36:名無しNIPPER
2021/11/27(土) 21:58:29.29 ID:u50g9+A20
そして、文香と私がテレビの収録を行う日になった。
収録そのものは、順調だった。
司会のベテランのタレントさんも新人アイドルの扱いには慣れていた。私たち二人をうまく回しながら、現場を盛り上げてくれた。
私の方も、特にミスというミスはなかったと、自負があった。変なことをいうこともなかったし、受け答えもすんなりすることができた。
なにも問題はなかった。
だけど、撮影の最中だった。
現場には当然プロデューサーも来ていた。
私が話し終わった直後、プロデューサーの顔を見たが、一瞬渋い顔をしていたように見えた。司会の人がすぐさま会話を返してきたので、取り繕って返事を返した後に、また伺ってみると、プロデューサーの表情は元通りになっていた。
気のせいだったのだろうかと思って、その時はそれ以上心に留めなかった。
「お疲れさまでした」
タレントの方やスタッフの皆さんに挨拶をしてから、プロデューサーの元に戻ってきた。
「お疲れ、二人とも。上出来だったよ」
「ありがとう……ございます」
ホッした表情を浮かべていた文香。撮影中は特に変わったところはなかったのに、やはりかなり緊張していたようだ。そんな文香を落ち着かせるようにプロデューサーは笑った。
「とっても良かった。文香らしくて」
「私はどうだった?」
きっと、同じような調子で褒めてくれるのだろう。
頑張ったのだし、労いの一つ位かけてくれるかと思ったけど。
「ああ……」と、小さな間を作った。
「もちろんだよ、よかった。奏らしくて」
プロデューサーの作った小さな間。
私はそれが引っかかったけど、疲れていたし考えすぎだと思った。
だから深く考えないで、私は無邪気なふりをしてうなずいた。
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