勇者になれなかった君へ
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8:名無しNIPPER[saga]
2021/10/20(水) 00:45:36.19 ID:XxYmIC1x0
火に照らされた勇者の横顔は、悪鬼のようだ。

【この森の魔物たちにとって、恐ろしいことが起きたのさ。それも人によるものだ】

「なんだか、楽しそうだな」

【あはは。魔物は人の敵だろう。敵の不幸は蜜の味だ。同情はしても、それに罪の意識などないよ】

罪の意識、というなら先ほどの勇者の詠唱は何に対しての償いなのか。

勇者に、罪があるのか?

勇者のことが、分からない。

俺は頭にもたげた疑問を振り払った。これでは、勇者の中にいる、わたし、と同じだろう。

彼女は勇者を理解できないがゆえに、狂ったのだと思う。

だから俺は、勇者に対して客観性を保つ必要がある。理解できないなら、理解できないままでいい。

それに呑まれさえしなければ、狂いはしない。

俺が、勇者の中からわたしを取り戻す。それは勇者が俺に望むことであるが、それが俺の望みとは限らない。

俺は、俺が一番大切なんだ。

俺が守りたいものは、俺の人生なのだ。

人生の中には、勇者の中のわたしを呼び戻すことも、魔王討伐も含まれるかもしれない。

だから、今は勇者といる。

人生に必要ないと分かれば、切り捨てるまでだ。


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