【オリジナル】『トリック・or・トリートめんつ!』
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名無しNIPPER
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2020/10/31(土) 11:06:02.37 ID:cSMt8Cht0
十月の終わり。三十一日。
古くはマルティン・ルターが免罪符にブチ切れした論題を教会の壁に貼りつけたり、近年でいえば市制を施行して埼玉県和光市が生まれた日。
明治五年には横浜の馬車道で日本初のガス灯が点灯された記念日らしく、日本ガス協会がガスの記念日と定めている日。
一年中、どの日にもこういったそれなりの意味や歴史がある。だけどこの日は、ガスの記念日でも和光市の誕生日でもなく、『ハロウィン』と呼ばれることが多いだろう。
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2
:
名無しNIPPER
[sage saga]
2020/10/31(土) 11:08:51.61 ID:cSMt8Cht0
ハロウィン。
ハロウィンといえば、個人的なイメージで大変恐縮ではあるけど、子供がお菓子をくれなきゃ悪戯するぞと大人を脅して回る……というよりも、若者が東京で乱痴気騒ぎを起こすイメージが大きい。
以下略
AAS
3
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名無しNIPPER
[sage saga]
2020/10/31(土) 11:10:32.65 ID:cSMt8Cht0
◇
以下略
AAS
4
:
名無しNIPPER
[sage saga]
2020/10/31(土) 11:11:50.64 ID:cSMt8Cht0
そいつとは、一つ約束を交わしてあった。今から遡ること一週間前のことだ。
「アプリでハロウィン限定ガチャが増えてきたなー」なんて話題から、
以下略
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5
:
名無しNIPPER
[sage saga]
2020/10/31(土) 11:12:49.94 ID:cSMt8Cht0
この遊びは、アバターの名前も伏せて、自分がまとうハロウィンの仮装をヒントとして与えて、先に相手を見つけ出して合言葉を話しかけた方が勝ち……というルールで行われる。
合言葉は「トリック・or・トリートめんつ!」。非常にふざけた字面だが、これなら勘違いで知らない人に話しかけても笑って返してもらえるだろう――なんて判断だ。
以下略
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6
:
名無しNIPPER
[sage saga]
2020/10/31(土) 11:13:58.40 ID:cSMt8Cht0
◇
以下略
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7
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名無しNIPPER
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2020/10/31(土) 11:14:52.40 ID:cSMt8Cht0
休日、時刻は昼下がり。店内にはそこそこ人がいるようだ。
入り口から見えるラックの前で雑誌を吟味する同い年くらいの小太りの男がいて、その後ろをドリンクと漫画を持った若い男が通っていく。二つ並びになっている受付カウンターに視線を移せば、黒縁の地味な眼鏡をかけた女の子がこれから入店の手続きをしようとしているところだった。
以下略
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8
:
名無しNIPPER
[sage saga]
2020/10/31(土) 11:15:52.88 ID:cSMt8Cht0
季節は秋の終わりと冬の初めの狭間。身を切る風はもうとっくに冷たい。ティーカップを手にして、ウーロン茶のパックを入れて、ホットドリンクの筐体のお湯ボタンを押しこむ。ヴィーン、なんて大仰な音を立てながら、お湯がカップへゆっくり注がれていく。
手持ち無沙汰になり、辺りをなんとなく見回す。
以下略
AAS
9
:
名無しNIPPER
[sage saga]
2020/10/31(土) 11:17:20.16 ID:cSMt8Cht0
そうこうしているうちにカップにお湯が満たされる。火傷しないよう慎重に取っ手を持って、俺も自分のブースへと向かう。
途中、本棚の陰から出てきた人とぶつかりかけた。雑誌を吟味していた小太りの男だった。すいません、と軽く頭を下げると、いやこちらこそ、と小さく手を振られた。
以下略
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10
:
名無しNIPPER
[sage saga]
2020/10/31(土) 11:18:12.68 ID:cSMt8Cht0
ポケットからスマホを取り出して、呟きアプリを起動させる。それと同時に通知を受け取った。あいつからのメッセージだった。
『ウチのパソコンおんぼろだからネカフェに来たぜぇ!』
以下略
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11
:
名無しNIPPER
[sage saga]
2020/10/31(土) 11:19:48.38 ID:cSMt8Cht0
この仮想空間は六個のエリアから初期のログインエリアを選択できた。お互いに被らないよう三個のエリアを予め選択して、そのどれかに入ることになっていた。
俺が選んだのはアオモリ、ミヤギ、イワテ。その中からミヤギにログインした。
以下略
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12
:
名無しNIPPER
[sage saga]
2020/10/31(土) 11:22:57.71 ID:SpDo0D5BO
『待って……マジで全然見つからんのやけど……』
『アレだな……エリアが六個は流石に見つかる気がせんな……』
以下略
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13
:
名無しNIPPER
[sage saga]
2020/10/31(土) 11:23:50.89 ID:SpDo0D5BO
寒いと尿意が近くなるのは人間の摂理だ。我慢しすぎると膀胱炎になって大変なことになる、なんてこの前見たテレビでやっていたから、こういうのは行きたくなったらさっさと済ませるに限る。
そうしてトイレで事を成し遂げた俺は、再び自分のブースを目指す。
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14
:
名無しNIPPER
[sage saga]
2020/10/31(土) 11:24:34.52 ID:SpDo0D5BO
ルールを考え直してトイレも済ませて心機一転! ……とは思っていたけれど、エリアを三つに限定しても、やっぱりお互いを探すのは大変だった。
相手からのヒントを聞いて、それっぽい人に合言葉を話しかけても、全部が人違い。間違えて知らない人に話しかけてしまったことに恥ずかしい思いがないでもないけど、みんな「変な挨拶だね」と笑って、好意的な返事をくれるのが救いだった。
以下略
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15
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名無しNIPPER
[sage saga]
2020/10/31(土) 11:25:54.50 ID:SpDo0D5BO
そうして遊んでいるうちに一時間半が経っていた。まだまだあいつは見つかりそうにない。俺はフッと軽く息を吐き出して、スマホにメッセージを打ち込む。
『おなかへった。ちょっと休憩しよ』
以下略
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16
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名無しNIPPER
[sage saga]
2020/10/31(土) 11:26:58.37 ID:SpDo0D5BO
『やっべぇ、近くからすごいお腹の音聞こえた笑』
えっ、と思った。まさかな、とも思った。それから少し悩んで、メッセージを返した。
以下略
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17
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名無しNIPPER
[sage saga]
2020/10/31(土) 11:27:57.52 ID:SpDo0D5BO
下らない言葉を交わし合う。そうしていると、コンコン、と扉がノックされた。はい、と返事をしてブースを開けば、店員さんとカツカレー。
「お待たせしました、カツカレーです。ご注文は以上で?」という言葉に頷いて、トレーを受け取る。
以下略
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18
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名無しNIPPER
[sage saga]
2020/10/31(土) 11:28:36.18 ID:SpDo0D5BO
……まさかな、と思った。
スマホを手にしてみる。呟きアプリの通知はなかった。強烈なカレーの匂いと、ほのかなカルボナーラの匂いだけが漂う。
以下略
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19
:
名無しNIPPER
[sage saga]
2020/10/31(土) 11:29:21.11 ID:SpDo0D5BO
相変わらずスマホに通知はやって来ない。それは何故なのか。
真っ当に考えれば、あいつはカルボナーラを頼んで、それが届いて食べているからだ。
以下略
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20
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名無しNIPPER
[sage saga]
2020/10/31(土) 11:30:54.48 ID:SpDo0D5BO
このネットカフェにやって来てからのことを思い出す。
休日の昼下がり。そこそこの人。俺がブースに入ってから目撃した人々。
以下略
AAS
21
:
名無しNIPPER
[sage saga]
2020/10/31(土) 11:31:48.70 ID:SpDo0D5BO
だから俺は意を決した。
ネットだけの気軽な関係。いつ切れても構わないからこそ軽口を交わし合える関係――だなんて、知ったこっちゃない。
以下略
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