91:名無しNIPPER[saga]
2023/06/14(水) 20:31:21.69 ID:O7ZfLRFN0
ここのところの僕は、ソロモン・グランディの歌に準じることに固執してしまっていたけど、本当に大事なことはそこじゃない。たとえ僕が、僕の望む平凡な人生を迎えられないとしても。僕は、かつて僕が抱いたこの人生を楽し気に過ごして見せるという気概は失っていない。
92:名無しNIPPER[saga]
2023/06/14(水) 20:31:54.36 ID:O7ZfLRFN0
もう木曜は「病気」だだの、金曜は「危篤」だの言うのは辞めよう。僕の人生、これから何が待ち受けているのかなんて知りようが無いのだから。ならば、どんなに苦しく悲しい出来事が待っていたとしても、僕は僕自身の人生を、面白おかしく歌い上げればいい。そのやり方だけなら僕だって知っている。
いつだったか、ソロモン・グランディが教えてくれたんだ。
93: ◆CItYBDS.l2[saga]
2023/06/24(土) 16:32:43.58 ID:r4k1/UK80
◎ 2095年7月30日 土曜日 ◎
僕は、とてつもなく寝相が悪い。
94:名無しNIPPER[saga]
2023/06/24(土) 16:33:20.14 ID:r4k1/UK80
目が覚めたら上下が入れ替わっているなんてのは序の口で、ベットから落ちて床を這いずり回ることもしばしばだ。加えて鼾もすごいらしく、結婚以来、妻とは寝床を別にしていた。なんとも寂しい結婚生活に聞こえるかも知れないが、妻に迷惑をかけることに比べれば気楽なものだった。
95:名無しNIPPER[saga]
2023/06/24(土) 16:34:11.59 ID:r4k1/UK80
そんな僕が、今日は頭から足の先まで針金を通したかのようにピンと伸ばし微動だにせず眠っている。どんなに耳を澄ましてもいびきも寝息も聞こえてはこまい。それどころか、心臓の鼓動音だってたてようはずがない。だって僕は、もう死んでしまっているのだから。
96:名無しNIPPER[saga]
2023/06/24(土) 16:36:03.56 ID:r4k1/UK80
まさか、自分自身の死について語ることができる日が来るとは思いもしなかった。肉体から精神が解き放たれて身軽になったおかげか、年の割に体の調子はすこぶる良い。いや、この場合は体の調子というより魂の調子と言った方が良いのかもしれない。
97:名無しNIPPER[saga]
2023/06/24(土) 16:37:51.31 ID:r4k1/UK80
ソロモングランディで言うところの、「木曜」と「金曜」、すなわち「病気」と「病気の悪化」は僕には訪れなかった。そりゃあ、風邪やインフルエンザに罹ったことはあるけど、その程度なら経験したことの無い人の方が少ないはずだ。若い時に入った医療保険の保険料を数えれば、良いバイクの1台ぐらいは容易く買えたかもしれない。保険会社にしてみれば、さぞ良いお客様だったことだろう。
98:名無しNIPPER[saga]
2023/06/24(土) 16:39:03.74 ID:r4k1/UK80
しかし、病気をしないというのも考え物だ。だって僕は、つい昨日まで自分の足で歩けていたし、何なら明日は河川敷をジョギングでもしようかと考えていたほどだ。それが、寝て起きたらもう死んでいたから困ったものだ。死の前兆が無かったせいで、悔いをたくさん残してしまった。死ぬとわかっていれば、とっておきの羊羹だって食べておいたのに。
99:名無しNIPPER[saga]
2023/06/24(土) 16:39:42.22 ID:r4k1/UK80
ただ、年相応に死ぬ準備だけは済ませておいて正解だった。遺影は毎年取り直しておいたし、遺産の分け方についても家族と相談を済ませてある。残された家族は、きっとスムーズに事を進めてくれていることだろう。
100:名無しNIPPER[saga]
2023/06/24(土) 16:40:54.40 ID:r4k1/UK80
絶賛開催中の僕の通夜には、親族が山程集まって来た。しかし、長く生きていればそりゃあ親族だって増えるものさ。僕の子供たちが孫を生み、孫が曾孫を生み、曾孫が玄孫を生む。そうやって鼠算式に家族が増えていく。そういう年齢になるまで、僕は生きてきた。
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