結標「私は結標淡希。記憶喪失です」
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767: ◆ZS3MUpa49nlt[saga]
2022/01/15(土) 23:45:57.71 ID:2z6G7I5Go


 一方通行は体の力を抜いたように両腕を垂らし、背筋を曲げながら立っていた。
 曲がっている背中から噴射するように飛び出した黒い翼は上へ上へと、核ミサイルにも耐える天井を突き破るように伸びている。
 長さは何メートルあるのかわからないが、あの先にあるあらゆる障害物は粉微塵に粉砕されていることだろう。


佐久「……何でだ」


 佐久は怪物を目の前にして恐怖を覚えた。
 体が震える。全身から絶えず嫌な汗が滲み出る。唾液が消えたように口の中が渇く。


佐久「何で能力が使えやがるんだテメェ!!」


 この施設のAIMジャマーは起動しているはずだ。でなければ人質になっている結標が何らかのアクションを取ってもおかしくないからだ。
 能力を使えばAIMジャマーの影響で何らかの不都合が発生する。腕が飛ぶなり、足が飛ぶなり。
 しかし、一方通行は目の前に五体満足で立っている。そして、現在進行系で能力を使用している。
 黒い翼というチカラを。

 ――本当にあれは能力なのか?

 佐久は科学者ではない。能力開発に関わる分野に詳しいわけでもない。物理法則に詳しいわけでもない。
 この世の全てのベクトルを操る能力者が、一体何のベクトルを操れば、あんな現象が起こせるのか。
 何一つ思い当たるような事象を佐久は導き出すことができない。
 だが、これだけはわかる。あの黒い翼はまともなものではない。まともな物理法則で動いているものではない。

 理解不能の現象を起こす能力者を目の前にして、ここにいる誰もが動けずに居る。
 同じ仲間のはずの土御門や、人質として囚われている結標はもちろん、相対している佐久や彼の隣りにいる手塩も。
 指一本さえ動かしてはいけない、目を反らしてもいけない、意識を別のものにすら移してはいけない。
 脅迫じみた圧力を感じていた。

 そんな中、一歩前に足を踏み出す者がいた。


 一方通行。


 背筋を曲げながらも顔だけは前を向き、真紅の瞳で佐久を捉えながら。


佐久「――一方通行ァ!! 動くなと言ったはずだがあッ!? こっちには人質がいることを忘れたかマヌケがァ!!」


 思い出したように佐久は叫ぶ。
 そうだ。こちらには最大の防御手段であり最大の攻撃手段である人質がいるのだ。
 一方通行がいくら強力なチカラを振りかざそうが、その事実には変わりない。
 佐久は再びナイフを結標の首筋に突き付ける。


結標「ッ……!」


 力が入りすぎたのかナイフの刃が人質の少女の首筋に当たる。
 裂ける痛みを感じたのか結標は顔をしかめた。
 傷口から赤い液体が首筋を伝って流れ出ていく。

 ゾクリッ、と佐久は背筋に刃物を突き立てられたようなプレッシャーを感じ取った。
 佐久は反射的に一方通行を見た。本能でヤツが発生源だと断定するように。

 一方通行の瞳の赤色が破裂したように広がり、眼球全体を覆っていた。
 目が充血しているとかそんな話ではなく、まるで最初からそうだったかのように染まっていた。





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