2:名無しNIPPER[saga]
2021/10/05(火) 23:25:04.71 ID:Uccravqu0
【君が一番、もう一人のわたしを分かっているから、選んだんだ】
「…まさか勇者が二つ目の人格であることは、まだ秘密なのか?」
【あはは。魔王を殺してからもうほとんどわたしが出ずっぱりだからさ。気づかないんだ。むしろ、こちらが一番目だよ?】
おどけた口調で、俺のひきつった口角へ手をのばし柔らかくほぐす。
【それでも、もう一人のわたしも、あたしの一部さ。あたしは、あたしのためならなんだってする】
【もうひとりのあたしは。かわいそうだ。まだ、ずっとあのときのままなんだ。こんな世界で生きたくないとさ】
俺の首を絞めるように手を滑らせていく、勇者。
【あたしを助けて】
そのときの言葉はどちらのものだったか、俺はまだ分からないけど
もう一人のものであったなら、助けたいと思った。
だけど、それ以上に大切なものが今の俺にはあって。
「なあ勇者」
【なに】
「病気で寝たきりになってしまった父親がいるんだ。少しでも金を残してやりたいんだが」
【あたしはお金はあるけどイヤ。君が気になるなら殺してやろっと】
勇者はきっぱりと断って、俺の家へ向かおうとする。
相変わらず、だ。確かに疲れるよな、こんなやつ一緒だと。
「お前を助けるから、俺も助けてくれ。じゃないと親を勇者に殺されてしまう。」
「・あ・・ああ・・・・・」
勇者は立ちどまった。
【…一か月振りに聞いたな、あたしの声】
俺は目をそらす。
【君はよくやった】
「あのな…」
【いいからあたしを元気にしろ。あたしのためになにもかも捧げろ。】
勇者は懐から金貨10枚を取り出して、俺の手に無理やり持たせる。
【そうすれば、金もやるし、次の魔王も殺す】
勇者の愛は、どこまでも自分に注がれている。
そのあたしは愛を知らぬまま壊れて
俺は愛をつくる、操り人形だ。
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