【安価】いつも、何度でも。─千と千尋の神隠し その後の物語─
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湯屋
◆va2KrOhAnM
[sage saga]
2025/01/20(月) 23:33:46.80 ID:YHu7yDPj0
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風が生温く肌を撫でる。セミの声が耳の奥でじりじりと響き、強い日差しがアスファルトを白く照り返していた。
白石環奈は、ラベンダー色のランドセルを肩から外し、片手でぶら下げながら歩いていた。学校から家までの道のりは、ただでさえ退屈なのに、今日の空気はやけにまとわりつくようで、ますます気が滅入る。
まっすぐ帰る気にはなれなかった。別にどこへ行きたいわけでもない。ただ、家に帰っても母親は自分の友達と出かけているか、電話に夢中で、ろくに顔を合わせることもない。父親に至っては、何ヶ月も帰ってきていなかった。
「(どうせ、どこにいてもつまんない)」
気まぐれに道をそれて、近くの森林に足を踏み入れる。
日陰に入ると、少しだけ風が涼しく感じた。獣道に沿って歩いていくと、鳥の鳴き声や葉擦れの音がして、さっきまでの町の騒がしさが遠ざかっていく。
ふと、足を止めた。
目の前に、崖に面した古びたトンネルが口を開けていた。
赤いモルタルの壁。上の方には、まるで何かの建物の一部のようなものが見えた。古い、でもどこか異様な存在感を放っている。
「(なんだろう、これ)」
環奈はじっとトンネルを見つめた。胸の奥で何かがざわめく。
学校でも家でも、自分の居場所なんてどこにもない気がしていた。けれど、このトンネルの向こう側には——何かがあるような気がした。
無意識に、環奈の足が前へ進んでいた。
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