34:名無しNIPPER
2021/11/27(土) 21:55:29.32 ID:u50g9+A20
原作の方は私も存在自体は知っていたが、手が出せてはいなかった。
「……よろしければ、お貸ししましょうか?」
「いいの?」
「はい……叔父に聞かなければ……いけませんが」
「貸してもらえるなら、そうね。ぜひ」
実際、手が出せないでいた理由の一つは、古い本でちょっとプレミアがついていたから。
手を出せないほどではないけど、高校生が無理して買うかと言われれば。それでも、貸してもらえるのならば、話は別だ。
私は喜んで、文香の提案を受け入れた。
喫茶店の入ったビルを出ると、むせかえるような都会が私たちを出迎えた。クラシックなお伽の世界から抜け出して、現実に戻ってきたわけだ。
私たちは駅まで歩いて、そこでお別れだった。
「それでは……奏さん」
「ええ、また明日」
そのまま改札に消えていく文香を見送っていたけど、私はちょっとしたことを思いついて、声を上げた。
「文香」
人ごみの中、文香が私の方に振り返った。
私は人差し指で、鼻の頭を軽く触った。
文香も観たという映画の中で、仲間であることを知らせる合図だ。
はっとした表情を作った文香は、同じように、人差し指で鼻を軽く触って見せて、笑みを浮かべた。
私も、なんだかおかしくなって笑みを返した。
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