5:名無しNIPPER[sage saga]
2023/01/07(土) 13:56:43.31 ID:FRtckmfc0
「……」
まったく知らない店や民家の横をゆっくりと通り過ぎながら、帰る家があるというのは本当にありがたいことなのだなあとひとりは痛感していた。今までは家にこもりっきりになる負のビジョンを妄想することが多々あったが、引きこもれる家があるだけマシなのだということに、ここに来て気づかされた。
どうして親を相手に強がってしまったのだろう。どうして今日は傘をもってこなかったのだろう。様々な後悔が濁流のように押し寄せる。
凍死なんてしたら流行り病にかかるよりよほど悲惨なことになるし、せいいっぱい勇気を出して、本当に誰かに泊めてもらえないか頼んでみようか。頼むとしたら誰がいいだろう。
(虹夏ちゃん……リョウさん……喜多ちゃん……)
目蓋に浮かぶ「断られるビジョン」を、頭を振って一生懸命跳ねのけながら必死に考える。
一番大丈夫そうな人は誰か。一番私を受け入れてくれそうな人は誰か。
(そんな人……いるわけないかもしれない……けど……)
そろそろとスマホを取り出し、震える手で液晶画面をタップする。
(私を……助けてくれる人……っ)
「あれ……嘘っ、ひとりちゃん!?」
ひとりの耳に突然飛び込んできた、快活な声。
今まさに、ひとりが震える手でメッセージを送ろうとしていた相手。
「もうとっくに帰ったと思ってた! こんなところで何してるの?」
「きっ……喜多ちゃん……」
たまたま通りかかった書店から出てきたのは、買い物をしていたらしい郁代だった。
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