36:名無しNIPPER[saga]
2020/10/04(日) 03:57:39.26 ID:WsJ2cUxc0
「……メタが過ぎるわ」
呆れ顔のファイアードレイクは苦笑しながら二匹目の兎の処理に取り掛かる。手練も勿論だが、何よりも道具が無ければ精肉工程などこなせない。包丁やナイフの類は全て、その鋭利な赤い爪が補っていた。
「ただ、そういった類の知識は今回まるで役に立たなそうじゃの。ほれ、見てみい」
ニンマリと笑いながらドーラはまたも兎の内臓を社に見せつける。青年の眉がへの字に曲がった。
「これが現実じゃ」
「いや、でもさ。だったら俺の持ってるアドバンテージゼロじゃね?」
「それはRPG的な知識が何の役にも立たないという意味か? ああ、それが理由でさっきから意地になってゲーム用語連呼してたんじゃな? 異世界におけるごく普通の人間って自分の無力感が気に入らなかったわけだ」
「イエッサー」
冷静に分析され社はがっくりと肩を落とす。この妻には隠し事はどうやら出来ないらしい。
「安西先生……異世界チート転生が……したいです」
「だからと言ってそれは本音が過ぎる。笑えん」
ファイアードレイクはいまだ後頭部に足形を残した自分の連れ合いを、しかし言葉とは裏腹に頼もしく思っていた。
自分以外に大人がもう一人居る。しかもそれが気心の置けない間柄であるという事実、それだけでドーラにとって社築の存在は異世界において十分大きなものだったからだ。だが、それを本人に言うのは憚られた。
ドーラは何より悔しいのだ。そこに安心感を覚えてしまう自分が。だから、振り払うように戯れに社を貶す。
「儂ら家族の存在がチートより劣ると思っていそうなのが、一等笑えんな」
「滅相も御座いませんッ!」
高速で平伏する自身の夫の姿に満足感を覚えつつ、火竜は予め集めておいた木の枝に自身の吐息で火を点ける。
「本当かのう?」
クスクスと、ああ、こんな事態に遭ってすら自分を笑わせてくれる人間種にドーラは、ファイアードレイクは確かに心を奪われている。
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