安価でSSを書かせて頂きます
1- 20
39:名無しNIPPER[saga]
2022/04/09(土) 14:26:14.44 ID:MLTq+wt20
彼らは二人連れだってどこにいったのだろうか。まことに美しい自然を天使の上から眺めるのは、おそらく誰も経験したことがなかっただろうけれども、西の空に日が傾いて、そういう夕闇が街を覆い隠した時、褥聖の街はまた表情を変える。

つまりその街に光はないのだった。現代は少し外に出ればもう人口の光があって、それがオフィスの1窓1窓、街灯の1本1本と照らしており、大抵の街では暗いところを見つけるのに苦労するほどだが、今の街では人が死に絶えており、あちこちが崩れ去って、廃都そのもので、このありえない情景そのものが、彼らに象徴主義のよくできた絵画のような印象をもって受け取らせるのであった。

「ごめんなさい。この光景を美しいと思ってしまうの」

“藪の中”で武弘が死んだような陰気な山にいる。

「いいんだよ。聖人だから、いいんだよ」

暗くなって街はとうとう見えなくなった。灯りは見越して焚いてあった篝火の他になくなって、それが松の薪を食んでパチパチと爆跳を起こしている。緋色の火に照り返って、崇光なる宣告者の白い体躯が橙色に染め上げられた。

「空を見給え」

蘭子が天を仰ぐと満点の星空だった。その瞬間蘭子が星空だった。ソロモンの栄華も野のユリの花一つの美しさにおよばないとマタイ福音書六章にあるが、人の手が入っていない自然がこれほどまでに美しいと誰が想像しただろう。彼女は美しい夜空に備えて心を準備したというのに、彼女はびっくり箱を開いたような気持ちにさせられるのだった。それは彼女が心を遠いところにやっていたからではなく、単に世界が広すぎるという避けがたい現実なのだった。

「かつてね」崇光なる宣告者はその全く中性的で素性を窺い知れない無機質な声音で、しかし情感たっぷりに語るのだった。「この空に神が住んでいると考えられていた。しかし神はいなかった。人がその目で見て確認してきたからだ。いつかは宇宙に神が住んでいると言い出すのだろう。そしていつかその目で見て確認してくるのだろう」

「僕はそんなことなどどうだっていいんだ。でも聖人は駄目だ。聖人は特別なんだ。僕はそのために来たのだから」

「天でないなら、どこから来たの?」

「それは旅の終わりまで秘密としよう」

崇光なる宣告者は悪戯げに笑うと、腰折れ屋根のログハウスに戻っていった。蘭子は一人取り残され、そこでは故郷について想った。あの輝かしかった思い出が、今では虚しい響きをもってしか受け取れない。遠い日々の出来事だった風に思い返される。まだ一日と経っていないというのに……



<<前のレス[*]次のレス[#]>>
66Res/52.59 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 書[5] 板[3] 1-[1] l20




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice