12:名無しNIPPER[sage saga]
2023/02/21(火) 20:45:52.91 ID:G7tB3fi30
「私……この歌詞がいいんです……」
「ぼっち……っ」
「この歌詞じゃなきゃ……嫌なんです……っ」
“自信作のページ” に何度も染みこんだ涙は、ひとりの想いの強さを表していた。
――直したくない。これがいい。
先輩のことを意識しないなんて、そんなのできるわけがない。
自分の気持ちに嘘をついても、本気で感情をぶつけて作ったものに勝てるわけがない。
「リョウに褒めてもらいたかったページ」と向き合いながら、ひとりはずっと苦悩していた。
リョウはひとりの頬に手を寄せ、親指の腹で涙を拭いながら、ひとりに謝罪した。
今までずっとひとりの作る歌詞を見てきて、ひとりのことをわかったつもりになっていたこと。
そんな時間を通して、結束バンドとして一緒に過ごす日々を通して、少しずつひとりの中で変わっていったことがあったのに、気づいてあげられなかったこと。
ひとりの中にいつの間にか「自分」が入り込んでいて、ひとりは一生懸命想いを伝えてくれていたのに、それを信じてあげられなかったこと。
本当は心の奥底まで深く刺さっていたのに、ひとりの歌詞をすぐに褒めてあげられなかったこと。
リョウは自分の想いを言葉にして話すのは苦手だった。それはひとりも同じだった。けれどひとりはいつも、自分に対してだけは無防備な心をさらけ出し、心の思うままに歌詞を書いて、見せに来てくれた。
だから、今度はこっちが伝える番。
たどたどしくなっても、嗚咽に負けてしまっても、ちゃんと伝えなきゃ。
廊下の明かりもいつの間にか消され、月明かりだけが射し込む薄暗い部屋で、二人は泣きながら想いを交わし合った。
手を重ねて、心を重ねて、気持ちを擦り合わせて、ひとつになって。
布団にぽすんと倒れ込んで、それでも相手を離したくなくて、そのままずっと一緒にいた。
窓の向こうに広がる夜空。そこに浮かぶ小さな星を二人で見ながら、いろんなことを話した。
「ぼっち……私、ずっと思ってることがあった」
ぼっちがこうやって歌詞を私に見せてくれるのは嬉しいけど、
私が良し悪しを判断して直させたりしたら、それは「ぼっちの歌詞」じゃなくなっちゃうんじゃないかって。
でも、ぼっちの歌詞はいつも、ぼっちのひとりよがりでは書かれてない。
メロディなんてつける前から、「結束バンドのために」っていう思いが、ちゃんと感じられる。
だから私も、私の好みどうこうじゃなくて、結束バンドのためになればって思いながら、チェックさせてもらってる。
ぼっちと私が目指してるのは、一緒なんだよ。
私が言う意見は、全部正解じゃない。だから私の意見に対してぼっちが思うことがあったら、今日みたいにどんどん言ってほしい。
そうやって、これからも一緒に頑張っていけたらなって、思ってる。
「虹夏と郁代をびっくりさせるくらいいい曲……作っていこ」
「……」
会話の途中から、ひとりは寝てしまったようだったが、それでもリョウは最後まで話した。
ひとりだけでなく、自分にも言い聞かせるように。ひとりの気持ちからも、自分の気持ちからも逃げないように。
そして、寝たフリをしていたひとりも、疲れ切って眠ってしまったリョウの手をとり、感謝の気持ちを送り続けた。
やっぱり、リョウは優しい人だ。
――――――
――――
――
―
15Res/43.71 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20