53:名無しNIPPER
2020/09/22(火) 20:55:29.91 ID:V4s4JV6AO
「もちろん、辛いこともありましたけど…でも、いつだってみんなが励ましてくれて…」
「ほぅ…」
「私…ダメダメだから…できないことも多くて…今まで…学校なんかじゃ『ぶりっ子』とか『あざとい』とか言われたこともあったんです…」
54:名無しNIPPER
2020/09/22(火) 20:56:40.56 ID:V4s4JV6AO
「でも、765プロのみんなは違いました…そりゃあできないことで怒られることもあったけど、誰もバカにしたり、意地悪を言ったりしなかったから…」
そこで言葉を区切った萩原君は、大きく息を吸い込んで、続ける。
「だ、だから私!765プロで良かったです!もう一度…いいえ、例え何度アイドルを始める前のあの瞬間に戻っても、私は765プロを選ぶと思います!」
55:名無しNIPPER
2020/09/22(火) 20:57:26.08 ID:V4s4JV6AO
「…って、ごめんなさい!私ばっかり喋って…お茶も…ぬるくなっちゃいましたね…入れなおしてきます」
「…いいや、これをいただくよ」
「え?でも、これぬるくなって…」
56:名無しNIPPER
2020/09/22(火) 20:58:16.35 ID:V4s4JV6AO
「うむ!美味しい!ありがとう、萩原君!」
「いえいえ、私の方こそありがとうございます」
お茶のお礼をするのはこちらなのだが、またしても逆にお礼を言われてしまった。何に対するありがとうなのかを聞こうとしたが、それを聞く前に萩原君は私の湯呑みを片付けるために給湯室に下がってしまった。
57:名無しNIPPER
2020/09/22(火) 20:59:03.34 ID:V4s4JV6AO
06
「ただいま!スーパーアイドル伊織ちゃんのお帰りよ!」
「おぉ、水瀬君。おはよう」
58:名無しNIPPER
2020/09/22(火) 20:59:47.41 ID:V4s4JV6AO
「あぁ、萩原君から玉露をいただいていてね…」
「ふぅん、まっ、私はオレンジジュース派だけど…」
そう言って彼女は冷蔵庫から、愛飲している果汁100%のオレンジジュースを取り出す。普段ならば、こんな少しの距離でさえプロデューサーの彼に取りに行かせる彼女だが、私と二人の時には自分で取りに行く。あれは彼に対する一種の愛情表現なのだろう。
59:名無しNIPPER
2020/09/22(火) 21:00:47.55 ID:V4s4JV6AO
「それに現場を離れて久しい身としては、こうしてアイドル諸君と交流を持つことで、初心を思い出しているのだよ」
「ふぅん…」
私の話を水瀬君は、オレンジジュースのストローをいじりながら興味なさげに聞く。おっと、初心を思い出すと言った側からアイドルに気を使わせてしまったか。
60:名無しNIPPER
2020/09/22(火) 21:01:35.99 ID:V4s4JV6AO
「そういうのもいいけど、社長は765プロのトップなんだから。奥でドシッと構えていてもらわないと他の事務所に舐められるわよ?」
「ははは、これは手厳しいね…」
彼女は水瀬財閥のお嬢様。兄二人が優秀で、自身は帝王学を学ばせてすらもらえなかったと言っているが、彼女の思考はまさしく王者のそれだ。そして、その思考を実現するだけの力はどれだけ泥に塗れようとも掴み取る。だからこそ思う。こんなコネも金も無い事務所でなければもっと早く…
61:名無しNIPPER
2020/09/22(火) 21:02:31.92 ID:V4s4JV6AO
「どうしたのよ、なんか元気無いじゃない」
「水瀬君…君は…他のプロダクションならばよかったと…思ったことはないかい?」
「はぁ?他って…例えば?」
62:名無しNIPPER
2020/09/22(火) 21:03:43.39 ID:V4s4JV6AO
「…」
「いや、もちろん私としては君がここを選んでくれたことは素直に嬉しいよ。しかしだね、君の実力を考えると…それこそコネがあったというだけなら君の家が筆頭株主のこだまプロでも…」
「何言ってるの?」
63:名無しNIPPER
2020/09/22(火) 21:04:26.76 ID:V4s4JV6AO
「それに私はワガママなの。961プロ?嫌よあんな成金趣味の事務所。東豪寺?麗華に頭を下げるなんて死んでも嫌」
真っ直ぐに私の目を見つめる。実は照れ屋な彼女とこうして目が合うことは珍しい。
「だから私はここがいいの。お金が無い?コネが無い?上等よ。全部私が作ってあげるわ」
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