ソロモン・グランディに憧れて
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2:名無しNIPPER[saga]
2023/04/26(水) 17:54:27.02 ID:+Ne/Ufu30
これは、イギリスの古い童謡の一つ「ソロモン・グランディ」の歌詞。
ソロモン・グランディという男の一生を一週間になぞらえて歌っているものだ。
詞だけを読むと単調で楽しげのない平凡な人生のようだけど、その軽快な曲を通すとどこか可笑しく聞こえる歌だ。


3:名無しNIPPER[saga]
2023/04/26(水) 17:55:52.61 ID:+Ne/Ufu30
今日、僕は結婚をする。
歌で言えば、水曜日。
一週間の前半を終え、後は病気になって死ぬだけ。
人生の面白みのある部分は、全て終えてしまった。
でも、僕はそれでいいと思っているし。
以下略 AAS



4:名無しNIPPER[saga]
2023/04/26(水) 17:56:31.29 ID:+Ne/Ufu30
何故なら僕は、平凡な人生を楽し気に歌うソロモン・グランディが大好きだからだ。
小説やドラマの登場人物みたいな、大きな出来事は僕には不要だ。
困難は人生のスパイスとも言うけど、スパイスで舌を痛めることだってあるだろう。
それよりも僕は、面白みに欠けるとしても湯豆腐のような優しく穏やかな人生を迎えたいんだ。


5:名無しNIPPER[saga]
2023/04/26(水) 17:57:16.32 ID:+Ne/Ufu30
そんなつまらない人生は嫌かい。だったら、ソロモン・グランディを聞いてみなよ。
平凡で単調な人生だって、歌い方次第でどうとでも楽しめるということを。
ソロモン・グランディが、きっと君にも教えてくれるよ。


6: ◆CItYBDS.l2[saga]
2023/05/01(月) 13:53:40.85 ID:dOgL4Yt70
● 1995(平成7)年1月16日 月曜日 ● 

 「貴方は私が一人で産んだのよ」


7: ◆CItYBDS.l2[saga]
2023/05/01(月) 13:55:23.29 ID:dOgL4Yt70
 ちょっとした宴席で久しぶりに酒に酔った母は、僕が生まれた日のことをそう語った。勘違いされそうだけど、これは決して僕に父親がいないという話では無い。ただ単に、父が出産に立ち会わなかったというだけの話だ。


8:名無しNIPPER[saga]
2023/05/01(月) 13:55:57.38 ID:dOgL4Yt70

 現に、父は母の隣でイタズラがばれて叱られた子供のようにバツの悪そうな顔をしている。その様子からは父には反省の色を伺うことができないが、母自身も本気で父を責めているわけでは無い。たまに飲んだお酒に、お茶目にも父をいじめたくなっただけのことだろう。


9:名無しNIPPER[saga]
2023/05/01(月) 13:56:29.59 ID:dOgL4Yt70
 母は、僕の出産に際して車で2時間ほどかかる距離の実家に帰っていた。その日の父は、産気づいたとの連絡は受けていたものの翌日も仕事があるからと自宅に留まったそうだ。そして、日が変わり朝日が未だ昇らぬ頃に僕は生まれた。その連絡を電話で受けた父は、眠そうで不機嫌な声だったという。


10:名無しNIPPER[saga]
2023/05/01(月) 13:57:00.60 ID:dOgL4Yt70
 正直なところ、出産に立ち会わないなんて酷い父親だと僕は思った。しかし、それは現代の洗練された、あるいは先鋭化したあるべき父親像に照らし合わせればの話で、昭和に育った父の感覚からすれば大したことではないのかもしれない。


11:名無しNIPPER[saga]
2023/05/01(月) 13:57:32.01 ID:dOgL4Yt70
 現に、ソロモン・グランディの一生にも子供に関するくだりが一切抜け落ちているではないか。木曜、金曜と続けて病気のことを歌うぐらいなら「木曜日に子を授かり」ぐらいあっても良いはずだが。かつての父親たちにしてみれば、子供というのは母の問題であって当人には関心のないことだったのかもしれない。


12:名無しNIPPER[saga]
2023/05/01(月) 13:58:03.28 ID:dOgL4Yt70
 まあ、大学まで行かせてくれた父親のことを悪く言うのも忍びないので、そこは家族を養うために大事な仕事を抱えていたと幾ばくかの擁護をしておきたい。母も、そのことがあるから父をあまり責めてはいないのだろう。


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