302 : ◆yyODYISLaQDh [saga]:2016/10/14(金) 22:22:46.28 ID:J8WJ1/+kO
威嚇か、それとも度胸試しかはわからないが、そう判断したからこそ、真九郎は一歩も動かなかったのだ。

「まあいいわ。…………報告を」

「はい。星?絶奈、斬島切彦、ともに異常なし。引き続き、こちらで監視します」

《星?》と《斬島》。
この両家は、裏十三家に数えられる一族である。
裏十三家とは、古来から続くこの国の闇――裏の世界を支配する存在だ。
《歪空》、《堕花》、《斬島》、《円堂》、《崩月》、《虚村》、《豪我》、《師水》、《戒園》、《御巫》、《病葉》、《亜城》、《星?》。
紫の生家である《九鳳院》家を含む表御三家と、真九郎が少年時代を過ごした《崩月》家を含む裏十三家。
これらの一族によって、表と裏からこの国は支配され続けて来た。
尤も、裏十三家の方は崩月家のように裏家業を廃業していたり、他では断絶している家もあるらしい。
そんな中、《星?》と《斬島》の両家は、つい最近まで裏世界で暗躍していた一族である。
そしておそらく、この少女もまた裏十三家に名を連ねる一族の一人。

「それにしても、《円堂》の人なのに、随分と好戦的なんですね」

「…………」

敢えて、挑発めいた言葉をぶつけてみるが、先程見せた動揺を自覚しているのらしく、グラスに波紋は見えない。
しかし、グラスを持つ指が強く握られているのを、真九郎は見逃さなかった。
言葉や格好は大人びていても、雰囲気やその精神は子どもであり、素人にも近い。
なぜ、こんな少女が連絡役に寄越されたのだろうか。
そもそも今までは電話や封書でのやり取りが多かったのに、今回は直接だ。
303 : ◆yyODYISLaQDh [saga]:2016/10/14(金) 22:23:26.08 ID:J8WJ1/+kO
裏十三家の一つである《円堂》。
彼らは裏十三家の中で唯一、表の勢力と融和した一族であり、警察機構などともコネクションがある。
この国を守るためならばテロリストによる虐殺すら見逃すほどであるその性質は『完全保守』。
一年前の事件から、真九郎は当時、《星?》と《斬島》の当主であった絶奈と切彦の監視役――とは名ばかりで現在は保護者となり果てている――を買って出た。
そのとき、師である柔沢紅香を通して《円堂》は真九郎に条件を提示してきた。
それがこの定期報告である。
一ヶ月ごとに円堂の遣いの者か、もしくは指定された方法で、切彦と絶奈の状態を報告することが、切彦と絶奈を真九郎が預かるための条件だった。
《円堂》は最初、紅香に対して絶奈と切彦の抹殺を依頼していたらしい。
曰く、二人は勢力の均衡を崩壊させる火種であり、不安の芽は早々に積むべきである、と。

『お前が決めろ』

とは、紅香の言葉だ。
あのとき、瀕死の絶奈と切彦を前にして真九郎は紅香に判断を仰いだ。
このまま見捨てるのか、それとも匿うのか。
しかし、紅香は真九郎に決断を丸投げした。
そして真九郎の決断に対して、紅香は協力を約束してくれた。
もちろん、二人の抹殺を依頼してきた《円堂》の説得も、紅香のおかげで滞りなく済んだのだ。
まったく、紅香には頭が上がらない。
そして真九郎は同時に《円堂》に対する不信感も増していた。
紅香への依頼の件とは別に、真九郎は過去に何度か《円堂》に裏切られている。
思想や主義のすれ違いによるものとはいえ、何度も続けば良い感情をもてるわけもない。
真九郎が交渉の場でもないのにわざわざ挑発的な言葉をぶつけてみたのも、その感情の表れだった。

「……《星?》と《斬島》を飼うなんて、貴方、正気とは思えないわ」

304 : ◆yyODYISLaQDh [saga]:2016/10/14(金) 22:24:03.58 ID:J8WJ1/+kO
その挑発に対して少女は応えず、逆に挑発めいた言葉を返してきた。
《星?》家は、《悪宇商会》という人材派遣会社の設立に深く関わった一族だ。
人材派遣といえば聞こえはいいが、その実、ボディガードから誘拐・暗殺までなんでも請け負う、裏社会の住人が蠢く巣窟。
真九郎も、かつては《星?》の当主であり、《悪宇商会》最高顧問であった星?絶奈と対立し、殺し合った関係である。
およそ同じ人間とは思えない肉体と思想、倫理。
一度は人外の敵と見做した相手をどうして助けてしまったのか、真九郎にもよくわからない。
それでも、あの弱り切った絶奈を前にして、真九郎は手を伸ばさずにはいられなかったのだ。
しかし、《円堂》からすればそんな真九郎の心情など関係ない。
一年前の件だけでいえば被害者であった絶奈個人ではなく、表の世界にまで影響を及ぼした事件の発端である《星?》を危険視するのは当然のことだ。
そんなことは百も承知だが、理屈と感情が完璧に合致することなどそうはない。
それとも、揉め事処理屋として、一人の男として、真九郎がまだまだ未熟なだけなのだろうか。

「俺は《崩月》ですよ。裏の人間同士でつるんでいたって、別に不思議じゃないでしょう」

「…………」

真九郎の皮肉めいた言葉に対して、少女は言葉を返さない。
揉め事処理屋の紅真九郎が《崩月》の戦鬼であることは、裏世界の人間ならば誰でも知っている。
特に1年前の事件を知る者の間では、真九郎は《悪鬼》などという異名を付けられているほどだ。
そんな連中から言わせれば、紅真九郎という人間はとうに箍が外れているも同然。
更に言えば、そんな真九郎を《円堂》が警戒していないわけがない。
しかし先程の少女の発言は、まるで真九郎がまともな人間であるとでも言っているかのようにもとれる。
まるで、真九郎がどんな人間なのかを知っているような――

「そろそろ、戻った方が良いんじゃないかしら」

305 : ◆yyODYISLaQDh [saga]:2016/10/14(金) 22:24:29.82 ID:J8WJ1/+kO
――少女の言葉で、真九郎の思考は中断される。

「……そうですね、あまり離れすぎると、何かあったときに困りますから」

庭園に来てから、既に5分以上経過している。
プロの殺し屋なら、上のパーティー会場にいた人間を皆殺しにするのに、3分とかからない。
少なくとも、自分ならば――――
真九郎は無意識に、自身の左肘に爪を喰い込ませていた。
喉の奥の塊を、息とともに細く短く吐き出す。
それから、訝し気にする少女に一礼して背を向ける。
庭園から屋内に入る際に一度振り返ると、少女は死角に消えて、既に見えなくなっていた。
もしかしたら、どこかで会ったことがあっただろうか、と顔の見えない少女に記憶を巡らせて。

「まあ、いいか」

と、小さく呟いた。


〜〜〜〜〜
306 : ◆yyODYISLaQDh [sage]:2016/10/14(金) 22:28:41.35 ID:J8WJ1/+kO
毎度毎度長らくお待たせして申し訳ないです。
そのくせ、あんまり展開は進まないという始末で……
1年前のことは、以前も書きましたが別スレをそのうち立てて書くので、今しばらくお待ちを。
もしかしたらPixivに移行するかもしれませんが……いずれにしろ、このスレを書ききってからの話ですね。
それでは今回はここまでです。
307 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/10/14(金) 22:31:02.43 ID:3UK7Rcypo
乙です
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