6: ◆iGEcIiQPPHZy[sage]
2021/08/15(日) 22:04:20.86 ID:UdHDSlcF0
そして私は可奈ちゃんのデビューを知った後も一度たりとも彼女のステージを見に行ったことがない。
たまにそういう人もいるが音楽のプロの端くれとして見世物としての側面が強いアイドルなんて興味ないとか、そんな理由ではない。
むしろ笑顔を、涙を、たくさんの感動をくれる存在で大好きだ。
7: ◆iGEcIiQPPHZy[sage]
2021/08/15(日) 22:06:31.13 ID:UdHDSlcF0
「来てくれてありがとう」
「いえ、オーナーにはお世話になりましたから」
ある日、私はとあるライブハウスに来ていた。今でこそ合唱講師一本で楽器に触れることはなくなったけれど、学生時代友人たちとバンドを組んでおり、その際に何度も演奏させてもらった場所だ。
8: ◆iGEcIiQPPHZy[sage]
2021/08/15(日) 22:08:31.53 ID:UdHDSlcF0
「できれば君たちにも参加してほしかったんだけれどね」
「もう無理ですよ。ここしばらくはみんなで集まっても飲み会にしかなりませんし。私だって何年もギターに触ってすらいません」
今でも大切に取っておいているけれど合唱の教室を開くということ、そしてバンドの仲間以外と一緒にやる気持ちになれなかったこともあり、ずっと仕舞ったままになっている。更に私以外のメンバーは仕事が忙しく本日来ることすらできてない。
9: ◆iGEcIiQPPHZy[sage]
2021/08/15(日) 22:12:45.76 ID:UdHDSlcF0
「アイドル?」
ここでかつて演奏していた人の中には伝説級のアイドルになった人もいるけど、彼女たちが来たならもっと話題になってるから違うはず。誰だろう。
「演奏の方はまだまだまだ初心者だけどね、気持ちのこもった歌を歌うんだ。そういえば君は昔からアイドル好きだったよね。気に入ると思うよ。いやもしかしたら知っているかもね」
10: ◆iGEcIiQPPHZy[sage]
2021/08/15(日) 22:16:01.00 ID:UdHDSlcF0
『パンとフィルム』とても素敵な歌だった。未熟だけど一生懸命なのが伝わる演奏、そして想いがこもった歌声。
だけど
―最後の言葉消えないままで―
11: ◆iGEcIiQPPHZy[sage]
2021/08/15(日) 22:19:24.25 ID:UdHDSlcF0
「オーナーさん! ありがとうございました」
「あっ!?」
ライブが終わってしばらく後、オーナーのもとへ来てしまった。もう私が会ってはいけないと思っていた子が。
12: ◆iGEcIiQPPHZy[sage]
2021/08/15(日) 22:21:23.77 ID:UdHDSlcF0
そんな中、一人の男性が近寄ってきて頭を下げた。
「今回もお世話になりました。可奈もお疲れ・・・?」
反応的に765プロの関係者、おそらくプロデューサーだろうか。彼もその場の空気の重さに気が付いたらしく言葉が途切れた。そう思ったとき、可奈ちゃんが彼の手を引いた。
13: ◆iGEcIiQPPHZy[sage]
2021/08/15(日) 22:23:22.95 ID:UdHDSlcF0
「先ほどは失礼しました。以前うちの矢吹がお世話になったようで。ほら、可奈」
どこまで説明したかは分からない。だけど私たちの関係性は把握したらしい。私に向かって頭を下げたプロデューサーが可奈ちゃんに何かを促す。
「あ、あの! 先生、これを!」
14: ◆iGEcIiQPPHZy[sage]
2021/08/15(日) 22:25:17.67 ID:UdHDSlcF0
「おや羨ましいね。僕は招待してもらえないのかい」
回答に困る私を見て話を繋ぐためだろうか。オーナーが悪戯顔で入り込んできた。
「あ、オーナーさんごめんなさい! え、えっとプロデューサーさん!」
15: ◆iGEcIiQPPHZy[sage]
2021/08/15(日) 22:27:29.78 ID:UdHDSlcF0
「ははは。慌ただしいね。それで君たちはどういう関係なんだい?」
笑いながらオーナーに尋ねられる。
「実は昔、私の合唱教室に来てたんですけど向いてないってやめさせてしまったんです」
16: ◆iGEcIiQPPHZy[sage]
2021/08/15(日) 22:29:36.08 ID:UdHDSlcF0
「さてここまでライブを見てみてどうだい?」
結局私はオーナーと一緒に可奈ちゃんのライブを見に来ていた。
「やっぱり来るべきではなかった、そう思います」
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