80:名無しNIPPER[saga]
2023/08/15(火) 01:01:56.71 ID:FWncGyjko
「…携帯のライトが誤作動したみたいです」
杖の光を必死に手で覆い隠しながら答える。
その時どうして嘘をついたのか俺にも分からない。多分、自分のものじゃないっていう引け目が心のどこかにあったのかもしれない。
「…ふーん。ま、いいや!それじゃ、君も気をつけてね。周りの子にもそれとなく注意してあげて。だって…」
暮林さんは俺の近くによって耳打ちしようとする。彼女からは甘い匂いがしたが、次の一言でそんな意識は霧散した。
「大事な人が、急にいなくなるなんて嫌でしょ?」
い、居なくなるって、そんなこと…。
俺が動揺から回復する前に、暮林さんはヒラヒラと手を振りながらその場から立ち去った。
「…そんな馬鹿なこと」
そう呟きながらも視線は自然と下を向く。そこで、杖の方に意識が向いた。ポケットから取り出すと、杖は光を失い至って普通の状態に戻っていた。
「何だったんだ、今の…」
すると今度は本当に携帯が光った。椎名の母親からの着信だ。
「はい」
『ああ、不動くん。突然で悪いんだけど、うちの愛理沙は一緒に居る?』
「…居ませんけど、まだ帰ってないんですか?」
『そうなの。まあ、滅多なことはないと思うんだけど念のためにね。何処かに行くって聞いてたりする?』
「それなら、NPOの所に…」
『ああ、そうだったの。じゃあちょっと遅れてるだけかしらね。それじゃ、ありがとうね〜』
そう言って椎名の母親は電話を切った。
「…」
確かに椎名はNPOに今日行く予定だ。…でも、それにしたって遅くないか?もう日が暮れ始めてる。ただ脱退するだけでこんな時間が…
その時、暮林さんの言葉が脳内で木霊する。
『人身売買……大事な人……居なくなる』
そんな…まさか…!ありえない、ありえないとは思うけど…。
最悪の事態が脳裏をよぎる。念の為だ、NPOの所に行って椎名がいるか確かめよう。幸い、場所なら椎名に聞いてたし。
そう考えた俺は、自然と駆け足で椎名が居るはずのNPOのもとへと向かっていた。
今日はここまで。
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