10: ◆Kg/mN/l4wC1M[saga]
2022/11/25(金) 00:09:28.45 ID:YjhaJr8i0
私は、劇場の控室で、一冊のアルバムを見つけた。
とても分厚くて、棚から取り出すのも一苦労だった。
『劇場の日々』――そう名前のつけられたアルバムの表紙は、カラフルな色ペンとシールで、隅まで綺麗にデコレーションされていた。
両手に感じるこの重さの分だけ、今の私がまだ知らない、この劇場で積み重ねられてきた時間がある――そう思うと胸が落ち着かなかった。
机の上までそっと運んでから、私はどきどきしながら表紙を開いた。
私の目に飛び込んできたのは、劇場で過ごすみんなの毎日が切り取られた、たくさんの色鮮やかな瞬間たちだった。
アルバムの中に映し出された世界は、賑やかで、ちょっぴり騒がしくて……みんな素敵な笑顔をしてる。
だけど、そこに私はいなかった。
どれだけページを捲って、どれだけ探しても。
信じたくなかった。嘘だと思った。
でも、アルバムの中のみんなの笑顔を見たら、それが本当の事なんだ、って分かってしまった。
だって私は、みんなのその笑顔がずっと大好きだったから。
ニセモノだなんて、思えるはずがなかった。
私は、みんなのことを、ずっと前から知っていた。
それなのに――私はずっと劇場のみんなの側にいたはずなのに、みんなに私の声は届いてなかった。
みんなが劇場で過ごしてきた日々の中に、私は居なかった。
私は、みんなみたいになれない。だって、私は……。
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