【安価】いつも、何度でも。─千と千尋の神隠し その後の物語─
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6:湯屋 ◆va2KrOhAnM[sage saga]
2025/01/20(月) 23:43:39.78 ID:YHu7yDPj0
 草の茂る斜面を登るたびに、夏草の匂いが濃くなった。

 環奈は額の汗をぬぐいながら、足元を慎重に確かめつつ進む。

 「(こんなに歩いたの、久しぶりかも……)」

 普段は学校と家を往復するだけで、わざわざ外を歩くことなんてほとんどなかった。体育の授業でも、走るのは遅いし、ボールを投げても飛ばない。運動は得意じゃない——というより、そもそも好きじゃなかった。



 やがて、視界が開けた。

 環奈は目の前の風景に、思わず足を止めた。

 そこには、干上がった河原が広がっていた。

 かつては川だったのだろう。けれど今は、石と砂利がむき出しになり、ところどころに浅い水溜まりが残っているだけ。かろうじてチョロチョロと細い水が流れているが、それもまるで息絶え絶えのようだった。

 対岸は石段になっていて、古びた灯籠が並んでいる。

 

 環奈は河原へと足を踏み入れた。

 水を避けながら、大きな石から石へと慎重に移動していく。

 ——ぴょんっ。ぐらっ。

 バランスを崩しそうになり、慌てて手を広げる。

 「うわっ……!」

 なんとか踏みとどまり、浅い水たまりに足をつっこむのは免れた。

 環奈は小さく息を整えると、石から石へと渡り続け、そして、ようやく対岸の石段へとたどり着いた。



 上へ登ると、再び視界が広がった。

 環奈の目の前には——奇妙な町が広がっていた。

 雲ひとつない、ギラつく青空。その下に並ぶのは、どこか異国のような町並みだった。

 派手な色をした飲食店がずらりと並び、それぞれカウンター式の造りになっている。

 看板には、意味不明な文字が書かれていた。

 『め』
 『唇』
 『生あります』

 けれど—— この町には——人の気配がまったくなかった。

 誰もいない。

 静まり返っている。

 環奈はポケットからスマホを取り出し、マップアプリを開いた。

 しかし、画面の右上には、冷たく無機質な表示が浮かんでいた。

 『圏外』

 環奈は、思わず喉を鳴らした。


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