90: ◆vVnRDWXUNzh3[sage saga]
2022/11/16(水) 22:12:45.64 ID:W1WHWUQU0
これが、“父島鎮守府総旗艦・扶桑”か。そんな、戦慄にも似た感嘆と畏敬の思いが、綾波の胸を満たします。
僅かな所作から、敵艦隊の狙いや次の動きを即座に見抜く洞察力。
不測の事態にも動じず、寧ろ策に盛り込み利用できる応用力。
その場での戦果拡大を徹底的に追い求めた大胆不敵な“拙速”と、大局的観点から鑑みた冷静沈着な“巧遅”を自身の明確な理論に基づいて的確に使い分ける判断力。
数多の艦娘が集う大艦隊にあっても、振るった指揮を全員に納得させ従わせる統率力。
先の戦闘でも見た通り、戦闘艦として、“一兵卒”としての【武勇】も、他の艦娘に決して引けを取るものではありません。
ですが、“父島鎮守府の扶桑”さんは、それさえ霞んで目立たなくなってしまうほど驚異的な“将”の資質に、艦娘としては珍しい【軍略】の才に秀でていました。
綾波自身は「この扶桑さん」とは演習で数えるほどしかご一緒したことがないため、その妙技の程を実際に眼にしたのは初めてです。
そして今日、これまでに幾度となく耳にしてきた数々のお噂が、全く尾鰭の類がついたものではないと確信しました。
『演習も含め、扶桑の采配に“間違い”を見たことは唯の一度もない』
───彼女を招聘し、抜擢し、その名を轟かせるきっかけを作った父島艦隊の提督さんの評価です。
『扶桑が居るいくさ場では、後方や側面を一切気にせず眼前の敵の殲滅だけ考えていられる』
───同期建造で、一時は同じ鎮守府に勤めたことも有り、特に戦争初期には幾度となく戦場を共にした現横須賀司令府総旗艦・【巨砲】日向さんはこう語ったそうです。
『彼女のお陰で拡大できた戦果、得られた勝利は数え切れないほどあるだろう。だが彼女が“大和撫子”の鑑であるがゆえに、我々はそれを正確に把握することができない』
───さる海上自衛隊の尉官様が、王嶋元帥にそんなことをボヤいたと聞きます。
元々扶桑さん本人があまり目立つことを好まない上に、直接の砲火によって敵艦を討ってこそ艦娘の本分という意識があるらしく、自身の軍略・知略について褒められることを複雑に思っているのだとか。
……まぁ、その奥ゆかしく謙虚な性分が扶桑さんの“強み”と合わさり「莫大な戦果を挙げながらその実情が把握できない」という事態を招き、特に海自上層部や在日米軍関係者を中心に【沈黙者(サイレンサー)】なる“忌み名”が広がるきっかけとなってしまった面もありますが。
扶桑さん本人にとってこの件が“不幸”に当たるのかどうかは、綾波では判断が付きかねます。
「凄いにゃ、噂通りにゃ、頭いいにゃ〜!
サマール島第19“特派府”所属艦隊の多摩だにゃ、救援感謝するにゃ!【沈黙者】指揮下の艦隊に入れるなんて心強いにゃ〜!」
「ええ、その、喜んでいただけて何よりです」
……少なくともこの反応を見る限り、忌み名呼びが扶桑さんからして“幸運”ではないことは確かな模様。
一先ず当面の危機から解放された多摩さんが、顔のあらゆる場所から水分を垂れ流しつつ手を取ったことも表情を曇らせた要因の一つでしょうけれど。
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