42: ◆tdNJrUZxQg[saga]
2023/01/13(金) 12:40:19.97 ID:fZboHQww0
栞子「ですが、龍神様をやっとの想いで鎮めたというのに……そんな人たちが現れたら、次こそ、この地方は滅ぼされかねない。そう思った翡翠の民は……ダリア王家に彼らを抑えることを求めたんです」
しずく「……話が見えてきました。だから、ダリア王家によって、焚書が行われたんですね」
かすみ「へ? どゆこと……?」
しずく「龍神様が地方を救った英雄譚だけ残し、オトノキ地方の人たちの命を奪ったという事実をなかったことにして……龍神信仰への反発を抑えようとしたんだよ」
栞子「はい……。……実際それは今のオトノキ地方を見れば成功したと言えます。……まさか、こんな形で焚書を逃れた書物が王家の遺した地にあるとは思いませんでしたが……」
せつ菜「確かにそれは妙ですよね……王家からしたら、自分たちで管理していたとはいえ、こんな事実が手元に残っていることは都合が悪いはずなのに……」
歩夢「……怖かったんじゃないかな」
侑「怖かった……?」
歩夢「……王家の人たちは……龍神様が落ち着いてくれても……何かの拍子に滅ぼされちゃうんじゃないかって……だから、こういうことがあったことを完全に忘れちゃうのが……怖かったのかなって……」
侑「……」
栞子「……こればかりは、この書物を遺した人にしかわかりません……。……歩夢さんの言うとおり、畏れだったのかもしれませんし……花丸さんのように書物や歴史は残されるべきと考えた人がいたのか……それはもう今となっては誰にもわからない。……わかるのは、誰かがこれをいつか誰かが知るために遺した……それだけです」
栞子ちゃんはそう言いながら、手に持った本を撫でる。
栞子「龍神様はその後も……地方内のポケモンの命が、人間の手によって脅かされそうになると、度々ポケモンたちを救う為に……人を滅ぼそうとしました。時に私たち翡翠の民が、命を懸けて怒りを鎮めたり……時に勇敢なトレーナーが力を示し、龍神様を抑え込んだこともあったと聞きます。ですが……今回、こんなことになってしまいました……」
こんなこと──つまり、ランジュちゃんがレックウザを解き放ってしまったことを指しているのだろう。
侑「……ランジュちゃんはどうして、レックウザを解き放ったりしたんだろう……」
栞子「わかりません……」
かすみ「あのあの、そもそも今回この騒動を起こしてるランジュ先輩と……ミア、先輩? って何者なんですか?」
栞子「ランジュは私の幼馴染なんです……。翡翠の民は基本的に隠れ里に住んでいるんですが……翡翠の巫女は幼少期に巫女修行としてポケモンと共に異国の山に籠もるんです。……そのとき、同じ師のもとで修業をしていたのがランジュでした。彼女は当時からポケモンの扱いに長けていて……一緒にいたのは1年ほどでしたが……私はランジュと一緒にいろいろな経験をしました……」
歩夢「……大切な、お友達だったんだね」
栞子「……はい。……だから、ランジュがどうして急にこんなことをしたのかが、理解出来なくて……」
せつ菜「ランジュさんは翡翠の巫女のことを知っていたんですか……?」
栞子「……一度だけ、ランジュには話したことがあったんです。……無闇矢鱈に話すものではないとはわかっていましたが……修行が終わって、お互いの故郷へ帰る日に……。……きっと、ランジュには私のことを忘れて欲しくなかったんだと思います……」
侑「栞子ちゃん……」
栞子「でもまさか……それが、こんな事態を招くことになるなんて……。……すみません……」
歩夢「栞子ちゃんのせいじゃないよ……そんなに気に病まないで」
歩夢はそう言って、栞子ちゃんの頭を撫でる。
栞子「歩夢さん……。……ありがとうございます……」
歩夢「とにかく、どうしてこんなことをしたのか……それはランジュちゃんに直接聞かないとだね」
栞子「はい……。……ですが、もう一人……ランジュに協力しているという……ミアさんについては、私は何も知らなくて……」
栞子ちゃんはそう言って目を伏せるけど、
せつ菜「いえ、ミアさんのことなら、知っていますよ。ミア・テイラーさん」
しずく「え……? テイラーってまさかあの……?」
せつ菜ちゃんとしずくちゃんの反応を見て、私もほぼ確信する。
侑「やっぱり……あの有名なテイラー一家だよね」
せつ菜「はい」
せつ菜ちゃんは私の言葉に首を縦に振る。
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