【ウマ娘】エアグルーヴ「たわけがッ! 今日が何の日か知らんとは……」
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◆FaqptSLluw
[saga]
2021/10/12(火) 01:58:32.10 ID:60cjC9k60
「――よし、今日はここまで」
声を張り上げると、「えー」と物足りなさそうな声が返ってくる。
これ以上の練習はオーバーワークになってしまう。如何にGTレースが数か月後に控えていて焦る気持ちがあったとしても、過度な練習は却ってマイナスとなりかねない。
それに、今日のトレーニングの成果も上々だ。このままいけば優駿の頂点は彼女のものとなる。
クールダウンに移ろうとしない彼女――担当ウマ娘であるスペシャルウィークにこちらから近づいていく。
「物足りないか?」
「はい!」
「明日、その気持ちを爆発させような」
明確に突きつけるNOに、スペシャルウィークは短く息を吐いて落胆の意を示す。だが、彼女もオーバーワークになってしまうことはある程度理解しているのだろう。
いつもは自動車も斯くやといったスピードで走る彼女も、今は競歩程度の速さでトラックを回っている。
初秋の柔らかな風が頬を撫でて、体温を緩やかに奪っていく。スペシャルウィークも心地よさそうに、柔らかな笑顔を浮かべていた。
彼女のそんな表情を眺めていると、ふと紫の視線がつい、と動いた。まんまるとした瞳に、俺の表情が反射する。
「そういえばトレーナーさん、お渡ししたいものがあるんですけど……この後空いてますか?」
「空いてるけど……」
何を渡すつもりだ、とは続けなかった。この時期に贈られるものなんて想像だに出来ないのもそうだが、それを確定させてしまうのももったいない気がした。
はっきり言えば、心の何処かで特別な贈り物をしてもらえるんじゃないかと期待していた。とはいえ、こんな想像ももう何回目かな、というくらいには贈り物をもらっているわけで……。
「スイカです!」
まぁ、だろうな……と予測がつく。
スペシャルウィークの実家から時折送られてくる野菜類は、まぁ量が尋常ではない。
スペシャルウィーク本人が健啖家であるというのが半分、もう半分はトレセン学園の親しい人たちと分けて食べてね、というあちら側の善意だろう。
ありがたくご相伴にあずかっているので、本当に文句はないのだが、無いのだが……。
毎度期待しては馬鹿を見るようで、少し気落ちする。
当然と言えば当然。だって俺は大人で、二十も後半が過ぎたオッサン。方や十代半ばの花盛りで、有馬記念出走確実とも呼ばれる有名人。
むしろトレーナーとして接することが出来るだけありがたいと思うべきだ。
「……トレーナーさん?」
「あ、ごめん。なんだった?」
「もう、聞いてなかったんですか……?」
小さく不満をあらわにするスペシャルウィークに平謝りする。怒る表情もかわいい。
もう一回だけですよ、と前置きして、スペシャルウィークは続けた。
「明日トレーニングはお休みですよね?」
「ん? あ、ああ。そうだったな」
「だから、トレーナーさんが良ければなんですけど、スイカ配るの、手伝ってくれないかな、なんて……」
ああ、と手を打つ。量が尋常ではないという事は、配るにしても時間がかかる。
いかにウマ娘よりも身体性能が劣るとはいえ、人手があることに越したことはない。
つまり、猫の手も借りたい状態なのだろう。……どれだけ届くのか、今から恐ろしいくらいだ。
とはいえ、明日はトレーニングがない日……つまりスペシャルウィークと会えない日だったのが、これを承諾すれば明日も会える日になる。
そのことがにわかに嬉しくて、俺は二つ返事で了承したのだった。
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