2:URAAKA[sage saga]
2024/11/14(木) 19:18:23.00 ID:wnkKP7FO0
常連客は少しだけ黙り込んだ。カップを置き、外の雨音に耳を澄ませる。
「でもさ、変わり続けることって、怖くない?」常連客はふとそんな言葉を漏らした。「変わってしまったら、もう戻れなくなる気がして。それが、なんだか怖いんだよ。」
マスターは穏やかな目をして、その言葉を受け止める。彼はゆっくりと腕を組んでから、少しだけ視線を外に向けた。
「変わることが怖いのは、誰もが感じることだろう。でも、怖いからこそ人はその変化を求め続けるんだ。恐れを感じながらも、前に進むことで初めて、新しい自分に出会える。」
常連客は首を傾げてマスターを見つめる。「でも、もしその変化が自分を失わせてしまったらどうする?」
マスターは一度深く考えてから、静かに言った。「それもまた一つの可能性だ。しかし、もし自分を失ってしまったとしても、それは新しい自分を見つけるための一歩に過ぎない。」
常連客は言葉を呑み込み、少しの間黙ったままでいた。マスターが言う通り、変化には痛みが伴うこともある。しかし、痛みを恐れて立ち止まってしまうことが、もっと怖いことなのかもしれない。
「マスター、僕は……変わりたくないと思ってた。でも、きっと変わらなければ、僕はどこにも行けないんだろうな。」
マスターは微笑みながら、カップを持つ手を少しだけ力強く握った常連客を見つめていた。
「変わりたくないという気持ちも、もちろん理解できる。でも、変わらずにいることもまた、ひとつの変化だよ。」
その言葉が心に染み渡るようだった。常連客は目を閉じ、深く息をついた。
「ありがとう、マスター。」そう言って、また静かにカップを持ち上げた。
店内の空気が、少しだけ柔らかく感じられる。外の雨はまだ降り続けているが、この喫茶店の中では、時間がゆっくりと流れているように思えた。
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