藤原肇「千夜さん、一緒に釣りに行きませんか?」
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54:名無しNIPPER
2021/10/30(土) 15:09:22.40 ID:/ZuqsV3u0
 先に述べた二つの理由など、残された一つに比べれば単なる建前だ。
 それは私にしか知る由のない事。

 彼女の与えてくれる気遣いに、すっかり甘えてしまう私がいる。
 それについて、いつかお返しをするチャンスを見出せたなら。


「じゃあ、帰りましょうか」

 肇さんがそう言って、身支度を整え始める。

「分かりました。では」

 ささやかではあるが、そのチャンスがさっそく巡ってきたようだ。
 私は頷き、すかさず手を差し出した。 

「荷物、持ちます」


 だが――。

「……ありがとうございます。お願いします」

 そうして素直に応じてくれる事さえも、彼女の気遣いのような気がしてならない。
 立つ瀬を私に残してくれる事が。

「はい」

 それでも良いと思えた。
 肇さんの柔らかな笑顔を前にしては。


 内緒にすべき事はいくつかあるが――お嬢さまには、良い土産話ができそうだ。



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