【デレマスss】木村夏樹「ファースト・パッセンジャー」
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11:名無しNIPPER[saga]
2021/09/15(水) 22:29:31.65 ID:TCAbkAPj0
 どれくらい走っただろうか、いつの間にか夕焼けの時間になり、東京湾が一望できる自然公園に着いた。

「いい景色だろ。アタシのとっておきの場所なんだ」

「……はい」

 確かにいい景色だ。東京湾が夕焼けに反射して、オレンジ色の世界が一面に広がる。ところどころで聞こえるウミネコの鳴き声も、何とも言えない「それっぽさ」を醸し出していた。

「……あんまし気にすんなよ? 音楽やってりゃあれくらいのことは誰にだってあるさ」

「でも、せっかく木村先輩にたくさん教えてもらったのに、何もできなくて……。先輩の時間を無駄にしてしまったんじゃないかって」

「無駄になんかなってないさ。アタシは好きでアンタらに教えてんだ。ほら、人に教えることで見えてくるものもある、とかいうだろ? それにこっちだってそんなすぐに上手くなるなんて思ってないしな。だから……一回失敗したくらいで辞められるとこっちが困る」

「……辞める? 俺が?」

「去年いたんだ。オーディションでデカいミスして、そのまま退部したやつ。アンタにはそうなって欲しくないんだ。せっかく才能あるんだしな」

「え、あるんですか? 才能」

「おいおい、自覚なかったのかよ。練習してるときに思ったけど、他の奴らと合わせてても自分の音がよく聞こえてるだろ? そうすれば自分の音に向き合いやすいし、音感だってつきやすい。良い耳ってのは地味だけどプロになるには絶対必要な才能だよ」

 ボロッボロの演奏をした後に急に褒められたものだから戸惑ってしまった。というか、そもそも辞める前提で話をされても困る。

「だから辞めてほしくなくてここに連れてきたんだけど、さっきの反応からするに辞めるつもりはないんだよな?」

「もちろんです。俺は木村先輩みたいになりたくて軽音楽部に入ったんです。少なくとも木村先輩を抜かすまでは辞めません」

「ははっ、アンタ、卒業してもこの部活来るつもりか?」

「そ、それまでには抜かしますから!」

「なんだよ、全然元気じゃないか。連れてきて損したぜ……」

 確かに辞めるつもりはなかったけど、落ち込んでいたことは事実なのだから「損した」とまでは言わなくてもいいじゃないかと不満に思いつつ、一方で木村先輩と話している内に元気になっている自分に気が付いた。


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