高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「『あいこカフェ』で」
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31:名無しNIPPER[sage saga]
2021/05/16(日) 14:48:06.58 ID:eE/KPeRw0
 ミニライブが終わってからも、多くのお客さん、藍子のファンの人たちは席を立つことなく思い思いの時間を過ごしていた。
 長く居座り続けるならそれとなく言うルール、というのはもちろん続いてるけど、新しいお客さんが来るまでは誰も追い払うことなんてしなかった。16時を回った頃からは新しいお客さんがほとんど来ず、店内でも時々思い出したかのように注文する程度で、店員役のスタッフさんは一緒になってのんびりとした時間を楽しんでいるようだった。

 ときどき藍子が、ラジオ番組を真似たトークを始めてみたりする。お客さんから質問を募集して、それにのんびりと答えていく。

 おすすめのコーヒーについて聞かれた時の、30分にも渡る事細かな解説には多くの人達が引き込まれていた。

 しっとりとした、語りにも似たお話が終わった直後に、「店員さんは彼氏いますかー!」アレな質問が飛んでいったという、事件? もあった。
 昨日からすっかりボディーガードとなったスタッフさんが制圧に向かおうとするも、質問対象が藍子ではなく他の人、よりにもよって店内にてたびたび藍子を護る彼女であり、様子に惹かれたという公開告白みたいな有様になった時は、ついみんなで笑い声を重ねてしまった。結果は……ふふっ。さあ、どうでしょう?

 何事も起きない時間こそが、カフェでは大切な時間。

 なんでもないことに笑い合える時こそ、あっという間に時計の針は動いてしまう。

 気が付けば『あいこカフェ』2日目も閉店の時間。名残惜しくもお客さんが1人、また1人と去っていき、未練に顔を情けなくしている人にはボディーガードによる「圧」が待ち受けていた。
 最後のお客さんをみんなでお見送りすれば、外はもう真っ暗。金銭計算を含む後片付けと明日の仕込みを済ませて解散した頃には、夜空に肉眼視できる明星が出揃っていた。
 都会では一番星さえもなかなか見つけられない空を、私と藍子、2人だけで見上げる。弱々しくも輝く光に照らされた藍子はすごく綺麗――だったのだけど、それについて何か思う前に無粋なスマフォが着信音を立てた。送信内容は挨拶的なメッセージ。送信者は、お昼前にたまたま出会った子――。

「……たっはは」
「?」

 隣の私が、よほど悪い顔をしていたんだと思う。藍子は疑問符を浮かべながらも、苦笑いしていた。メッセを指で送る私へと、寒くなってきたから……と、室内へ誘う。

 2人だけになると、『あいこカフェ』はすごく広く感じられる。
 事務的なものではない、ちょっとした椅子のズレや小物の配置と、あるいは気分次第の交換を1つ1つこなしながら、何かを手に取る度に藍子は立ち止まる。そっと目をつむり、微笑む。

「藍子っ」

 藍子のちいさな身体に溜まっていった楽しい記憶を、私も共有したいと思った。
 私が名前を呼ぶと藍子は、窓際の小物を近くの四角テーブルへとそっと移して、音が立たないよう簾を降ろし、私へと1歩近づく。
 昨日のこの時間はずっと私にもたれかかって、たまに見上げる目の中は疲労一色。
 1日経って、少し慣れたのかな。今日はもうちょっと大丈夫みたい。

 じゃあ――

「藍子、そこに座って待ってて?」

 私だって今日は店員さんだったから、頑張り続けた藍子は今だけお客さん。時計の針が、手作りの魔法を解いてしまわないうちに、キッチンへ。


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