8:名無しNIPPER[sage saga]
2023/02/21(火) 20:38:24.61 ID:G7tB3fi30
「あーもーわかった。何があったかは言わなくていいから、これだけは教えて。リョウは昨日ぼっちちゃんと会ったの?」
「……会った」
「やっぱりか……じゃあリョウ絡みなんだね、ぼっちちゃんが休んだの」
「新曲づくりで何かあったんですかね……まさか、喧嘩でもしちゃったんですか?」
「うーん、でもぼっちちゃんが誰かと喧嘩になるような姿って想像できないんだよな〜。リョウが相手だとしても」
「ですね〜、喧嘩に到達する前にしゅわしゅわ溶けちゃいそうですし」
昨日のあれは、喧嘩ではないと思う。
けれどリョウは、自分がひとりを傷つけてしまったのだという悔いに囚われていた。
もっと考えて発言すべきだった。もっとちゃんとフォローしてあげるべきだった。
何よりも、まずはひとりが一生懸命考えてきた歌詞を、もっと褒めてあげるべきだった。
ひとりに言いたいことがたくさんあるのに、今ここにひとりはいなくて、メッセージを送ってもきっと読んでもらえなくて。
不安や後悔がぐるぐると頭の中を駆け巡り、フレットを抑える手の握力すら失われていく。
そんなとき、虹夏が腕組みを解いて背伸びしながら呟いた。
「んー、こうなったら行ってみる? ぼっちちゃん家」
「え、今からですか?」
「だって心配じゃん……リョウもそうだけど私も落ち着かなくてさ」
まだスタジオに入ってほとんど経っていないため、確かに時間はある。
金沢八景にあるというひとりの家まで、片道約2時間。
虹夏も居ても立っても居られないらしく、早々に荷物をまとめはじめていた。
「様子見に行って、大したことないならないで安心できるでしょ?」
「そうですね……結束バンドの一大事かもしれないですもんね! 今からならギリギリ行って帰ってこれると思いますし、私も親に連絡して……」
「ま、待って」
気づけば、リョウは虹夏と郁代の肩を掴んでいた。
「……私が行く」
「リョウ……」
「私が行かなきゃ、ダメだと思う……虹夏たちは、待ってて」
「でも先輩とひとりちゃんの間に何かあったのなら、ここは私たちが行った方が……」
「大丈夫、私だけでいい」
珍しく強く主張するリョウを見て、虹夏も何かを察したようだった。
こういうときは決まって面倒くさがり、理由をつけて着いてこようとしないリョウが、真剣な目で「一人で行く」と訴えている。
虹夏は荷物をしまう手をとめ、リョウの方に向き直り、その手を握った。
「……じゃあ、行ってきて」
「!」
「何があったか知らないけどさ……ばしっと解決してきなよ。後悔してるんでしょ?」
まるで親のような優しい目。その一方で、虹夏が手を握る力は思いのほかしっかりと力がこもっていた。
「お願いね」と言われているような気がして、リョウはハッとなった。
「ほら、行ってこい!」
「う」
虹夏にぺしっと背中を叩かれ、その勢いのままに荷物を拾いつつリョウはスタジオを飛び出した。
そのうしろ姿を、郁代が不安気に見つめる。
「だ、大丈夫でしょうか……」
「まあ今回のは二人の問題みたいだしねー……私たちが余計なことするより、当人同士で話し合わせた方がいいでしょ」
虹夏も郁代も、どちらかというと音信不通のひとりより、リョウの動揺ぶりの方に驚かされていた。
特に虹夏は、長い付き合いのリョウがこんな状態になっているのをほとんど見たことがなくて、何があったのかはわからないが、とにかくただならぬことが起きているのだろうということだけは察していた。
けれど同時に、二人は絶対大丈夫だという確信もどこかにあった。
「リョウとぼっちちゃん、ああ見えて感覚近いというか、息合ってるし。きっと仲良くなって戻ってくるよ!」
「……そうですね。先輩も心ここにあらずでしたけど、最後はなんだか頼もしく見えましたし。今は二人を信じましょう!」
郁代がそう言ったところで、スマホが鳴った。
見ると、リョウからのメッセージが。
[ぼっちの家どこにあるか教えて]
「……だ、大丈夫なんですよね……? 信じていいんですよね!?」
「う、うん……」
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