4: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/03/31(日) 20:55:53.69 ID:XVRz4++K0
♦
「僕は、正しかった」
街を囲む堀と防壁を目にして、口をついて出た言葉がそれであった。
5: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/03/31(日) 20:56:35.13 ID:XVRz4++K0
きれいに整った石畳の大通り、そして道沿いに並ぶ色鮮やかなテント張りの商店。
目に映るどんな光景も、故郷で見ることの無かったものだ。
初めて見る街並みにも圧倒されるが、それよりも目につくのは戦支度に勤しむ大勢の人々だ。
多くの人が皮鎧を身に着け剣を腰に差している。だが、どうも身のこなしがぎこちない。
6: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/03/31(日) 20:57:15.83 ID:XVRz4++K0
ああ、そうか。彼らも僕と同じなのだ。
これまで剣を振るう機会に、見舞われてこなかった人たちなのだ。
故郷を襲った魔物の軍勢。あの恐ろしい怪物達が、今度はこの街を襲うのだろう。
7: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/03/31(日) 20:58:05.94 ID:XVRz4++K0
「坊主、大丈夫か?」
行くあてもなく呆けていた僕に声をかけてきたのは、髭を生やした男であった。
身に着けている武具は、どれも使い込まれており周囲の人たちと違い様になっている。
8: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/03/31(日) 20:58:55.12 ID:XVRz4++K0
「何でまたこんな時に、街に来たんだ」
「二日前、村が魔物に襲われた」
9: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/03/31(日) 20:59:47.19 ID:XVRz4++K0
「うん」
「領主様の館で、食事が振舞われてる。この道をまっすぐ、広場を抜けた丘の一番上だ」
10: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/03/31(日) 21:00:31.32 ID:XVRz4++K0
館の前には、大きな机がいくつも並べられ大勢の人が食事をとっている。
驚くべきは、その料理の豪勢さだ。
村では祭りの時でしか口にしたことの無い豚や羊が、ピカピカのソースで光り輝いている。
11: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/03/31(日) 21:01:06.74 ID:XVRz4++K0
しかし、一方で料理に向かう人々は一様に身一つで薄汚れている。
美食とも呼べる料理と、みすぼらしい人々のその対照的な姿に違和感を禁じ得ない。
おそらく、彼らは僕と同じく何処かの集落から、逃れてきた人たちなのであろう。
12: ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/03/31(日) 21:01:59.99 ID:XVRz4++K0
「背負ったまんまじゃ食事もできないでしょ。使用人の部屋で寝かせておいてあげるから」
僕は、妹を起こさぬようそっと女給仕に渡す。
13:今日はここまで ◆CItYBDS.l2[saga]
2024/03/31(日) 21:02:41.28 ID:XVRz4++K0
大食漢がその大きなお腹のせいか二人分の席を使っていたせいで、僕は少し気後れしながらも目の鋭い男の隣に腰をおろした。
間近で見る料理は、圧巻の一言であった。
僕の顔よりも大きいパンに、思わず声があがる。
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