【ミリマス】帰省できなかったシアター上京組の年末年始
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6:帰省できなかった年末年始 5/9[sage saga]
2021/01/05(火) 22:33:57.22 ID:1nFF4fw90
【2021年1月2日】

 横山奈緒は、布団の呪縛から逃れることができずにいた。

 寝る前に暖房を切っていた部屋の中は極寒だ。この幸福な空間から少し足を出しただけでも、一月の冷えた空気が肌をぎゅっと握りしめてくるのが分かりきっている。「もう少しだけ」とか「お布団さんが重すぎんねん」とか、自分にいくつも言い訳をしつつも、手を伸ばしてエアコンのリモコンを手中に収めた。手探りで見つけた暖房のスイッチを入れて、そのままボトッと枕元にリモコンを落とした。 
 まだうまく開かない目を擦りつつ、充電ケーブルを刺したままのスマートフォンを見ると、兄からのメッセージが残されていた。

「なんや、こんな正月早々から練習行くんかいな」

 大晦日と同じように、一月二日も家には一人きりになることが約束された瞬間だった。

 大晦日に事務所の友達と行ってきた深夜の初詣、その翌日。夜更かしを通り越して徹夜してしまったせいで、元日は寝る以外に何をしたのか、奈緒の記憶はおぼろげだった。兄の姿は見かけた気がしたが、夢だったかもしれない。ああそうだ、ひっきりなしに届くメッセージや写真に文字で加工された年賀状に返事をしていたのだ、と、意を決して掛け布団をめくり、体を起こしながら奈緒は思い出していた。壁の時計が十一時半を指していた。目覚ましのアラームをかけないで眠れば、奈緒の朝がこうなるのは珍しいことでは無かった。

 冷蔵庫から取り出した牛乳をマグカップに注いで電子レンジへ。どうせ間もなく昼食時になるのだからまだ何も口にしなくてもいいぐらいだったが、目が覚めたら何か口に入れたいという気持ちが勝っていた。

 何となくつけたテレビでは、やはり伝染病のニュースが真っ先に扱われていた。緊急事態宣言の発令も間近だと、きつくネクタイを締めたニュースキャスターが話している。いつまでこれが続くのだろうと考えると、朝一番からしおれてしまいそうだった。

 奈緒が実家に帰らないと連絡したのは十二月の中旬だった。東京と大阪でさほど状況は変わらないと考えていたから、帰っても帰らなくても同じだったかもしれなかった。だが、同じように地元を離れて東京に住む地方出身のアイドルの何人かが「東京に残ることにした」と話していたのが、奈緒の決断の決め手になった。
 東京に残っていても兄と一緒に暮らしているのだから、それほど大きな寂しさを感じることは無かった。それよりも、他の地方出身者――特に、一人暮らしをしている年下の者達――のことが、奈緒は気がかりだった。

 お節介かもしれないと思いつつも、プロデューサーに連絡を取ってひなたや紬に声をかけてもらったのは正解だった。スーパーを出たばかりの所で年越し蕎麦の追加を買うためにレジに並び直すのも、手間ではあったが奈緒は素直に喜んでいた。そんな楽しかった年明けの一時を思い出していると、すぐ目の前に迫った、予定の無い一日の退屈さが、壁のように奈緒の目の前にそびえ立っていた。

「うーん……ヒマやな……けど、誰かの家に集まったりするわけにもいかへんし……」


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