千奈美「ようせいさんとおねえさん」

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505 : ◆S0mvz1PntgQY [saga]:2016/04/11(月) 02:06:41.37 ID:oDJHhbIB0


――――

アヤ「え、もう二人ともほとんど振り入ったの?」

伊吹「ふふん。半日あれば充分だよ」

志保「な、なんとか……」

礼子「だいたい伊吹ちゃんのおかげだわ」

アヤ「おー」

志保「そうだね、凄くお世話になった」

506 : ◆S0mvz1PntgQY [saga]:2016/04/11(月) 02:07:10.54 ID:oDJHhbIB0

伊吹「……でもなあ」

礼子「ん?」

伊吹「そのー、言いにくいんですけど。……実際は、歌が入ってもダンスに集中しちゃうんですよね」

アヤ「え、マジで」

礼子「どのくらい?」

伊吹「……バミとかカメリハだとあんまりプロンプ出さないじゃないですか」

礼子「そうね」

507 : ◆S0mvz1PntgQY [saga]:2016/04/11(月) 02:07:36.22 ID:oDJHhbIB0

伊吹「だいたい歌詞飛ばすか間違えます」

アヤ「おい!!?」

伊吹「大丈夫だよ! プロンプ見られればちゃんと歌詞つながるから!」

礼子「……歌もしっかりね。二人もサポートよろしく」

志保「任せてください」

アヤ「うおー、超がんばるぞー」
508 : ◆S0mvz1PntgQY [saga]:2016/04/11(月) 02:08:56.37 ID:oDJHhbIB0

――――

礼子「伊吹ちゃんはさ、ダンス本業でしょ」

伊吹「そうですねー。動画でも見てもらったブレイキン、ブレイクダンスが本業ですけど」

礼子「あれ凄くない? 片手で逆立ち? するやつ」

伊吹「マックスですか? ほいッ」

礼子「おおー! 意外とサラッとやるのね…」

アヤ「実際には倒立とは微妙に違うんすよ。……よッ!」
509 : ◆S0mvz1PntgQY [saga]:2016/04/11(月) 02:09:24.21 ID:oDJHhbIB0

礼子「惜しい!」

志保「ほぼ出来てるような?」

伊吹「もっと勢いつけて振り上げれば出来るよ。ていうかアヤ、チェアーできるんだから筋力的には充分だよ」

礼子「チェアー?」

伊吹「両脚を地面から離して止める技ですね。アヤ見せてあげなよ」

アヤ「アタシかよ。いいけど……ふッ」
510 : ◆S0mvz1PntgQY [saga]:2016/04/11(月) 02:11:41.28 ID:oDJHhbIB0

礼子「え、アヤあんたそんなのできたの!?」

アヤ「喋るの無理す」

伊吹「志保もステップだけなら覚えてる?」

志保「ええ、今すぐ…… どうかな……」

礼子「見たーい」

伊吹「高橋さんもやります? 教えますよ!」

礼子「あ、私は膝に爆弾あるから無理」
511 : ◆S0mvz1PntgQY [saga]:2016/04/11(月) 02:12:10.70 ID:oDJHhbIB0

――――

千奈美「別に私たちはブレイクダンスチームではないんだけど?」

伊吹「高橋さん凄いグイグイ来てたよー、めっちゃ聞かれた」

アヤ「やばそうだぞ。……何かやらかすときの顔してた」

伊吹「何かって」

志保「やらかすって」

千奈美「ほとんど決まったようなものでしょ」

アヤ「……やっぱそう思う?」
512 : ◆S0mvz1PntgQY [saga]:2016/04/11(月) 02:13:17.95 ID:oDJHhbIB0

伊吹「??」

千奈美「今練習してるの、マリオネットの心よね」

志保「うん」

アヤ「多分これ、もう一曲何かやれって話になるんだろう、ってこと。しかもブレイキンで」

伊吹「マジで! やったぁー!」

アヤ「まだ決まってない! そもそももっと深刻に考えて!」

志保「やだぁぁぁ、私ブレイクダンスなんてステップくらいしかできないよぉぉぉ」

千奈美「……どうなるのかしら、ライブ」

513 : ◆S0mvz1PntgQY [saga]:2016/04/11(月) 02:14:16.93 ID:oDJHhbIB0

――――

志保「伊吹ちゃん、電話鳴ってる」

伊吹「ん? ……高橋さんだ」

アヤ「おわーこの時間にかよ……」

伊吹「はーい小松伊吹でございまーす」

礼子『高橋だけどー、ねーねー伊吹ちゃん』

伊吹「はいこんばんはー」

礼子『こっちから曲指定して、振り付け作れる?』

志保(ほんとに来た……)
514 : ◆S0mvz1PntgQY [saga]:2016/04/11(月) 02:14:44.98 ID:oDJHhbIB0

伊吹「おっ、出来ますよ。やっぱり次のライブの?」

礼子『そうそう。こずえが歌ってみたいかも、って言ってたんだけど、アナタたち三人も主役くらいに踊ってほしいのよ』

アヤ(……何考えてんの)

伊吹「曲は決まってます?」

礼子『うちの雰囲気だと歌いにくいけど、アナタたちと一緒だったら雰囲気的に有りじゃない?ってのがね』

伊吹「はぁ」

礼子『ビジョナリー』
515 : ◆S0mvz1PntgQY [saga]:2016/04/11(月) 02:15:12.23 ID:oDJHhbIB0

――――

アヤ「で、昨日言ってたビジョナリー。伊吹わかる?」

伊吹「聴けば思い出すと思うけど」

志保「えーっとね……これー」

伊吹「……あ、ああ! これか、これかぁー……」

千奈美「まあ楽しい曲よね。ジューシーっぽくはない、てのもわかる」

志保「どうですか、伊吹センセイ」
516 : ◆S0mvz1PntgQY [saga]:2016/04/11(月) 02:15:38.68 ID:oDJHhbIB0

伊吹「これはいけませんよ」

アヤ「何がだ」

伊吹「アタシたちがガチでやればやっただけ、こずえちゃんのギャップで面白くなる」

千奈美「嫌なの?」

伊吹「にひひー。大好物! さー、振り付け作るぞー!」

志保「765さんの曲でブレイクやったことあるの?」
517 : ◆S0mvz1PntgQY [saga]:2016/04/11(月) 02:16:04.99 ID:oDJHhbIB0

伊吹「アドリブでも全然やるよ。ていうか、ステップ教えたとき乙女を大志を抱けだったじゃん!」

アヤ「だな。言われてみれば伊吹って割と『急がばまっすぐ進んじゃおう』だよな」

伊吹「『一石二鳥じゃ物足りない』し! あの曲好き!!」

千奈美「私たちに足りないの、それね」

志保「ところで、振り付けどうやって作るの?」

伊吹「ま、仕事あるから今日は実家戻るし、アタシが持ち帰るよ。次回をお楽しみに♪」

アヤ「……志保」

志保「う、うん?」

アヤ「腹を括ろう」

518 : ◆S0mvz1PntgQY [saga]:2016/04/11(月) 02:22:15.25 ID:oDJHhbIB0

――――

レギュラーはアヤ志保千奈美と伊吹です。

4/8は桐野アヤの誕生日でした。
総選挙は、出来る範囲で満遍なく投票する予定です。
519 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/12(火) 00:17:11.29 ID:CmaukKv/0
乙。
一気読みしました。いい意味で生々しいアイドル像が素敵。
ふじともが二十歳とか言ってるから特定のアイドルだけ年齢上げてるのだろうか、とか思ってしまったが、あの子もともと19歳なのね。
完全に中学〜高校のイメージになってたわ。
520 : ◆S0mvz1PntgQY [sage]:2016/05/13(金) 08:33:30.79 ID:88WoUWBlO
板分割ってなんだ…
521 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/13(金) 13:35:43.24 ID:XKcDCm5do
エロが規制くらうことになったからエロSSはエロおっけーな板に移ってね という話
522 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/31(火) 12:32:24.42 ID:NWecOi2+o
いまいちだな
523 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/15(水) 18:59:26.51 ID:O3BgxTbiO
524 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/15(水) 22:13:37.59 ID:ptz9vbDvo
>>523
しねこら書き込んでんじゃねーよ
525 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/20(月) 09:10:40.59 ID:DuQjZeZjO
え?
526 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/20(月) 19:13:10.29 ID:e3my30fno
>>525
お前も黙れ
527 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/22(水) 00:40:41.26 ID:bNjouuvBO
えええ?
528 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/22(水) 22:51:03.81 ID:VQ9NyaxCo
>>527
散れ漆黒
529 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/24(金) 09:16:38.23 ID:rkEH9TLOO
はい
530 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/01(金) 20:58:21.26 ID:sga4INwx0
0713
531 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/03(日) 16:28:09.94 ID:iHxxGEyLo
そろそろ2ヶ月か
532 : ̄ ̄\| ̄ ̄ ̄ ̄ [sage]:2016/07/05(火) 23:48:04.80 ID:0izoeFiJ0
533 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/08(金) 15:17:40.46 ID:iIUJF5eB0
534 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/07/08(金) 20:06:46.14 ID:c9RXVlVI0
おつ
535 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/09(土) 02:06:12.10 ID:akSJtwFQ0
個人的に一番好きなSSだから消えないでほしいなぁ。
536 : ◆S0mvz1PntgQY [sage]:2016/07/14(木) 01:31:41.68 ID:ZzLw40Awo
連休中に投稿予定です。
537 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/07/14(木) 05:06:40.07 ID:Bc4TTAXdO
どうだか
538 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/14(木) 08:36:27.12 ID:cuwt6Lfxo
OK
待ってるぞ
539 : ◆S0mvz1PntgQY [sage saga]:2016/07/19(火) 00:15:49.40 ID:QO0zS8C+0
――――

  「……はい、ステージ側オッケーです! ステージ裏どうですか?」

  「問題ありませーん! 出演者の皆さん撤収できまーす!」

礼子「はい了解。大丈夫ね、スタッフの皆さんお疲れ様、ゲネ終了でーす!」

  「「「「お疲れ様でーーーす!!」」」」

礼子「出演者、並びにスタッフの皆さん。明日はよろしくお願いします!」

540 : ◆S0mvz1PntgQY [saga]:2016/07/19(火) 00:16:49.05 ID:QO0zS8C+0

――――

あい「出演者各自! 衣装さんがシャワールームの前にいるから、衣装と小物預けること!」

のあ「メイク落としは各々で……シャワー待ちの間に」

あい「……え、もう終わったのかい」

アヤ「早くないっすか」

のあ「造作もない……舞台はけて直行した」

あい「身も蓋もないなあ。アヤくんたちは?」

アヤ「今日はもう終わってますけど、明日はどうするかなあーって」

541 : ◆S0mvz1PntgQY [sage saga]:2016/07/19(火) 00:17:21.28 ID:QO0zS8C+0

のあ「何を、迷って……?」

アヤ「アタシたち、こずえの都合もあるから出番終わるの早いじゃないすか。その間にシャワー浴びればいいんだけど」

あい「そうだね」

アヤ「……見ときたいんですよね。もちろん千奈美のソロも、他のみんなも」

のあ「そうするべきだと思うなら、そうなさい。すべては、自由だから」

アヤ「千夏さんたちどうするんだろ…聴いときゃよかった」

あい「メールなりなんなり、軽く聞いておけばいいのではないかな」

アヤ「そーします」

542 : ◆S0mvz1PntgQY [sage saga]:2016/07/19(火) 00:19:49.07 ID:QO0zS8C+0

――――

久美子「ああああ愛結奈ぁぁ千奈美ぃぃぃトチッちゃったぁぁああぁあぁあぁぁ」

愛結奈「まあ、あのくらい平気でしょ。よくやるし」

千奈美「よ、よくやるかどうかは置いといて、ソロさえ飛ばなきゃ何とかするわよ」

愛結奈「ダンスできてるから大丈夫よ。ほらほら、さっさとシャワー行こ」

久美子「メイク拭く……」

千奈美「私もちょうだい」

愛結奈「ワタシも。んんー、明日で終わりかー。楽しみたいよねえ」

千奈美「今だって楽しいから、きっと平気よ」

543 : ◆S0mvz1PntgQY [sage saga]:2016/07/19(火) 00:22:16.02 ID:QO0zS8C+0

――――

加蓮『お疲れー、今終わったって? こっちは今帰宅』

奏「ええ。…足は大丈夫?」

加蓮『いや、そりゃ大丈夫じゃあないでしょ。さっき痛み止め切れたよー。歩けるけどじんわり痛いね』

奏「じゃ、訂正。ゲネの間は平気だった?」

加蓮『うん! これなら明日も、本番中は充分イケそう』

奏「そう。よかった。…あんまり話せなかったから、心配したのよ」

加蓮『あはは。…明日も話せそうな時間はないんだよねー』

奏「入りギリギリまで遅らせて痛み止め打って、出番終わったら撤収、だものね」

加蓮『……頑張るよ。ガラじゃないけどさ』

奏「そうね、ガラじゃない。でも、私だってそのつもりだから」

加蓮『ふふっ。……おやすみ。また明日ね』

奏「ええ、また明日」

544 : ◆S0mvz1PntgQY [sage saga]:2016/07/19(火) 00:22:48.21 ID:QO0zS8C+0

――――

伊吹「コーラおいしい」

志保「アイスクリーム食べたい」

アヤ「お前ら……」

飛鳥「…油断が過ぎるんじゃないかな、来訪者諸君は」

アヤ「返す言葉もない……」

志保「私食べてないよ、考えてるだけだよ!」

伊吹「二宮さんもさっきコーラ飲んでたじゃん」

飛鳥「……正論は強いな。言葉を失うよ」

アヤ「返す言葉もない!!」

545 : ◆S0mvz1PntgQY [sage saga]:2016/07/19(火) 00:23:48.76 ID:QO0zS8C+0

志保「でも、ちょっとくらい自分にご褒美したい気持ちわかるよ」

飛鳥「……?」

志保「だって、こずえちゃんと二宮さんだけでしょう、最後までステージに出られないの」

飛鳥「表現そのものにおいては、年齢は障壁じゃない。……今はそれでいいのさ」

伊吹「壁っていうか、まあルールだからね。もう21時過ぎるけど、寮帰らなくていいの?」

飛鳥「交通手段の都合でね、みんなと一緒のバスに乗ることになったよ」

アヤ(……マネージャーさんに「みんなと一緒に帰りたい」って言ってたけどな)

546 : ◆S0mvz1PntgQY [sage saga]:2016/07/19(火) 00:24:41.84 ID:QO0zS8C+0

志保「夜遅いと、明日に響きますよ!」

飛鳥「何、案ずることはない、夜はボクの時間だ…… と言いたいところだが。今日は素直に寝るよ」

伊吹「あたしなんて、既に眠いけどね」

志保「小学生かな?」

アヤ「二宮さん夜更かし好きなのー? 程々になー。お茶とかコーヒーとか飲んだり?」

飛鳥「えっ、いや、そういうのは」

志保「…そういうのは?」

飛鳥「……苦いの、苦手で」

547 : ◆S0mvz1PntgQY [sage saga]:2016/07/19(火) 00:25:07.14 ID:QO0zS8C+0

伊吹「今度、グラジオラスでカフェオレでも入れてもらうといいよ。美味しいから」

飛鳥「覚えておこう。…さて、そろそろバスで待機するとしようかな」

アヤ「あいよ。アタシたちも行くかー」

志保「はーい。千奈美ちゃん声かけてこようか?」

アヤ「浜川さんたちと一緒だし、今日はいいだろ」

志保「そっか。メールだけしとこ」

548 : ◆S0mvz1PntgQY [sage saga]:2016/07/19(火) 00:25:36.18 ID:QO0zS8C+0

――――

真奈美『お疲れ様です』

礼子「はいお疲れ。こっちはつつがなく終わったわよ」

真奈美『それは何より。こっちも差し入れ準備終わりました』

礼子「ありがとー。何時頃来るの?」

真奈美『メイク始まる前には行きたいですね。昼前には』

礼子「出迎え出来るかわからないから、パスは忘れないでね」

真奈美『心しておきます』

礼子「よろしくね。……あの子たち、頑張ってるわよ」

真奈美『そうですか。……褒めてやってください』

礼子「もちろん」

549 : ◆S0mvz1PntgQY [sage saga]:2016/07/19(火) 00:34:36.53 ID:QO0zS8C+0

――――

千夏「ん、おはようございます」

真奈美「おや、おはよう」

千夏「……凄い荷物」

真奈美「差し入れだよ。こっちが終演後用のパックマスク、これはおやつのコーヒーゼリー」

千夏「いいわね、美味しそう」

真奈美「ケータリングルームにおいておくから、どうぞ。それにしても、ゆっくりだね」

千夏「そうね、ワンタイム二曲だけだから」

真奈美「そりゃそうだが。……サプライズ枠っていうのは、勝手が違いそうだな」

550 : ◆S0mvz1PntgQY [sage saga]:2016/07/19(火) 00:35:44.74 ID:QO0zS8C+0

千夏「どうなのかしら。出て、歌って、MC挟んでもう一曲やって終わり」

真奈美「まあ、なあ。言葉にしてしまえば、そうだけれども」

千夏「……本当はね」

真奈美「うん」

千夏「ここしばらく役者の仕事ばかりだったから、本格的に歌うのは半年ぶりで。ちょっと緊張してたの」

真奈美「過去形?」

千夏「……ガチガチの千秋見てたら、どうでもよくなったわ」

551 : ◆S0mvz1PntgQY [sage saga]:2016/07/19(火) 00:36:46.55 ID:QO0zS8C+0

真奈美「黒川さんも久しぶりのステージングか… 彼女は大丈夫なのか、それ」

千夏「あの子はちょっと緊張してるくらいが丁度いいのよ。そのほうが可愛いんだから」

真奈美「なるほどなあ」

千夏「それより、アヤさんのこと。……正直に言っていい?」

真奈美「この文脈で『正直に』と付けられるのは怖いがね。聞こう」

千夏「もっと、出来ないと思ってた。最初そう思ってたことを、木場さんに謝っておきたくて」

真奈美「……ずっと、現場にいるようなものだからな」

552 : ◆S0mvz1PntgQY [sage saga]:2016/07/19(火) 00:45:33.31 ID:QO0zS8C+0

千夏「報われると、いいわね」

真奈美「私が、そうしてやらなきゃいけないのさ。本当は」

千夏「それなら、今回はチャンス?」

真奈美「そうかもしれないな。……彼女たちには、そのつもりでいるように教えているつもりだけど」

千夏「伝わってるんじゃないかしら」

真奈美「今日の今日では、もう祈るしかできないね。…あの子たちは控室こっちか」

千夏「それじゃあ、また後で。 Je vous souhaite une bonne journée.」

真奈美「ああ……え、あ?」

553 : ◆S0mvz1PntgQY [sage saga]:2016/07/19(火) 00:50:02.94 ID:QO0zS8C+0

――――

レギュラーはアヤ志保千奈美と伊吹です。
554 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/19(火) 08:12:24.63 ID:HM9ebNWKo
超待ってました
この子たち好き
555 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/21(木) 00:32:12.34 ID:FjOtwHdG0
乙。待ってた。
大舞台に近づいてる感がいいなぁ。
556 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/21(木) 09:28:04.63 ID:dErS8iH/O
礼子さんのとこは

こずえ
はまあゆ
のあさん
あいさん
加蓮

飛鳥

でいいのかな。これで千奈美重用してるってクール好きだなキング。(わかる)
557 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/28(木) 02:00:53.66 ID:E7AtqkTUO
この作者のSSが好きすぎる
続き待ってます
558 : ◆S0mvz1PntgQY [sage saga]:2016/08/16(火) 00:47:37.47 ID:Hnrzybny0
お客さんの前で歌って、踊って、視線と歓声を受け止める。

言葉にすればそれだけのことだけど、それだけじゃない。


前には一万人を超えるお客さんがいて、みんながみんな、それぞれに想いと期待を持ってくる。

後ろには何十人ものスタッフ、そしてそれ以上の数の関係者がいて、やっぱりそこにはみんな誇りや願いを持ってる。


そんなに大きくないカフェで働きながら、月に一回、数十人のお客さん相手にライブをしている店員だって、

ローカルテレビ番組のMCが主な仕事のダンサーだって、全国ネットのレギュラーを持ってる現役女子高生だって、

最新シングルが数万枚売れたユニットに所属してたって、銀幕で大活躍の新進気鋭の女優だって、

古着屋のバイトだってピアニストだって事務所の社長だって。


ステージに立って、お客さんの熱気に晒されたら、大した違いはないんだ。


「……吐きそう」


ドレスルームからステージへの通路の脇、いくつかある控えスペースの片隅で、アタシは一人座り込んでる。

客観的な自分が、今の自分を指差して笑ってる。椅子に尻がへばりついたみたいだ。


声が出ない。膝が震えてる。

せいぜい百人程度しか相手にしてなかった、場末のアイドル崩れが、一万人を相手にできるかよ。

馬鹿言うなよ。自嘲が胸の中で膨らんでいく。
559 : ◆S0mvz1PntgQY [sage saga]:2016/08/16(火) 00:49:51.25 ID:Hnrzybny0

「……むーりぃー、って顔」


志保が、しゃがんで覗き込んで来る。アタシと同じ立場のはずなのに、笑ってる。


「なんで、そんな笑ってられんの」

「うーん。そうするしかないから、かな?」


かすれ声のアタシの質問に対し、首を傾げて眉を顰め、舞台上の振る舞いみたいに考え込む―遠慮なく言えば、わざとらしい―素振りを見せる。


「それとも、そうしたいから、かな。どっちだろ?」


志保は、答えを出しては来なかった。表情をコロコロ変えてから、結局笑顔に戻る。立ち上がり一歩離れると、屈伸、伸脚。


「よし」


それから重心を落として、膝でリズムを取り始める。

ゆっくりと腕を回しながらステップを刻み出した志保の足元から、キュキュッ、とリノリウムの床にソールをぶつける小気味良い音がする。


「ほら、アヤちゃん。ウォームアップしましょう♪」
560 : ◆S0mvz1PntgQY [sage saga]:2016/08/16(火) 00:52:07.26 ID:Hnrzybny0
差し出されたその白い左手を見つめたまま、仕方なしに腰を上げ、手を伸ばす。瞬く間に指を絡め取られて、強く握られる。


「……志保」


少し低い体温とわずかな汗、それと小さな震えが、指を交わして繋がれた掌を通じて、アタシの右手に伝わる。
視線は所在なく、志保の短くて綺麗な爪に漫然と留め置かれる。


「……不安だし、緊張はしますよ。解ってます」

「うん」


アタシと志保は、だいたい同じくらいの背丈、視線の高さだ。今覗き込めば、どんな顔をしているかはわかる。
だけど、わずかに動く志保の指先から視線を移すことは、しない。

だって、アタシたちは。


「だって、私たちは。同じじゃないですか」


そう、同じだから。どんな顔してるかなんて見なくてもわかる。そんなに見られて嬉しくはない顔だ。
だから、あんなに笑って、あんなに楽しそうに見せて、あんなに空回りして。自分を、鼓舞するんだ。
561 : ◆S0mvz1PntgQY [sage saga]:2016/08/16(火) 00:54:28.13 ID:Hnrzybny0
「でも、笑いますよ。私。……チャンスだもん、飛び込まなきゃ」


ほんの少し上擦った声。
……演技指導のレッスンで、こんなのやった気がする。不安なとき、緊張するとき、プレッシャーを感じているとき。


「笑うしか、ない、か」


ふと漏れた自分の呟きは、プレッシャーを処理し切れていないことが明確だった。
アタシたちは、向き合って顔を伏せたまま、しばらく黙り込んでいた。沈黙に寄り添うように、ゆるりと右手が解放され、自然、お互いに棒立ちになる。

が、棒立ちは一瞬で。


「……え。……え?」


急に、志保は両手でアタシの顔を挟んで、真正面に捉えてきた。


「アヤちゃん」


不意打ちに泡食ったアタシの顔に、ぐっ、と志保の顔が近づく。


「私、アヤちゃんに言ったよね」


少し垂れ気味の大きな目。いつもはよく笑う口は、次のことばに力を籠めるように引き絞られて。
562 : ◆S0mvz1PntgQY [sage saga]:2016/08/16(火) 00:55:52.98 ID:Hnrzybny0
「……?」

「あれが、私たちのはじまりなんだよ」

「……はじま……あ、ッ、え!?」


ああ。思い当たるセリフがある。
何考えてるんだ。ばーーーーっ、と耳の奥で音がした。血液が身体を走り回った音。

もうダメだ。体温が上がったのを自覚する。特に顔がひどい。


「『私、アヤちゃんがキラキラしてるところを見たいよ』」

「そ」


胸の奥が熱くなる。詰まって、言葉が上手く出てこない。口の中が渇いてる。


「ぅ……水、飲ませて」


どうにか一言だけ捻り出して、水のボトルを手にする。


「……うん」


中身を半口ほど含んで、こくりと喉を鳴らして嚥下する。
からだのまんなかに滑り落ちていくぬるい水が、体温を少しだけ吸収してくれる。

たっぷり深呼吸する。もどかしくてはずかしくて、ドキドキしている。……ちょっとだけな。


「……そ、れを今言、う……?」
563 : ◆S0mvz1PntgQY [sage saga]:2016/08/16(火) 00:56:33.46 ID:Hnrzybny0

何とか紡いだ言葉。志保は変わらずアタシを正面から見つめる。やっぱりくりっとしてて大きな目だ。
……アタシがここで目を反らしたら、それはまあ、何というか。裏切ることになる、気がするから。見詰め返す。


「……今言う、ことば、なんだよ」


そう言った志保の顔は、真っ赤で。だから、アタシたちは同じなんだろう。


「だから!」


……聴こえないフリ、忘れたフリしたいけど。真正面から言われた後にそれはないよな。
緊張とか不安とか全部吹き飛ばすために、自爆覚悟かよ。


「アヤちゃんも! 言え!!」

「……えぇ……」

「……言って、ください。私、ちゃんと笑いたいから」


ああ。大舞台も何もあったもんじゃない。これより恥ずかしい、緊張することなんて、そうはないよ。
564 : ◆S0mvz1PntgQY [sage saga]:2016/08/16(火) 00:58:45.48 ID:Hnrzybny0
――――

小松伊吹、趣味は恋愛映画鑑賞です。現在、ユニットメンバーとの合流のタイミングを失って、パーティションの陰から様子を伺っています。


「何あれ映画のワンシーンか。……千奈美大丈夫?」

「……いや、もう、なんか……身内の恥を……ごめん……」


こちらの椅子に突っ伏しているクールビューティは、先ほどまで声出しをされていた小室千奈美さん、向こうで赤面し合ってる二人の同僚です。
まあ、今はアタシとも実質同僚みたいなもんか。


「あーもう……こっちまで恥ずかしい…… しっかし、伊吹はあんまり緊張してない?」

「一応してる」


本心です。アタシからしたら、千奈美のほうが緊張してないように見えるんだけどね。


「緊張はあるけどさ、ダンスはアイドルやる前から本業だし、コンクールやオーディションと違って勝敗があるわけじゃないし。歌うのは気を遣うなー、ってくらい。そっちはどうなの?」

「もう飲み込めた、はず」

「なーに、手とか握る?」


ひらひらと手を差し出してみるけど、千奈美は肩を竦めて笑う。
565 : ◆S0mvz1PntgQY [sage saga]:2016/08/16(火) 01:02:43.02 ID:Hnrzybny0

「余裕よ、余裕。……礼子さんたちと一緒にオープニング出られるから、かえって自分の中でのスタート切り易いのかもね」


そうなのだ。事務所単独主催のライブなら、オープニングナンバーはその事務所の所属メンバーだけ、というのが通例(というかファン心理的にはそれが筋だよね)のところ、今回は千奈美も参加する。

北条さんが怪我の影響で動きの制限があるから、バランス取りに補填された形ではあるものの、結構珍しいケースだ。


「なるほどねぇ。……あ。じゃああっち行こう、アタシの声出しとウォームアップに付き合ってよ」

「いいけど、一緒に出ないでしょ。何やるの?」

「何でもいいけど。ウィアフレでいい?」

「伊吹、それ好きよね」

「そうだよ。アタシは好きにやりたいって、いつも言ってる」


にかっ、と笑ってみせると、小さく微笑んで、軽く握ったグーを差し出してくる千奈美。なんていうんだっけ……


「そうだ、フィストバンプ。なんか、アヤみたい」

「一緒にいるんだから。似るところだってあるわよ」


こつん、と拳をぶつける。


「同じじゃ、ないけどね」
566 : ◆S0mvz1PntgQY [sage saga]:2016/08/16(火) 01:03:20.92 ID:Hnrzybny0
――――

『真奈美。直前でごめんねー。ちょっと頼みあるんだけど。全体の香盤表持ってる?』

「そりゃまあ、三人出してますから持ってますよ」

『OK、第三控え行って、前川ちゃんとアーニャちゃん見ててくれる? 高峯ちゃんが衣装トラブっちゃって、オープニング終わるまで戻れないっぽいのよ』

「了解」

『千奈美は問題なし、こっちに任せてくれていいから、途中でアヤたちの様子もよろしく』

「元より」
567 : ◆S0mvz1PntgQY [sage saga]:2016/08/16(火) 01:06:52.10 ID:Hnrzybny0
人遣いの荒いことだ。数年前を思い出す。礼子さんと二人であっちへ行ってこっちへ行って、言われるまま仕事をこなす。


「アヤ、志保、伊吹。入るよ」


でも、あの時とは違って、ここには私の意思があり、別に誰に押し付けられているわけではない。


「お疲れ様でーす」

「お疲れ。すまんが、私はオープニング終わるまで第三控えにいる。君たちの出番にはステージ裏に付くから安心していい」


手短に用件を伝える。伊吹はドリンクを片手に。アヤと志保はプリンをつついて。
ふむ。三人とも思ったより緊張してないな(ところで、そのプリンは私もまだ食べていないぞ)。


「ありゃ。まあ、こっちは大丈夫っすよ」

「もぐもぐ。ごくん」


まあ、安心したよ。


「もっと青い顔でもしているかと思ったが、出来そうかな」

「どんなに緊張したって焦ったって、舞台が変わるわけじゃないですよ。……やれます、大丈夫です」

「うふふふふ。そうだよね♪」

「ん、そうか。そうだな。君たちが……うん、楽しんでくれれば。何よりだ」


今回はチャンスだ。呑まれるんじゃないぞ。……とは、言わない。そう。どうやるか、どうしたいかなんて、究極的には己のものだ。

そう、誰に押し付けられるものでもないんだ。
568 : ◆S0mvz1PntgQY [sage saga]:2016/08/16(火) 01:11:42.16 ID:Hnrzybny0
――――

「あれ、木場さん。どしたの?」


三人を激励してから第三控室に入った私のあいさつに、みくはきょとんとした表情を返す。そしてもう一人。


「ドーブラエ ウートラ。お疲れ様、です。おひさしぶり、ですね。キバさん」

「高峯さんが衣装トラブルで、オープニング終わるまでこっちに来られないそうだから、代理でね」


落ち着いた声で挨拶を返したアナスタシアは、みくと共にウォームアップを終えたのか、
ほんのりと頬に赤みを挿していて、上手く緊張感と折り合いをつけているように見える。


「ルームスタッフさんから聴いたし、用事も聞いてもらえるから大丈夫ですよ。でも、わざわざありがと」


予備のパイプ椅子を広げて、みくの近くに席を定める。


「何か手伝うことがあれば、と思っていたけど心配要らないかな。しかし、トラブルね」

「スカートのファスナーが噛んじゃったんだって。……私たちと出るときに一回着替えるから、その間に何とかするんじゃないかな」

「そこまで聞いてたのか。参ったな、私が特にすることなんてないじゃないか」

「アー…… 大人のひとが、いると。……ウスポカイヴァツシャ、落ち着き、ますね」

「……そう、だよ。だから、木場さん。ありがとう」


苦笑いする私に、アナスタシアが、文字通り言葉を選んで呟くと、みくは頷いて同意を示した。
そうだな、君たちは少女で、私は大人だ。
569 : ◆S0mvz1PntgQY [sage saga]:2016/08/16(火) 01:12:47.39 ID:Hnrzybny0

「ふむ」


そして、そんな大人ならではの悪戯心が首をもたげる。みくが手に持ったままの猫耳カチューシャを拝借する。


「何、大人らしく役目を果たしているだけなのにゃあ」


にゃあ。にゃあにゃあ。みくがステージ上でよくやる、ねこぱんちのポーズ。


「礼は要らないさ、仕事なのだにゃあ」


顔の前で猫の手を作って構えて見せる。意外と楽しいな。
あっけにとられた二人のうち、みくがハッと我に返って、私の頭からカチューシャを取り去り、自分の頭に付け直す。


「……ハラショー! キバさん、それ、とても、楽しいです!」

「そ、それ絶対ステージの上でやらないでよ!? みくたちの面目丸つぶれにゃあ!」

「アー… メンモク? ですか?」

「ふふ、そうだな。隠し芸にしておくよ」

「ホントにやめてにゃ!!? いくら木場さんでも……」


釘を刺してくるみくを尻目に、タイムキーパースタッフの声が飛ぶ。


『開演5分前、注意事項アナウンス入りまーす』


「……始まるよ」
570 : ◆S0mvz1PntgQY [sage saga]:2016/08/16(火) 01:17:19.91 ID:Hnrzybny0
会場内モニターに目を運ぶ。追って、二人の声が止む。視線がモニターに注がれたのだろう。
ライトが揺れる客席の照明が落ちて、歓声が上がる。


『本日は、スペシャルライブ“ジューシーホーリーナイトパーティ”にお越しいただき、誠にありがとうございます。

 開演に伴いまして、お客様に安全にライブをお楽しみいただくため、いくつか注意事項をお伝えいたします――

――――

 ――以上、ビューティーアリュールの松山久美子がお送りいたしました! それでは間もなく開演です!

 みんな、楽しんでいってね!!』


アナウンスが終わると、再びの歓声と久美子の名前を呼ぶ声援、そして拍手喝采。

そのまま、ジャズ調のBGMとスクリーン演出が始まると、拍手は手拍子に替わり、ボルテージがみるみる高まっていく。


『遊佐こずえ』『二宮飛鳥』『浜川愛結奈』『東郷あい』『高峯のあ』『北条加蓮』『速水奏』


加蓮のカットが出た際の歓声は一際大きいものだった。無理もない、怪我を押しての登壇だ。


『高橋礼子』『And More...!!』


最後、ゲスト陣のシルエット映像がきらめく光の粒になって消え、全ての演出が終わり。


『お願い! シンデレラ』のイントロと共に、幕は上がった。
571 : ◆S0mvz1PntgQY [saga]:2016/08/16(火) 01:20:02.97 ID:Hnrzybny0
――――

レギュラーはアヤ志保千奈美と伊吹です。

地の文はフォーマットが難しいですね。
572 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/16(火) 01:57:40.07 ID:rTlPpjsBO
良いところで寸止めツライ
573 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/16(火) 18:03:51.34 ID:oTQZhTjU0
ここの志保、ほんといい子だよなあ…

木場さんの過去が気になる
574 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/16(火) 18:06:52.67 ID:HrRkv+cqo

いいところで区切るなあ
575 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/16(火) 18:28:55.15 ID:Y7k8CcjEO
アヤ志保がチューするかと思った、危なかった

みくとアーニャとのあさん……? うっ、いったい何にゃん何なんだ…?
576 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/17(水) 21:32:40.77 ID:95lNTNou0
>「同じじゃ、ないけどね」
これは単純な照れ隠しなのか、なにか不穏なフラグなのか。
主人公ズの中では、千奈美の意識が微妙に異なっているというか、焦りや気負いを感じてる感があった気もするのだが。
577 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/18(木) 01:31:03.90 ID:uIkqaeaqo
アヤ志保は「夢だよねー」と言ってはいたけど、
現状楽しんでたしあんまり上に行くことを意識してこなかったから、
いざ初めての大舞台を前にビビってた感じかなあ。

千奈美は結構しっかり「でっかくなるんだ」って思ってる節があったし、
何度か壁にぶつかってたから、その辺で意識違う気がする。
礼子さんに見込まれてるのも自信になってるのかね。

…すまない…好きな話なので、このままでは長文になってしまう…
とても全ては書ききれない…本当にすまない…
578 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/06(火) 19:16:08.19 ID:4ty5wA+qo
乙です
アヤ志保の共有感というか、あの、その、とてもいい・・・
579 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/11(日) 02:38:42.36 ID:g7eADeVHO
wktk待機
580 : ◆S0mvz1PntgQY [saga]:2016/09/20(火) 04:28:44.14 ID:hFhRzfxk0
――――

『はぁーい! 皆さん、こんばんはーーッ!!』


歓声を一身に受け、笑顔で答える礼子さんがMCを進めていく。


『始まりました、“ジューシーホーリーナイトパーティ”! オープニングは“お願い!シンデレラ”を聴いていただきまして。いやあ……広いわね!!』

『全くです。礼子さんは勿論でしょうが、私たちも感慨深いですよ』

『そうでしょそうでしょ〜 ほら凄い歓声! じゃあ、今このタイミングで、メンバーに自己紹介をしてもらっちゃおうかな! まずは、東郷さん!』


客を煽ってノせていきながら、東郷さん、高峯さん、愛結奈さんと順に自己紹介を促していく。


「礼子さん、楽しそう」


呟くみくの声には、少し微笑みが混じっていた。


「みくも、楽しくやらないとね」

「ダー。ウルィプカ…笑顔、大事にします」

「ああ。笑っていれば、だいたい何とかなるさ」


そう言って、みくとアーニャに目を向けると、視線に気づいて合わせてくる。


「アイドル、なんだから。笑おう」


満面の笑みを見せてやった。


どんな時でも笑うのさ。アイドルだから。

581 : ◆S0mvz1PntgQY [saga]:2016/09/20(火) 04:29:20.03 ID:hFhRzfxk0
――――

この一年で、遊佐こずえの評価は随分と変わった。


曰く『神秘的な雰囲気がなくなった』。

曰く『コメントが上手くなった』。

曰く『歌唱力が上がった代わりに世界観が変わった』。


多分、どれも当たりだ。

約二年前、デビュー当時は、本当に天才性を露わにしていて、鈴のような歌声も、風に舞う鳥の羽と評されたダンスも、わずかな表情の変化だけで現場を呑み込む演技力も、

露出は多くなかったけれど、表に出れば確実に爪痕を残した。

『何考えてるかわからないのがいい』『歌もダンスも他のアイドルにはない雰囲気がある』なんて評価も頷ける、いわゆるユニーク―他にいない、という意味―な、オンリーワンのアイドルの一人だった。

でも、今はそういう評価は付かない。

実際には、歌なら声量が上がったし、ダンスならスタミナがついて正確になったし、演技力だって色んな形の表現を身に付けて幅が広がっている。

二年前に出来たことのうち、出来なくなったことはない。

それでも、遊佐こずえは、ユニークではなくなったんだ。

582 : ◆S0mvz1PntgQY [saga]:2016/09/20(火) 04:31:05.00 ID:hFhRzfxk0

「アヤ」

「おう」

「スタンバイだよ」

「そうだな。大丈夫?」

「平気。アヤたちは?」

「平気さ。志保も伊吹も、準備できてる」

「ん。いくよー」

「「「おーっ!」」」


だけど、それこそが、あたしにとって『成長する』ということなんだ。

あたしの中から、『子どもらしさ』が零れていくのを、毎日、感じている。

背が伸びる度に、新しいことができるようになる度に、頭の中で言葉を整えるのが早くなる度に、あたしは成長という単語の意味を噛み締める。


あたらしいこずえを、11さいのこずえのことをすきだったふぁんが、どうおもうかは、わからない。


だけど、13歳のあたしは、出来ることを全部ぶつけたい。


全力でやってやる。アイドルだから。

583 : ◆S0mvz1PntgQY [saga]:2016/09/20(火) 04:33:30.78 ID:hFhRzfxk0
――――

「こずえちゃん、ノッてるにゃあ……!」


モニターを見つめるみくの、感心と驚嘆と、わずかな焦燥を孕んだ声。


「羨望……いえ、対抗心?」

「もっちろん! 頑張るからね!! うう、緊張してきたぁ……!」


言葉ほどは緊張した様子もなく、ストレッチにも余念がない。良い傾向だわ。


「適度なストレスは、パフォーマンスを向上させる。推奨するわ。アーニャ。ペアでストレッチを」

「タカミネさん… よろしく、お願いします」

「名前でいいわ。貴女たち二人とは、長く組むつもりだから。対等でありたい。それと、ストレッチの前に」


自分でも、気難しい雰囲気のある外見だとは自覚している。そしてその第一印象に連なる性質は(全てではないが)事実だ。

だが、年下の少女二人に、ゲストというプレッシャーを負わせる私が、歩み寄らないわけにはいかない。


「それほど多くの交流もなかった貴女たちに、ユニットの結成を依頼しておいて、事前練習もライブ告知の仕事も少なくて」


深く、深く頭を下げる。


「……集合する機会を、相互理解の時間を、潤沢に用意できなかったこと。本当に……償いの言葉もないわ」


私が忙殺されていたこと。二人の学校のこと、アーニャの事務所のこと。そんな建前は関係ない。成すべきことを怠った、それは私の責任だ。

584 : ◆S0mvz1PntgQY [saga]:2016/09/20(火) 04:35:00.90 ID:hFhRzfxk0

「え、ええっ!? そ、そんなに、謝らないで、くだ、さい……?」

「ニェット… 謝る、しなくても大丈夫です。私、楽しみにしていました! 前のお仕事でも、とても、親切にしてくれました」


しゃがみ込み、顔を覗き込んでくるアーニャ。にっこりと笑って私の手を取った。


「タカ…… ンー…… ノア、が。仲良くしようと、してくれているの。わかりましたから」

「そ、そう! 大丈夫ですよ! ぁぁいや、ですよじゃなかった…… だッ、大丈夫だよ!!」


みくは、猫の手を作って私の肩をつつき、空いていた左手を取る。徐に顔を上げた私の視線に入ってきたみくの表情は、やはり笑顔。


「みくたちとのあにゃんは、そう、トモダチなのにゃ!!」


両手の先にいる友人たちに向けて、私は口の端を上げながら、意思を伝えた。


「ありがとう」


友人二人は、顔を見合わせてもう一度笑った。


「ストレッチが終わったら、笑顔の練習もしてみるといいにゃ」

「ダー。ステージでは、笑顔、大事です!」


……やはり笑顔も必要だろうか。アイドルだから。
585 : ◆S0mvz1PntgQY [saga]:2016/09/20(火) 04:35:41.84 ID:hFhRzfxk0

――――

「みくもアーニャも、あんなにやるんだ。また、ライバル増えちゃうなー」


肩を竦めて笑うけど、言葉の割に穏やかな笑顔。


「そうね。加蓮は、どんな気持ち?」


わざわざ見せてる矛盾なら、つついてあげないとね。


「うーん。……どう見える?」


質問で返すの、好きね。でも、そういうときに私がどう答えるか、わかりそうなものよね。


「嫌ではなさそうだけど」


まあ、解ってて振ってきたのかな。


「嫌ではないなー。そんなに嬉しくもないけどね」

「ふぅん? どうして?」

「そりゃまあ、特に同年代だと。被ることもあるし」


それはそうね。至極もっともな意見だと思うわ。


「あと、同僚だからって、友達になれるかどうかはね。また別だし」

「それはそうだけど。気にしてるの?」

「今はまだ、何とも思ってないよ」


事務所が違うアナスタシアさんはともかく、所属になる前川さんにこの態度は、少しだけ心配もあるけど、私が気に留めるのは…… 今はまだ、おこがましいかな。

586 : ◆S0mvz1PntgQY [saga]:2016/09/20(火) 04:36:41.59 ID:hFhRzfxk0

「……ねえ、奏」

「何?」

「“Monochrome Memory”と“Nobody Knows”。どのくらい好き?」


私たち二人のユニット、モノクロームリリィの代表曲。今日の演目にももちろん含まれている。そんな二曲への思い入れを問うなんて。唐突な質問に、思わず口から言葉が洩れる。


「……変な質問」


苦笑してから、目を伏せて、心の中から言葉を摘み取る。嘘にならないように、大事に、大事に。


「どっちも、大事な。私たち二人の歌よ」


視線を、加蓮の双眸に絡ませて。


「それ以上の意味が必要?」

「……要らない」


しばしの無言。恐らく、私の言葉を待っている。同じ質問を。儀式みたいなもの、なのかしら。


「加蓮は?」

「比べたくないよ」

「“Trancing Palse”も。私は、好きよ」


さっ、と加蓮の頬に紅が挿す。


「……それは、アタシのほうが好きだよ」

「解ってる」


私は視線を外して、ボトルのストローから水を一口。


「比べないでいてくれて、ありがとう」


椅子を立って、加蓮に手を差し出す。手を取って立ち上がる加蓮に寄り添って、脚の負担を助ける。
587 : ◆S0mvz1PntgQY [saga]:2016/09/20(火) 04:37:58.09 ID:hFhRzfxk0

「今日ね、二人、呼んだんだ」

「知ってる。差し入れ、来てたわね」


渋谷凛と、神谷奈緒。二人名義のスナック菓子の差し入れが、ケータリングスペースに並んでいたことを思い出す。


「絶対に、負けたくない」


加蓮はぼそりと呟いて、私が離そうとしたその手を強く握った。


「……誰に?」

「わかんないけど。負けたくない。……多分、礼子さんにも、みくにも、奏にも、凛にも奈緒にも、他の誰にも、他の何にも、どんなものにも」


ああ。そういうことよね。怪我を押して、曲も振付も減らして、それでもファンの前に立つ。私たちは、戦ってるんだ。


「……大丈夫。あなた自身が育てたアイドルよ」


気休めに聴こえたならごめんなさい。でも、速水奏の、数少ない本音よ。


「……アタシだけが、アタシを育てたわけじゃないよ」


ようやく私の手を離して、クスリと笑った加蓮の顔は、いつもより神々しくさえ見えて。


「大丈夫。あなたが育てたアイドルだよ」


そう言って、移動に付き添うスタッフに掴まってスタンバイ位置に向かう加蓮に、私は言葉を返せなかった。

私だけが、貴女自身だけが、貴女を、私を育てたわけじゃない。貴女も私も解ってる。

今までの全てが私たちを築いてきたんだもの。私たちはいつも、全てを懸けてる。


私たちは戦う。アイドルだから。
588 : ◆S0mvz1PntgQY [saga]:2016/09/20(火) 04:39:07.76 ID:hFhRzfxk0

――――

モノクロームリリィ。憧憬の形を示せ、というなら、ボクにとっての答えは彼女たちだ。

伝説の……とまでは行かないが、ボクがプロジェクト:シンデレラガールズを知った切っ掛けのユニット。

当時は、自分があんな煌びやかな世界に並び立とうとするなんて、露ほども思っていなかったけれど。

二人がいなければ、ボクはこの運命の糸を手に取ることはなかっただろう。

何者でもなかったボクが、外界にボクを示すための『何か』をカタチにするために。

強く、強く輝く彼女たちに、ボクは憧れた。

ボクは、きっと彼女たちに追い付きたいんだ。


「ちょっと見たことがないくらいの気迫だね」


東郷さんは、モニターを見つめて息をついた。


「奏くんか、それともトライアドプリムスか。……はたまた、怪我か。何が彼女を、加蓮くんを変えたんだろうね?」


北条さんを評する内容は、息を呑んで言葉を継げないボクの心を代弁するようだった。

モニターの向こうからでも理解する。客席は静かで、エメラルドグリーンのライトの動きも大きくない。それは北条さんのパフォーマンスに圧倒されていることに他ならない。


「何の喩えも見つからない。これを、煌きと呼ぶんだね。……感服してるよ」


これまでボクが蓄えてきた語彙は、今のボクの心情を表すのに、何の役目も果たそうとはしない。

ただ、心のいちばん外側ににじみ出た、何の飾りもない言葉だけが、ボクの感情の波形を外界に示す。

乱れに乱れた波形。速水奏と北条加蓮の表現を目の当たりにした二宮飛鳥の、悔しくて、嬉しくて、楽しくて、苦しい、ぐちゃぐちゃになったこころのかたち。
589 : ◆S0mvz1PntgQY [saga]:2016/09/20(火) 04:41:56.03 ID:hFhRzfxk0

「ボクは」

「…?」

「ボクは悔しい」

「どうしてだい」

「……単純に、CDの売上だけなら負けてないのに」


数ヶ月前、『Summer Star Stories』という企画に参加した折の話だ。ボクが参加した『Antares』と『Milky Way』は、今年度のセールスランキングでも上々で、担当曲については単独配信の話も上がっている。

翻って、モノクロームリリィだ。この一年、ユニットでの新作のリリースはなく、過去の実績も、活動において右肩上がりのボク(正確にはダークイルミネイト)にとって、それほど高い壁と捉えるほどではない。

順調に数値を伸ばせば―そして、順調に伸びるだろう―比肩できる実感がある。それでも。


「敵わない。敵う気がしない。加蓮さんの気迫にも、奏さんの存在感にも。説明もできないのに」


東郷さんは何も言わない。

ボックスティシュを差し出されて、雫がいくつも頬を伝っていたことに気付く。


「……恥ずかしいところを見せたかな」

「目。こすらないようにするんだよ」


忠告を守り、瞼や頬をティシュで柔らかく抑えれば、涙の跡がぽつぽつと刻まれる。


「……彼女たちは、真のアイドルになったんだなあ」


目を細めた東郷さんは、モニターから視線を外さないまま、溜め込んだ考えを少しずつこぼすように、丁寧に、ゆっくりと呟く。


「誰かの憧れになることは、きっと、アイドルとしての目標の一つだから」


東郷さんが、そっと、ボクと同じように目尻を抑えたように見えたのは、錯覚だったのだろうか。


「私も、君を……いや、誰かを泣かせるようなパフォーマンスを、したいね」

「……ボクもだ。負けたくない」


ボクの発した言葉は、東郷さんには、対抗心や誇りのように聞こえたかもしれない。


「いい言葉だね。さ、出る前にメイクさんに確認してもらうんだよ」

「……そうするよ」


何に『負けたくない』のだろう。東郷さんに?

……多分、事はそう単純でもない。自分への宣誓でもあるんだろう。


憧れも夢も、一種の闘争だ。なればこそ、諦観はしないさ。アイドルだから。
590 : ◆S0mvz1PntgQY [saga]:2016/09/20(火) 04:43:29.98 ID:hFhRzfxk0

――――

「ヤバくない!? あれ」


愛結奈のテンションが若干おかしい。

とはいえ、この大きさのハコで、事務所のオンリーフェスだ。無理もない。

それに何より……


「うん……モノクロームリリィの二人も相当だったけど……二宮さんも入り込んでるなあ」


久美子の言う通りで、出演者のギアの掛かり方が中々尋常じゃない。ピンでモニターに抜かれたときに解るんだけど、眼力ね。

目に現れる力の入り方が、明らかにいつもと違うのよね。


「私たちもアゲていかないとね。礼子さんには恥かかせられないし、そもそも私たちのためにね」

「ん、良い顔してるじゃない」


愛結奈も、軽い緊張感と高いテンションを保った表情だ。


「ワタシ、今回って結構決意表明みたいなところあるからさ」

「決意…… えっ、移籍でもするの?」


久美子のそれはボケのつもりなのかしら……


「むしろ逆! ……バイト辞めたのよ。もう、アイドル一本よ」


愛結奈の返答に、驚愕する久美子。私は、バイトの話しなくなったから、何となく予想は付いてたけど。


「貯金が出来たから?」

「それもあるけど。まあ、礼子さんとガッツリ話させてもらってね」
591 : ◆S0mvz1PntgQY [saga]:2016/09/20(火) 04:45:33.91 ID:hFhRzfxk0

「え、えぇ……今になってそんな重大なこと……」


久美子のショックが大きい。軽く背中をさすってやる。


「社長が、本当に、今回のライブと…… あと事務所をね、大事にしてるって解ったワケ」

「それは解るけど」

「だから、ワタシも礼子さんのコト、ちゃんと支えたい、と。思ったのよ」


頷く私。の横をすり抜けて、久美子が愛結奈の手を取る。


「愛結奈」

「う、うん?」

「私、私っ…… やる。やるわ。任せて。貴女の覚悟を台無しになんて、絶対しない」


熱っぽく語る久美子の目は、燃えていた。そう、意外と熱血タイプというか、根が単純というか。


「それに、気付いたのよ。練習で、あんなに無様を晒したんだから、もう怖くないわ。キレイな私を見せてやるんだ」

「フフッ、ありがと。……千奈美は、何か誓いの言葉みたいなもの、ないの?」


話題を振られた。一つ首を傾げて考えてみる。


「余裕よ……ってことは、ないか」

「ないの!?」

「でも、ま。やってみせるわよ。無様を晒したくはないし、それに……私をここに立たせてくれた人たちに、その選択の正しさを示したい」

「いいわね。それでこそ、ワタシのパートナーたち! ……なんてね♪」


っていうか、負けず嫌いなのよ。アイドルだから。
592 : ◆S0mvz1PntgQY [saga]:2016/09/20(火) 04:47:00.42 ID:hFhRzfxk0

――――

着替え、ヘアセット、メイク直し。全て終わって第二控室に入ったアタシを迎えたのは、一年半ぶりのメンバー。


「お疲れ様。遊佐さんとのステージ、よかったわよ」

「あれは、こずえの仕事ですよ」


声を掛けてくれた千秋さんは微笑んで、目を細めた。


「そういうことにしておくわね」

「泣いたわよ、って。言わなくていいの?」


千夏さんの横槍。アタシは思わず、えっ、と変な声を上げて千秋さんの顔を見直す。


「ッッ、そ、それは…… その…… ええ。はい。どうしてかしらね、遊佐さんと二人で、笑顔で顔合わせてるところを見たら。何故か」


千秋さんの素直な評。同じアイドル、しかも自分のデビュー当時の同僚が、今の自分のステージで泣いた、という。ファンが泣いた、のとはワケが違う、気がする。


「……あ、ありがとう……?」

「なんでおっかなびっくりなのよ」


苦笑いする礼子さん。……トレーナーさんが、膝のテーピングを直してる。


「いや、なんか……慣れなくて。礼子さんは、膝、どうですか」

「幸い、今日のところは痛みはないわね。ま、有ろうがなかろうが、ここからは全部やるわよ」

「正直、無理はさせたくないんですけど」


アタシの遠慮がちなつぶやきに、あいさんが横で肩を竦めた。


「みんなそう思ってるよ。だけど、多分、我慢させるほうが、無理なのさ」


礼子さんは、憂慮を払いのけるように手をひらひらと仰ぐ。
593 : ◆S0mvz1PntgQY [saga]:2016/09/20(火) 04:49:34.90 ID:hFhRzfxk0

「流石に今回は許してよ。まあ、ほら。このステージはね、私の夢なのよ」

「夢」


その言葉は、礼子さんにとったら、どんなに重いだろうか。


「無茶苦茶なオファーもあって、でもお金とコネが欲しくてガンガンやってさ」


木場さんとアメリカを仕事で駆け回り、帰国するやジューシーパーティの社長として旗印となった人。


「会社作ってからも、いーっぱい色んな仕事して。私だけじゃなく、みんなにも色んな仕事してもらって。泣かれたこともあったなあ」


色んな願いや想いを背負ったり選んだり、たくさんの人と出会って別れてぶつかり合って、たくさんの取捨選択を繰り返して。


「でも、泣いたり怒ったり、そういうのをしたりされたりして、それでも私が振り続けた旗の下、やっとこのハコを埋めるに至ったわけよ」


プロジェクト:シンデレラガールズが興る前から走ってきた人にとって、その“夢”は、どんなに重いだろうか。アタシは何も言えない。


「まだまだ、たくさんの夢があるし、それがどうなるかは解らないけどね」


顔を上げて、モニターを見据える礼子さんの目は、とても穏やかだ。


「でも、今、カタチになったこの夢のひとつを、フワッとした感じで終わらせたくないのよ」


みんなの視線が集まる中、礼子さんは改めて視線を自分の膝に落として、そっと、テーピングでガチガチになったそれを撫でる。


「どうせ夢を見るなら、全部投げ出して、全身全霊で夢を見たい」


衣装さんが、テーピングを隠すための黒タイツを履かせると、膝の古傷は、まるきり無いものとして姿を隠す。本当は、そんなことないのに。
594 : ◆S0mvz1PntgQY [saga]:2016/09/20(火) 04:50:34.52 ID:hFhRzfxk0

「三十路もとっくに過ぎたって、社長の肩書があったって、膝が壊れてたって、私は」


四人と、そこに居合わせたスタッフたちの顔を見渡した礼子さんは、静かに、諭すように言葉を紡ぐ。


「アイドルだから」
595 : ◆S0mvz1PntgQY [saga]:2016/09/20(火) 04:51:03.77 ID:hFhRzfxk0


アタシは、本番前だっていうのに、涙が止まらなかった。


596 : ◆S0mvz1PntgQY [saga]:2016/09/20(火) 04:52:11.28 ID:hFhRzfxk0

『全部投げ出して、全身全霊で夢を見る』

そんなこと、アタシは考えたことがなかった。

今の生活が楽しくて、不満はなくて、不安もそんなになくて。

叶いそうもない大きな夢は、見上げるだけにしておいて。

小さな夢に軽く触れて、満たされたような気分を味わうだけで、その終わりへと漫然と歩んでいたんだ。
597 : ◆S0mvz1PntgQY [saga]:2016/09/20(火) 04:53:00.30 ID:hFhRzfxk0

礼子さんは、速水さんは、北条さんは、この事務所のみんなは、礼子さんが見込んだ人たちは、違う。

壁を恐れない。不可能を恐れない。戦うことを恐れない。

夢が叶うか叶わないかは結果論だけど、夢を持つことを否定したりはしないんだ。


燃え上がる心を、自ら抑えたりは、しないんだ。

夢を見ることを、恐れたりは、しないんだ。

598 : ◆S0mvz1PntgQY [saga]:2016/09/20(火) 04:54:12.70 ID:hFhRzfxk0

アタシの流れる涙は、止まらない嗚咽は、きっと情熱が燃え上がる証だ。

今、はっきり思った。

この胸の、真っ赤に燃える熱い炎を、全力でステージに、ファンに、アタシ自身にぶつけたい。

そうだよ、アタシだって。ただの喫茶店の店員じゃないんだ。

599 : ◆S0mvz1PntgQY [saga]:2016/09/20(火) 04:57:18.57 ID:hFhRzfxk0


アイドルだから!!!


600 : ◆S0mvz1PntgQY [saga]:2016/09/20(火) 05:02:21.33 ID:hFhRzfxk0
――――

レギュラーはアヤ志保千奈美と伊吹です。

……今回、志保と伊吹が3分の1行しか喋っていない……? レギュラーとは……?
601 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/20(火) 08:35:01.72 ID:qe1du6jPo
こずえが13歳になってるということは2年の月日が流れたのね
602 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/20(火) 09:12:32.89 ID:Jpk5OlSSO
再登場したこずえがカタカナ漢字喋ってたからあれーっおかしいなーと思ったらこういうことかよ!
よ、ようせいさん…!!(目頭を押さえる)

モノクロームリリィの二人のパートすき
まず捏造曲のタイトルがすき

SSで泣いたの久し振りやぞ
朝からなんちゅーもん読ませてくれはりますのや…(ありがとう)
603 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/09/22(木) 12:35:35.30 ID:++saFWbC0
作中時間2年も経ってたのか。精々数か月かと。
そう考えると、千奈美の焦りや燻りみたいな独白も印象が変わってくるなぁ。
アヤも色々覚悟が決まったっぽいけど、「カフェ店員」の意識も強そうだった志保はどうなってるのだろうか。
604 : ◆S0mvz1PntgQY [sage saga]:2016/09/22(木) 17:28:22.54 ID:D/hhePdJo
【補足】
インタビューで「昨年の8月にデビューした」という発言と、
「8月のイベントでMCをした(=最初話していた仕事)」という発言をしています。
その後、年末年始の帰省、夏祭り等を経て今回のクリスマスライブなので、
開始時点でデビュー(初期設定年齢)から一年以上、劇中では一年半ほど経っていることになります。

長くなってしまって、時系列や関係性を読み取りにくい部分や、矛盾している部分があると思います。
不明な点や解釈に迷うところ等、ご質問には答えられる(≒考えてある)範囲でお答えします。
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