ソロモン・グランディに憧れて
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8:名無しNIPPER[saga]
2023/05/01(月) 13:55:57.38 ID:dOgL4Yt70

 現に、父は母の隣でイタズラがばれて叱られた子供のようにバツの悪そうな顔をしている。その様子からは父には反省の色を伺うことができないが、母自身も本気で父を責めているわけでは無い。たまに飲んだお酒に、お茶目にも父をいじめたくなっただけのことだろう。


9:名無しNIPPER[saga]
2023/05/01(月) 13:56:29.59 ID:dOgL4Yt70
 母は、僕の出産に際して車で2時間ほどかかる距離の実家に帰っていた。その日の父は、産気づいたとの連絡は受けていたものの翌日も仕事があるからと自宅に留まったそうだ。そして、日が変わり朝日が未だ昇らぬ頃に僕は生まれた。その連絡を電話で受けた父は、眠そうで不機嫌な声だったという。


10:名無しNIPPER[saga]
2023/05/01(月) 13:57:00.60 ID:dOgL4Yt70
 正直なところ、出産に立ち会わないなんて酷い父親だと僕は思った。しかし、それは現代の洗練された、あるいは先鋭化したあるべき父親像に照らし合わせればの話で、昭和に育った父の感覚からすれば大したことではないのかもしれない。


11:名無しNIPPER[saga]
2023/05/01(月) 13:57:32.01 ID:dOgL4Yt70
 現に、ソロモン・グランディの一生にも子供に関するくだりが一切抜け落ちているではないか。木曜、金曜と続けて病気のことを歌うぐらいなら「木曜日に子を授かり」ぐらいあっても良いはずだが。かつての父親たちにしてみれば、子供というのは母の問題であって当人には関心のないことだったのかもしれない。


12:名無しNIPPER[saga]
2023/05/01(月) 13:58:03.28 ID:dOgL4Yt70
 まあ、大学まで行かせてくれた父親のことを悪く言うのも忍びないので、そこは家族を養うために大事な仕事を抱えていたと幾ばくかの擁護をしておきたい。母も、そのことがあるから父をあまり責めてはいないのだろう。


13:名無しNIPPER[saga]
2023/05/01(月) 13:58:33.85 ID:dOgL4Yt70
 僕は、ふと、とある映画のことを思い起こした。その映画の中で、数学の得意な主人公はヒロインの生年月日から即座にその日の曜日をあてて見せていた。僕は、スマホを取り出しその数式を検索してみる。しかし、それが思いのほか面倒くさそうな計算だったので、僕は素直に1995年のカレンダーを調べてみることにした。


14:名無しNIPPER[saga]
2023/05/01(月) 13:59:05.22 ID:dOgL4Yt70
 1995(平成7)年1月16日 月曜日

 僕が生まれたのは月曜日の未明。ということは、母が産気づいたのは日曜日だったというわけだ。しかし、生まれた曜日のことを考えたところであまり実感がわかない。生まれたばかりの記憶なんてあるはずもないのだから、当然と言えば当然なのだが。それでも何とか当時の様相を、想像してみようと僕はカレンダーをよくよく見なおしてみた。おや? よく見ると1月16日は赤い文字で表記されているではないか。


15:名無しNIPPER[saga]
2023/05/01(月) 13:59:36.61 ID:dOgL4Yt70

「祝日じゃん」

 口をついて出た言葉に、母の眉がピクリと動き、父がビクッと跳ねた。

以下略 AAS



16:名無しNIPPER[saga]
2023/05/01(月) 14:00:16.42 ID:dOgL4Yt70
 その理由は、容易に想像できる。僕の父は、どこまでも面倒くさがりで自分勝手な男なのだ。父は、いつになるかもわからない出産に立ち会うことなど面倒この上なく感じたのだろう。

 たぶん当時の倫理観からしても、それは到底許されることではないだろう。母の様子を伺うに、宴席の後で、父はしこたま怒られるだろう。そしてその母の怒りは、僕の誕生日が来るたびに再燃することは必至だ。父からすれば、今後僕の誕生日は母の機嫌が悪くなる忌々しい日として認識されることだろう。まあ、自業自得なので同情の余地はない。


17:名無しNIPPER[saga]
2023/05/01(月) 14:00:47.06 ID:dOgL4Yt70

 もしかしたら、ソロモン・グランディにも同じようなことがあったのかもしれない。子供の誕生という、生涯の中でも数度しか体験しえない、そして大いに喜ばしい出来事が、歌の中に含まれていないのはやっぱり不自然だ。であれば、それは意図的に省かれているということになる。つまり、我が父と同様に、彼にとっても子供の誕生はやはり苦々しい思い出でであるのではなかろうか。

 うーん、そうすると。僕の敬愛するソロモン・グランディは、実は碌でもない男だったのかもしれない。


18: ◆CItYBDS.l2[saga]
2023/05/02(火) 08:19:43.56 ID:WEwQGqlq0
▲ 1999(平成11)年11月15日 火曜日 ▲

ソロモン・グランディは火曜日に洗礼を受けた。


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