100日後に死ぬ彼女
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32: ◆QlCglYLW8I[saga]
2021/09/25(土) 22:14:58.30 ID:rdad/mqRO

「今日も随分並んでるな」

俊太郎が呆れたように呟く。ビルを取り囲むようにできている行列は、ざっと5、60人くらいかな。

「こりゃ2時間コースだねえ。今日は何だっけ?」

「ズワイガニとキウイ」

「キウイ?そんなのラーメンに使うなんて聞いたことない」

「僕もだ。どうする?並ぶの嫌なら諦めるけど」

「いやー、そんなレアなの食べない手はないでしょ」

あたしはニマっと笑い、俊太郎の手を取った。
デートの時、あたしたちは大体まずラーメンを食べる。2人の共通の趣味の一つというのもあるけど、並んでいる間ゆっくり話せるというのも大きい。

中でもここ、「総本家」はお気に入りだ。最初に俊太郎が連れてきてくれた店だけど、とにかく色々強烈なお店なのだ。
まず、スープが違う。普通のお店じゃ決して使わない食材を惜しみなく寸胴に入れ、徹底して煮出す。それを濃厚な醤油タレと合わせてできたスープは、凄まじいほどの中毒性がある。
前に来た時は夏のインターンの前だったけど、その時のスープは確かスッポンだった。食べ終わった後にやたらと身体が火照ってしまったけど、深いコクがあってとにかく美味しかった。

もう一つの特徴はご主人だ。まるで仙人のような風貌で、お弟子さんと2人で切り盛りしていている。
とても気さくな人で、ご主人との会話も結構楽しみだったりする。なお店内のBGMはご主人のカラオケで、なぜかやたらと上手い。
ラーメン界では、ご主人は伝説的な人なのだそうだ。ちょっと前に亡くなった「ラーメンの鬼」とは親友だった、らしい。

そんな「総本家」だから、2時間ぐらい並ぶのはさほど苦じゃない。
列の最後尾に着くと、あたしは俊太郎の頭を撫でた。

「……何だよ」

「んー?いや、なんとなくね。ここに来るのも、結構久しぶりだねえ」

「……夏の間、ほとんど会えなかったからね」

俊太郎の表情が、少し暗くなった。1ヶ月以上も続いたインターンの期間、あたしたちはろくにデートもできなかった。
やっと解放されたのが2週間前だ。その時の俊太郎が凄く不安そうに「会いたかった」と言ってきたけど、寂しかったのはあたしもだ。
だから、月曜に会って間もないのに、こうやって今日も誘った。できるだけ長く、心も身体も繋がっていたかった。

「……例の夢、また見たの?」

「いや……違うのを見た。あまり言いたくないけど、ろくな内容じゃない。一度、カウンセラーか何かに診てもらった方がいいかも」

俊太郎はかなり参ってそうだった。思わず抱き締めたくなったけど、さすがに人目につく。代わりに握っていた手に、少しだけ力を込めた。

「大丈夫、あたしはどこにも行かないから」

俊太郎はちょっとだけ涙目になって、すぐに目を手で擦った。

「……うん」

俊太郎は、基本的に自己評価が低い。東大に通えるほど頭がいいのに、やたらと自分を卑下したがる。
ルックスだってそうだ。ちゃんとしてたら、下手なアイドルよりずっと整ってる。あたしの友達が俊太郎を可愛いと言っていたのは、多分お世辞でもなんでもない。それでも、俊太郎は自分に魅力がないと思い込みたがるのだ。

もちろん、俊太郎は単なるネガティブな陰キャじゃない。優しいし、結構気が利く。
何より、あれで結構男らしい所もあるのだ。


あたしは、俊太郎と初めて会った時のことを思い出していた。




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