22:名無しNIPPER[saga]
2023/05/02(火) 08:22:07.71 ID:WEwQGqlq0
親戚が集まる宴席となれば、思い出話に花が咲くものだ。酔った母は、本棚から僕の写真が納められたアルバムを取り出してきた。開かれたページには、幼くあどけない僕が袴姿で映っていた。右手には千歳飴と書かれた縦長の紙袋が握られていて、その背後には見慣れた神社の拝殿が見える。写真の日付は、「1999.11.15」。僕の七五三の時の写真だ。
23:名無しNIPPER[saga]
2023/05/02(火) 08:22:39.16 ID:WEwQGqlq0
スマホで当時のカレンダーを調べると、その日は火曜日だった。僕はしばし考え込む。七五三。伝統的な衣装をまとい、長寿を願う飴を食べ、神社に詣でるとなれば、それは宗教的儀式と言って差し支えはないはずだ。ならば僕は、ソロモン・グランディよろしく火曜日に日本的な洗礼を受けたということだ。
24:名無しNIPPER[saga]
2023/05/02(火) 08:23:30.25 ID:WEwQGqlq0
僕は、満足げにうんうんと頷いた。僕とソロモン・グランディにおける人生の節目となる曜日の一致なんて、ただの偶然に過ぎないことはわかっている。それにしたって、一致してないよりはいい。だって、そのほうが今後に期待が持てるだろ。
25: ◆CItYBDS.l2[saga]
2023/05/03(水) 07:42:41.83 ID:JzIv0dpy0
◆ 2020(令和2)年6月17日 水曜日 ◆
今日、僕は結婚する。
26:名無しNIPPER[saga]
2023/05/03(水) 07:43:11.93 ID:JzIv0dpy0
妻との出会いは、僕が苦労して入った少しだけ偏差値の高い大学でのことだった。一つ学年が上だった妻とは、同じゼミに学び、研究テーマも似通っていたこともあり僕たちは時間を共にすることが多かった。良い年頃の男女だ、そういう仲になるのも自然なことだったと思う。
27:名無しNIPPER[saga]
2023/05/03(水) 07:43:42.93 ID:JzIv0dpy0
先輩、もとい妻は確固たる自分を持っていて、頭もスタイルも良くて、まるで漫画に出てくるようなデキる女であった。対する僕は、平凡この上ない見た目で凡庸な頭脳で、成人男性の平均に沿ったかのような体型をしているのだが、何故だか先輩の目には僕が好ましく映ったようだ。
28:名無しNIPPER[saga]
2023/05/03(水) 07:44:13.67 ID:JzIv0dpy0
辛うじて卒論を書きあげ大学を卒業した僕は、そこそこの会社に就職した。そうして、仕事にも慣れてきた社会人4年目、妻からの結婚願望の乗った鋭い視線にも後押しされ、僕は一世一代のプロポーズを敢行し今に至る。
29:名無しNIPPER[saga]
2023/05/03(水) 07:44:44.43 ID:JzIv0dpy0
ソロモン・グランディの歌で言えば、結婚は水曜日。一生のうちの前半を終えたところ。あとは、病気になり病気が悪化し、死んで墓に入って一巻の終わり。でも僕は、それでいいと思ってるし、むしろそうあって欲しいとも願っている。平凡で穏やかな人生を楽し気に過ごし、そして静かに人生を終えるのだ。
30:名無しNIPPER[saga]
2023/05/03(水) 07:45:16.80 ID:JzIv0dpy0
僕達は、結婚式は行わないことにした。それは、僕の妻が激務のあまり結婚式や披露宴に時間を割く余裕が無かったからだ。妻は、平凡な僕とは異なり超有名企業に入社し、僅か5年でその実力を示し、社内に知らぬ人はいないというほどのスーパーOLとなっていた。改めて何で、僕なんかと結婚したんだろうと思うがその心中は妻にしかわかるまい。
31:名無しNIPPER[saga]
2023/05/03(水) 07:45:47.78 ID:JzIv0dpy0
そういうわけで、結婚式を行わず近しい親族だけを集めて宴席を設けることになったのだが。ならばせめて良いお店でと、考えを巡らす僕を止めたのは、やはり妻であった。妻は、互いに高い家柄というわけでもないのだからお金をかけることもあるまいと言うのだ。まあ、妻からそういう意見がでるのであればと、宴席は僕の実家で執り行うこととなった。僕の実家は、決して裕福というわけでは無いが曾祖父の頃に建てられた古い平屋建てで、和室の襖を外せば、宴席を設けるに十分な広さがある。
32:名無しNIPPER[saga]
2023/05/03(水) 07:46:18.55 ID:JzIv0dpy0
男の意地もあり、料理だけは良いものを準備した。加えて妻含め、両家の女性陣が台所に立つことも無いように準備から片づけまでも業者に依頼しておいた。その甲斐もあってか、幸いなことに両家共に酒が進み、和やかに親交を温めることができている。我が父に至っては、義父と与太話に花咲かせ馬鹿笑いをあげている。
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