774: ◆ZS3MUpa49nlt[saga]
2022/01/15(土) 23:51:42.00 ID:2z6G7I5Go
一方通行『コイツはあの女を傷付けやがった、痛み付けやがった、殺そうとしやがったァ!! クソみてェな理由でなァ!!』
一方通行『俺は排除しなきゃならねェ! 守るためにコイツを殺さなきゃいけねェンだ! コイツの存在そのものがあの女の存在を脅かしてンだよ! 俺が壊してやらなきゃ守れねェンだよォッ!!』
彼の並べる怒りの文言を聞いた風斬は、反論する。
風斬『そんなことをして、彼女が本当に喜ぶと思っているんですか!?』
一方通行『死んじまったら喜ぶことすら出来なくなるンだぞ?』
風斬『ッ』
一方通行『悲しむことも出来なくなれば、怒ることも出来なくなる。そして、一緒に思い出も作れなくなっちまうンだよ』
今までの荒々しい言葉とは裏腹に、冷静な口調で語る具現体を前に、風斬は言葉が詰まってしまう。
彼を否定する言葉が見つからなかったからだ。
違う。彼の言葉に少しでも、つま先の先ほどでも、彼女は心の中で『たしかにそうだ』と肯定してしまった。
そんな風斬から彼を止められる言葉が生まれるわけがない。
一方通行『俺はもォあの女と離れたくねェンだよ、一緒に居てェンだよ。そのためだったら何だって壊す。誰だって殺す。だから、邪魔するってンならオマエもぶち殺してやる』
失敗した。風斬は己のミスを悔やんだ。
結標淡希の存在が彼の殺意を打ち消すどころか、逆に爆発させてしまった。火に油を注いだように。
マイナスにプラスを掛け算したら、より大きなマイナスが生まれる。
もう彼を止める手立てなど何も思いつかない。
風斬(……やっぱり、私では駄目だった。あの子たちのようにはできなかった……)
風斬は二人の少女を思い出していた。
どうすればいいのかわからず迷い、ふさぎ込んでいた彼へ進むべき道を示した少女たち。
行動する勇気を持てず、動けなくなった彼へ進むための勇気を示した少女たち。
あの二人がここにいれば、また違う結果を生み出していたかもしれない。
しかし、現実は違う。ここには彼女たちは存在しない。存在するわけがない。
彼を止められる者はここにはいない。
非情な現実という刃が彼女の心へ突き刺さり、胸が痛む。
自分の無力さに風斬は下唇を噛む。
それに気付いた具現体は見透かしたように肩を揺らしながら笑う。
少女は潤んだ瞳で目の前の少年を睨んだ。
ふと、風斬は気付いた。
具現体が揺らしていた肩をピタリと止めたのを。
歪な笑顔がそのまま固まって、次第に呆然としたような表情へ変化していったことに。
風斬(い、一体何が……?)
正面にいる具現体の目を見る。彼の目の中には風斬などいない。
彼は風斬より後ろにある何かを見ている。視線の先を追うように、風斬は後ろを向いた。
赤い髪の少女が立ち上がろうとしていた。
歯を食いしばりながら、傷だらけの体にムチを打って、立つこともままならない足へ必死に力を入れて。
結標淡希が立ち上がった。
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