【ブルアカ】カヨコ√に入った-SS速報VIP

【ブルアカ】カヨコ√に入った

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1:名無しNIPPER[sage saga]
2024/10/19(土) 19:16:14.14 ID:FPzf9Wlv0
そろそろ出ようと扉に手をかけたところで、カヨコは立ち止まった。
玄関の外から慌ただしい物音が徐々に近づいてきていた。沈黙し、手を戻して、数歩だけ扉から下がった。
ドタバタとした足音が扉の前で止まって、

「ああ、もう…鍵、鍵…！」

慌てた声と身をまさぐる音が扉の向こうから聞こえてくる。

「開いてるよ」

カヨコが声を掛けると、扉の向こうにいる人物が押し黙った。
すぐに扉が開くと、驚いた表情のアルが顔をのぞかせた。

「カ、カヨコ…？今日は、有給じゃなかった…？どうして事務所にいるの？って、それどころじゃなくて！」

言いながら、焦った様子で事務所に入り込んで、カヨコの横を慌ただしく通り過ぎる。

「今日、三人で仕事してたんじゃなかったの？」

「そうなのよ…！今もう、大変で…！」

自席に駆け寄るアルを目で追いながら、扉に背を向ける。
パーカーのポケットに手を突っ込んで、ドタドタと忙しない物音に近づいた。

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2:名無しNIPPER[sage saga]
2024/10/19(土) 19:17:42.40 ID:FPzf9Wlv0
「トラブル？」

「簡単な依頼だったはずなのにぃ…！」

「それ、いつも言ってる気がする」

3:名無しNIPPER[sage saga]
2024/10/19(土) 19:19:54.39 ID:FPzf9Wlv0
「そんなこと言ってる場合？」

「矜持の問題よ！せっかくカヨコが私達を信用して有給を取得したというのに！」

「そんな重い感じで申請してないけど…本当に、手助けいらないの？」

4:名無しNIPPER[sage saga]
2024/10/19(土) 19:20:59.02 ID:FPzf9Wlv0
「…カヨコ！」

「…なに。社長」

「…やっぱり前言撤回するわ」

5:名無しNIPPER[sage saga]
2024/10/19(土) 19:22:12.23 ID:FPzf9Wlv0
両耳をイヤホンで塞ぐとお気に入りのヘヴィメタルが耳元で騒ぎだした。
そして、いつもどおりのパーカーに、リュックを肩にかけて、街中を歩く。
けれどもカヨコの指は落ち着きなく、耳に付けたピアスをしきりに触っていた。
今日はいつもとは違う色のピアスにしていて、これで劇的に何が変わるということはないものの、それ以上の冒険を今日のカヨコの自意識が邪魔した。

6:名無しNIPPER[sage saga]
2024/10/19(土) 19:23:12.27 ID:FPzf9Wlv0
「大丈夫？」

比較的小柄な生徒で、制服を見るにミレニアムのようだった。気が緩んでるな、と、カヨコがイヤホンを外しつつ、手を差し出す。

「ああ、ごめんなさい…ありが…ひいっ！」

7:名無しNIPPER[sage saga]
2024/10/19(土) 19:24:08.17 ID:FPzf9Wlv0
「はぁー…」

いっそのこと、着物やドレスを着ていたときのように振り切れば違うだろうか。
先生は、可愛いって、言ってくれてるし…。
…。

8:名無しNIPPER[sage saga]
2024/10/19(土) 19:25:18.97 ID:FPzf9Wlv0
遠くから見かけたとき、いつも先生に声をかけるか躊躇する。
先生はたいてい誰か生徒と一緒に歩いているから。
そうでないときは何かで急いで走ってたり、やたらと忙しそうにしている。
前まではカヨコからの誘いも、申し訳無さそうに断ることがしばしばあった。ところが近頃はそうでもなく、自惚れでなければ、自分を優先してくれている気さえする。
先生に限って、特定の生徒を優遇したりとかはないとも思うけど。

9:名無しNIPPER[sage saga]
2024/10/19(土) 19:26:28.12 ID:FPzf9Wlv0
「ごめんね。待った？」

「いや、ちょうどきたところだったよ」

「本当に？待ちくたびれてそうだけど」

10:名無しNIPPER[sage saga]
2024/10/19(土) 19:27:44.04 ID:FPzf9Wlv0
便利屋のみんながいるところは別として、騒がしすぎるのは好きではない。
音楽が好きだというのも、前までは周りと離れて一人と誰かの世界に浸れるからだった。いわば煩わしい世界と自分を切り離すためのツールだ。
だから好きな音楽を誰かと共有するということは、今まで生きてきた中での自然な発想にはなかった。
我ながら浮かれていると思う。

11:名無しNIPPER[sage saga]
2024/10/19(土) 19:29:08.12 ID:FPzf9Wlv0
カヨコは嬉しそうに笑ってベンチに指をかける。
先程まで親しんでいたリズムを機嫌よく指先で模倣しだした。
タン、タン、タタンと、気持ちよさそうに指が弾む。

「〜…♪…♪」

12:名無しNIPPER[sage saga]
2024/10/19(土) 19:30:07.85 ID:FPzf9Wlv0
…私は、この人のことが好きだ。

いつ頃から自覚しだしたのかは定かではない。
それでも、この心地いい時間を共有してくれるこの人を、随分前から特別に考えていた。

13:名無しNIPPER[sage saga]
2024/10/19(土) 19:31:42.15 ID:FPzf9Wlv0
カヨコは震えそうな息をこっそり吐いた。

「…あのさ、先生。よければ、なんだけど」

「うん？」

14:名無しNIPPER[sage saga]
2024/10/19(土) 19:32:53.15 ID:FPzf9Wlv0
「いやいや、カヨコとご飯を食べられるチャンスを逃す私ではないよ？」

「なに、それ…まあその…先生、忙しそうだしさ…」

「そうして一人さみしくカップラーメンを食べるときの寂しさがね…」

15:名無しNIPPER[sage saga]
2024/10/19(土) 19:34:22.87 ID:FPzf9Wlv0
カヨコの端末が急に鳴った。カヨコはすぐに端末を取り出して着信元を見た。

「…迷惑電話だった」

「あはは。あるある」

16:名無しNIPPER[sage saga]
2024/10/19(土) 19:35:16.74 ID:FPzf9Wlv0
「心意気…」

「大切に思われてるんだね」

「…そう、だね。おせっかい、でもあるけど」

17:名無しNIPPER[sage saga]
2024/10/19(土) 19:36:29.53 ID:FPzf9Wlv0
来るものは強いて拒むことはしない。けれどもこちらから追うことはなく、そのスタンスでずっとやってきた。
一人ぼっちになりかねないその生き方で今までやってこれたのは一人で生きていられる能力があったからだし…おせっかいな人に恵まれたからでもある。
便利屋のみんなと過ごすのは楽しくて、居心地が良くて、ふと、安らいでいる自分に気がつく。

それでも、もう少しこれに加えて…他にも欲しいものができて、それを望むのは、贅沢だろうか。

18:名無しNIPPER[sage saga]
2024/10/19(土) 19:37:53.92 ID:FPzf9Wlv0
「可愛い…のかな？」

よくわからない。なんとなく前髪をいじる。言ってくれるのは先生くらいだ。
自分ですら怖い顔だと思っている。
でも…。

19:名無しNIPPER[sage saga]
2024/10/19(土) 19:38:52.59 ID:FPzf9Wlv0
「…っ」

もちろん、先生が生徒と恋愛関係になることを肯定するはずもないけど…それでも…。
…いつも、本心から褒めてくれているのなら、
先生も一緒にいる時間を、私と同じように、特別に思ってくれているのなら…期待してもいいのだろうか。

20:名無しNIPPER[sage saga]
2024/10/19(土) 19:40:34.03 ID:FPzf9Wlv0
落ち着いた雰囲気の店だった。
客はいるのにささめくような静けさで、クラシックの上品なBGMが控えめに流れていた。
案内された、真っ白できれいな布に覆われたテーブルに二人で向かい合って座る。
係がメニューについて説明しに来て、いくつか料理を頼んだ。

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