ソロモン・グランディに憧れて
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120: ◆CItYBDS.l2[saga]
2023/07/02(日) 00:08:39.89 ID:0geUM6AN0
 天を見上げると、丸く大きい影がゆっくりと降りてくる。逆光のせいで、その輪郭しかわからないがそれは人の形を為していた。浄土真宗では、死に臨み迎えに来てくれるのは阿弥陀仏と聖者たちであったはずだ。しかし、僕の傍らに降り立ったそれはかつて見た阿弥陀仏来迎図に出てくる如何なる人物ともかけ離れた姿をしていた。


121: ◆CItYBDS.l2[saga]
2023/07/02(日) 00:09:14.82 ID:0geUM6AN0
 身の丈は僕の腰ほどしかなく、はち切れんばかりに膨らんだ腹に短い手足、背中からは虹色でまだらの入った翼。そして一際特徴的なのは、額にある星形のほくろとそこから伸びた一本の毛。二番目の妻が持っていた聖書に載っていた氏神様だと、すぐに気づいた。彼は、柔和な笑みを浮かべ手を差し伸べてきた。

 神様自ら迎えに来てくれるなど光栄極まりない事であろうが、一抹の不安もあった。


122: ◆CItYBDS.l2[saga]
2023/07/02(日) 00:09:45.75 ID:0geUM6AN0

「できれば、妹や両親のいるはずの極楽浄土に連れて行って欲しいのですが」

 神様はわかっていると言わんばかりに、うんうんと頷き再び手を伸ばす。これまで僕の人生で、幾度となく恩恵を与えてくれた神様だ。きっと悪いようにはしないだろうと、僕はその手をしっかりと握った。


123: ◆CItYBDS.l2[saga]
2023/07/02(日) 00:10:32.82 ID:0geUM6AN0

 神様の手を掴むと、僕の体はふわりと浮き上がった。妻に抱えられていたツボを飛び出し、火葬場の天井を抜け高い空へとぐんぐん昇っていく。今日は雲一つない快晴だ。僕が生まれ育った土地が、隅々まで見渡せる。東に臨む太平洋は薄暗く影を落とし、西の山地に沈む夕日が街を赤く染めている。人生の最期に相応しい美しさだ。

 僕は、自ずからソロモン・グランディを口ずさんでいた。


124:名無しNIPPER[saga]
2023/07/02(日) 00:11:32.51 ID:0geUM6AN0

 月曜日に生まれ
 火曜日に洗礼
 水曜日に嫁をもらい
 木曜日に病気になった
以下略 AAS



125:名無しNIPPER[saga]
2023/07/02(日) 00:12:19.14 ID:0geUM6AN0
 神様が、楽し気な僕の歌に釣られてか機嫌よく肩を揺らした。それに調子をよくした僕は、今度は空中に広がる声でソロモン・グランディを高らかに歌う。神様も、それに合わせてコーラスに入ってくれた。夕焼けで真っ赤に染まった空で、僕と神様は陽気に歌い空を縦横無尽に駆け回った。きっと僕たちの歌声は、下界に残した家族たちにも、極楽浄土で待っている家族たちにも届いたことだろう。


126:名無しNIPPER[saga]
2023/07/02(日) 00:12:53.31 ID:0geUM6AN0
 思えば、平凡とは随分かけ離れた非凡な人生を送ってきた。それでも僕は、ソロモン・グランディに憧れるのをやめられない。だから僕は、ソロモン・グランディを大きな声で歌うよ。だからみんなは、僕の歌を歌っておくれ。一週間じゃ収まりきらない僕の人生の歌を。


127:名無しNIPPER[saga]
2023/07/02(日) 00:13:25.94 ID:0geUM6AN0
これにて僕も一巻の終わり


128:名無しNIPPER
2023/07/02(日) 00:35:38.77 ID:2E/oO5b20
いいね 乙


129:名無しNIPPER[sage]
2023/07/02(日) 00:50:09.33 ID:zTLsEnzP0
2ヶ月以上かけてまで書く内容だったのか……


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