64:名無しNIPPER[saga]
2023/06/13(火) 15:38:12.05 ID:pMPOQ4q+0
宝くじを買えば当たり、恋愛はうまくいき、失せ物は見つかり、仕事も順調に進み、生涯健康で暮らせる。これらすべての恩恵が、念仏を唱える必要も、神に捧げものをする必要もなくただ「神」を信じ感謝するだけで得られるというのだ。加えて、他の宗教と並行して信仰することも構わないというから寛大極まりない。
65:名無しNIPPER[saga]
2023/06/13(火) 15:38:42.02 ID:pMPOQ4q+0
詳細を聞けば聞くほど、胡散臭い宗教ではあるものの、改宗をする必要もなくかつその高い秘密主義から僕の改宗が親族に漏れることもあるまい。そして何より、生涯を添い遂げると誓った愛すべき妻の頼みとあっては、僕は快く信徒となることを承諾した。まあ、実生活には何ら害はないだろうという浅い考えもあった。
問題は、そのあとだ。
66:名無しNIPPER[saga]
2023/06/13(火) 15:39:12.51 ID:pMPOQ4q+0
謎の「神」を信仰することを承諾した翌日、何とはなしに買ったスクラッチくじで一等が当たり、学生の折に半ば冗談で買ったベンダー企業の株価が暴騰し、頭を悩ませていた仕事の問題がすべて解決され、溜まり気味だった便がスルスルと流れ落ちた。それが、たった一日のうちに全て起こったのだ。あまりにも幸運な出来事の連続に、僕はむしろ恐ろしくなっていた。
67:名無しNIPPER[saga]
2023/06/13(火) 15:39:42.21 ID:pMPOQ4q+0
なぜなら僕は、入信こそ承諾したものの心の底から「神」を信仰していたわけでは無かったからだ。僕の心中にあったのは、妻との関係を良好に保つこととのみであった。そんな僕に、これだけの俗的な恩恵を与えてくれるなんて「神」は寛大すぎる。
68:名無しNIPPER[saga]
2023/06/13(火) 15:40:13.11 ID:pMPOQ4q+0
あるいは「神」が寛大では無かったら? 偽りの信仰心を咎められ、僕は「神」に罰せられるのではないか? そんな不安に苛まれ、僕は正直に自身が打算的で浅はかな考えであったことを妻に打ち明けることにした。話を聞いた妻は、僕を咎めるようなことはせずむしろ「私の神はすごいだろう」と言わんばかりに自慢げに鼻を鳴らしてみせた。
69:名無しNIPPER[saga]
2023/06/13(火) 15:40:42.46 ID:pMPOQ4q+0
しかしながら、僕の受けた恩恵は妻の感覚からしても過大なものであったらしい。「神様に気に入られたのかも」妻はそう言って洗礼を受けることを勧めてきた。僕はしばしの間、考え承諾した。どのような形であれ、恩恵を受けるばかりではバランスが悪い。恋はフィフティフィフティと誰かが歌ったが、何かを与えられたらそれに報いなければ健全な関係を築くことなどできない。
70:名無しNIPPER[saga]
2023/06/13(火) 15:41:12.12 ID:pMPOQ4q+0
僕の決意を見て取った妻は、ベットの下から「聖書」を取り出してきた。その隠し場所に、幾ばくかの疑問を感じたが今は触れるべきことではないだろう。妻は、聖書をパラパラとめくり洗礼のあり方について調べているようだ。僕は、うんうんと唸りながらページをめくる妻の後ろから聖書を覗き込んだ。
71:名無しNIPPER[saga]
2023/06/13(火) 15:41:42.12 ID:pMPOQ4q+0
うすい茶色にくすんだページと、旧字体が散見し古い言い回しで書かれた文言が、この宗教の確かな歴史を僕に思わせた。ちょうど妻がページを進めると、左上に「神の御姿」が描かれていた。どうやら、この宗教は偶像崇拝を禁じてはいないらしい。
72:名無しNIPPER[saga]
2023/06/13(火) 15:42:12.49 ID:pMPOQ4q+0
神は、ぷくぷくとふくれあがった赤ん坊の姿をしていた。一見ただの肥えた赤ん坊に見えるが、その背に生えたキジによく似たまだらの羽が生えており、彼あるいは彼女が尋常ならざる存在であることを指し示している。ご尊顔に目を移そう。その頬は薄く染まっていて、鼻はぺちゃんこに潰れてしまっている。お肉ではちきれそうなほっぺたのせいだろうか、目は細く開いているようには見えないが、むしろ柔和で全てを慈しんでいるような表情に見えるのは気のせいではなかろう。
73:名無しNIPPER[saga]
2023/06/13(火) 15:43:19.79 ID:pMPOQ4q+0
神というよりも天使の姿では思った諸君は、神の額に目を向けて頂きたい。その額に光り輝く星形のほくろ、そしてそこから伸びる一筋の一本毛が、この膨れて羽の生えただけの赤ん坊が只者では無い事を思い知らしめてくれるであろう。何を隠そう愛らしくも少し間の抜けた御姿をもつこのお方こそが、我らが信仰する神その人なのである。
74:名無しNIPPER[saga]
2023/06/13(火) 15:43:50.73 ID:pMPOQ4q+0
「鶏の肉と、酒をもって神に感謝の意を捧げよ」
妻が、聖書から導き出した洗礼のやり方は意外なほど容易いものであった。準備を整えるのに、お金も時間もさしてかからないだろう。
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