6:名無しNIPPER
2021/06/23(水) 17:40:01.40 ID:YBAOIjLn0
何と言うか、イマイチ言い表す表現が見つからないけれど最近の俺はどこかズレている。
今までならこう言う景色を見ても何とも感じなかったのに、今は誰かと、出来るなら彼女と、この景色を共有したいと考えている。
少なくとも良い意味でも悪い意味でも俺が俺らしくない。
7:名無しNIPPER
2021/06/23(水) 17:42:28.61 ID:YBAOIjLn0
さて、そんな自分の気持ちに封をしてから、図書室の扉の前で少し背伸びして中を覗いてみる。
幸か不幸かは分からないけれども彼女はまだ来ていないみたいだ。
ポケットに手を伸ばして手元のスマホで時間を確認してみると時刻は十六時と三十分を少し過ぎた辺り。
普段なら彼女は図書室の真ん中の席で超能力とか良く分からないオカルトの本だとかを読み漁っている時間なのだけれども
8:名無しNIPPER
2021/06/23(水) 17:44:14.13 ID:YBAOIjLn0
多分だけれども。彼女に言わせればこれがテレパシーってやつなのかもしれない。根拠はないけれどもそう思う。
「よし」
握りっぱなしだったスマホをポケットに仕舞ってから扉を開け
「あっ! イツキさん!」
9:名無しNIPPER
2021/06/23(水) 17:45:23.02 ID:YBAOIjLn0
帰ったら続き投下します
10:名無しNIPPER
2021/06/23(水) 22:45:15.38 ID:YBAOIjLn0
2.四月
この図書室に入り浸るようになった理由と言うか、彼女と話すきっかけになったのは
それは俺がこの図書室の鍵を持っているから。と言う案外単純な理由に落ち着くんじゃないかと思う。
11:名無しNIPPER
2021/06/23(水) 22:47:14.98 ID:YBAOIjLn0
そもそも俺らの高校には図書司書と呼ばれる存在が居ない。
いや居ないと一口に言ってしまうのは違うし、正確には存在しているけれど今は名義だけの存在で
腰をいわして絶対安静中という深い理由があるのだけれど、
深堀して話をする内容でもないし、教育法だとか何かに引っかかってしまいそうなのでここでは割愛させて頂く
12:名無しNIPPER
2021/06/23(水) 22:48:52.23 ID:YBAOIjLn0
いくら旧校舎の図書館で全く人が来ないからと言って、面倒なことをわざわざ請け負う人間も居なくて
その結果が前述したジャンケン大会と言うある種の責任の押し付け合いみたいな事態になってしまっている訳だ。
まぁ、それで激闘の末に栄えある図書委員長と言う大層な称号を請け負ってしまった俺は
一週間に一度、図書室の掃除を行うという役割と共に、代わりの価値にもならない図書室の鍵を手に入れることになった。
13:名無しNIPPER
2021/06/23(水) 22:50:32.24 ID:YBAOIjLn0
ある日、俺がいつもみたいに「やりたくないなぁ」だとか「面倒だなぁ」とか
そう言う人間なら誰でも抱えたことがあるだろう、その怠惰的な気持ちを抑えながら図書館に向かう廊下を歩いていると
今はもう誰も使っていない古ぼけた教室、その中に彼女は椅子に座って片手でスプーンを握りしめてそこに居た。
こんな事を言ってしまうもなんだけれども初めは幽霊なのかもしれないのだと思えた。
14:名無しNIPPER
2021/06/23(水) 22:51:08.45 ID:YBAOIjLn0
せいぜい迷い込んだ野良猫がたまに顔を見せるぐらいだ。
それに教室の窓越しから見える彼女の白い肌は窓越しに射す夕日に照らされて
まるでこの世の物だと思えないぐらいの儚さだとか、綺麗さだとか、切なさだとか、そう言った物を心のどこかに感じさせていた。
15:名無しNIPPER
2021/06/23(水) 22:52:27.43 ID:YBAOIjLn0
一分にも、五分にも、あるいは十分にも感じられるような、そんなオレンジ色の世界の中で先にはっと気づいたのは俺の方だった。
一応程度にドアをノックしてから教室の扉に手を伸ばす。
思っていたたよりも少しだけ重かったドアはガラっと軋むような鈍い音を立てて開いた。
教室の真ん中に居る彼女は、突然来訪した俺の事なんか気づいてもいないみたいに瞳を閉じている。
16:名無しNIPPER
2021/06/23(水) 22:53:27.32 ID:YBAOIjLn0
「何してんの?」
俺が彼女に初めて話しかけた時の、乾いた喉から出た言葉はそんな言葉だったと思う。
「むむ……ちょっと待ってください! もう少しで行けそうな気がするので!」
彼女はそう言って先の割れたスプーンを握りしめていた。
これが俺らのファーストコンタクトだった。
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