42: ◆CItYBDS.l2[saga]
2021/02/13(土) 18:48:31.08 ID:ewOe4rJE0
魔王を狭間に、祖母と目が合った。これが、今生の別れとなるやもしれぬ。
減らず口の絶えない、気難しい年寄りであったが、いまとなっては何もかもが愛おしくてたまらない。
「ちぇえええいぃあああああああああああああ」
43: ◆CItYBDS.l2[saga]
2021/02/13(土) 18:48:58.41 ID:ewOe4rJE0
祖母がその小さき体で魔王の蹴りを受け、壁まで飛ばされる。
その衝撃に、肺腑の空気がすべて抜けたのであろう。祖母の叫声が止まり、ほんの一瞬だけ場が沈黙に包まれた。
ちりん。
44: ◆CItYBDS.l2[saga]
2021/02/13(土) 18:49:26.84 ID:ewOe4rJE0
「ここまでか」
利き腕を斬りおとされたというのに、魔王はその冷静さを微塵も失わず穏やな様子であった。
45: ◆CItYBDS.l2[saga]
2021/02/13(土) 18:49:53.26 ID:ewOe4rJE0
大叔父上だ。袈裟切りにされて、倒れたはずの大叔父上が息を吹き返し、魔王を逃すまいと覆いかぶさったのだ。
それと時を同じくして、人ならざる獣じみた叫喚が骸の中よりあがった。
「あ゛あああ゛あ゛あ゛ああ゛ああ」
46: ◆CItYBDS.l2[saga]
2021/02/13(土) 18:50:21.30 ID:ewOe4rJE0
「誰でもない、私が、私だけが真の勇者だ!」
伯母上の口上に連れられて、倒れたはずの一門の皆々が、続々と立ち上がる。
47: ◆CItYBDS.l2[saga]
2021/02/13(土) 18:50:48.32 ID:ewOe4rJE0
◆
「それで、何人生き残ったのだ」
48: ◆CItYBDS.l2[saga]
2021/02/13(土) 18:51:15.25 ID:ewOe4rJE0
「―――よかろう。いやしかし、伝説に倣えば魔王を前に、剣を抜いた者を勇者と呼ぶは当然のこと。勇者の称号だけでは、ちと寂しすぎる。
他に、望むことはないのか?」
49: ◆CItYBDS.l2[saga]
2021/02/13(土) 18:51:48.05 ID:ewOe4rJE0
◆
「参集!」
50: ◆CItYBDS.l2[saga]
2021/02/13(土) 18:52:16.16 ID:ewOe4rJE0
「……どういうつもりだ。いくら、礼より剣を貴ぶ一族と言えど我に剣を向けるなど無礼極まりないぞ」
「それが、我らに与えられた使命ゆえ」
51: ◆CItYBDS.l2[saga]
2021/02/13(土) 18:52:43.47 ID:ewOe4rJE0
「死ぬことになるぞ」
「覚悟の上」
52: ◆CItYBDS.l2[saga]
2021/02/13(土) 18:53:10.18 ID:ewOe4rJE0
―――――
おわり
―――――
52Res/33.98 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20