832: ◆tdNJrUZxQg[saga]
2022/12/09(金) 12:37:42.66 ID:9oar5n900
──菜々と出会ったのは、ローズシティの外周区にあるポケモンバトル施設でのことだった。
私はローズジムのジムリーダーとして、たまに街のバトル施設に視察に赴くことがある。
グレイブ団事変ではっきりしたが……この街は有事の際に戦えるトレーナーが非常に少ない。
ローズシティの人とポケモンの住み分けをしっかり行う考え方にはそこまで反対する気はないが、少し極端な考えを持った人が見られるのは難しいところだ。
ただ……どうしても、ポケモンが苦手な人というのも居て、そういう人たちがローズに集まってくるからこそ、そういう文化が形成されやすいのは仕方のない話なのかもしれない。
ポケモンが苦手な人間に、無理にポケモンと触れ合えというのもまた道理の違った話なので、ポケモンリーグに所属するジムリーダーの一人としては──この街に今いるトレーナーたちを大切にすることが重要だと考えている。
だから、こうして折を見て、視察を行っているわけだ。
セキレイほどではないが、こうしてローズのバトル施設を訪れると、そこそこの数の人が居る。
人口比率で言うとやや物足りないのかもしれないが……それでも、こうしてバトルに興味を持ってくれている人がいるのは良いことだ。
観戦席から、トレーナーたちの戦っている様を観察していると──
「……違う、私だったら……ここは“シャドーパンチ”……ああ……だから言ったのに……」
何やら、ぶつぶつと言いながら観戦している少女がいることに気付く。
──結論から言うと、この子が菜々だった。
フィールドを見ると、ゴーストの放った“シャドーボール”をソーナンスが“ミラーコート”で反射して、ゴーストがやられてしまっているところだった。
……確かに、彼女の言うとおり相手のソーナンスからしたら、“ミラーコート”をしたいというのはわかりきっている盤面。
“シャドーパンチ”なら、意表を付けるし、仮に“カウンター”をされても、かくとうタイプだからゴーストにはダメージがない。
ただ……。
真姫「あのゴースト……“シャドーパンチ”は覚えてなかったんじゃなかしら」
菜々「え?」
真姫「ごめんなさい、独り言が聞こえちゃって……ゴーストは特殊攻撃が得意だから、物理技を覚えさせていないトレーナーは少なくないわ」
菜々「確かにそうかもしれません……だとしても、今のは悪手です」
真姫「どうして?」
菜々「相手の次の行動は読めている……なら交換すればいい。ゴーストタイプには“かげふみ”が効かないですし……」
真姫「……確かにそうね」
確かにそのとおりだ。“かげふみ”という特性はゴーストタイプ相手には効果がない。第一印象としては、よくバトルの勉強をしている子だと思った。
真姫「貴方、ポケモントレーナー?」
菜々「……いえ、私は……ポケモントレーナーではありません……」
真姫「トレーナーじゃないのに、随分バトルに詳しいのね」
菜々「……ポケモンバトルを……見るのが……好きなので……」
言葉とは裏腹に──彼女は、酷く寂しそうに返事をする。
菜々「あ……もうこんな時間……そろそろ、帰らないと……」
彼女はそう言って立ち上がり、私に会釈をしたあと、駆け足でその場を去ってしまった。
真姫「ポケモンバトルを見るのが好き……ね」
その割に──随分悲しそうな顔で観戦するのね……私はそう思った。
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