153: ◆yOpAIxq5hk[saga]
2021/09/13(月) 22:02:36.60 ID:t1CcS+Yh0
教室を出て職員室へ向かう途中、伊藤先生の背中が見える。相変わらず皺の寄ったスーツにボサボサの髪、そしてずっとお辞儀をしているかのような猫背だ。
追い抜くこともできず、一定の距離を保ち続けたままゆっくりと歩いていると、伊藤先生は足を止めて振り向く。
「あぁ、春宮さん、でしたか。刺客かと思いました」
「……先生に刺客なんて居るんですね」
「もう至るところに刺客だらけですよ」
どうやらわたしの見えない敵と戦っているらしい先生は、改めて歩き始める。どうせならと思い、わたしは並んで歩くようにする。
若干、生徒からの視線が痛いが仕方がない。
「体育では大活躍だったそうですね。大島先生が褒めていました。水泳部に誘うよう協力してくれ、とも。部活動はやられないんですか?」
「まぐれです。次やったらあのタイムは出せません。部活動は考えているところです。三年間、ずっと帰宅部というのも退屈かなと思っているので、前向きに検討しています」
「春宮さんなら色々な種目で活躍できると思います。で、そんな春宮さんはどちらに? この先は職員室くらいしかありませんよ」
「あれ、生徒会室ってこっちの方ではありませんでしたか?」
「そうですね、そうでした。生徒会室もこの先にあります。生徒会に興味があるんですか?」
「いえ、先輩と会おうって話をしたら生徒会にくるように言われました」
「先輩…?」
「乙葉先輩っていう、三年生の」
伊藤先生は「あぁ、あの人ですか」と頷く。
その表情は俯いているせいで伺えないが、どこか笑みを浮かべているように見えた。
「彼女は春宮さんに似ているタイプです。きっとたくさんのことを彼女から学べるでしょう」
多くは語らず、ただそれだけを言い残して伊藤先生は職員室へと消えて行く。
乙葉先輩がわたしに似ている、ね。
偶然、興味深い話を聞けた。
その言葉の真意を探る意味も込めて、職員室の先にある生徒会室へ歩みを進める。
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