3:名無しNIPPER[saga]
2020/09/20(日) 13:05:37.38 ID:DMraZkfV0
「社さん、だから何より先ずはご自愛くださいと言ったじゃないですか」
「……さーせん」
ぷんぷんと擬音を口にしながら怒る女神の愛らしさに、社はすっかり精神を弛緩させ切ってしまっていた。それもそのはず、この女神はその類稀なる声質を買われてにじさんじに入ったのだ。社のようなドの付くオタクがやられない道理はどこにも存在してはいなかった。
「でも、でもですよ。モイラ様だって人のことは言えないんじゃないですかね。ほら、この間見ましたよ切り抜きで。振り返ったら一週間仕事しかしてないとかなんとか、愚痴ってたじゃないですか」
「アレは……わ、私のことは良いんです。それよりも今は社さんです!」
女神が仕切り直しとばかりに白翼を翻す。視界のその余りの荘厳さは中々に彼女の内面とは不釣り合いで、その不均衡さこそが彼女の持つ魅力なのだろうななどと青年はぼんやりと考えてしまっていた。
「俺ですか?」
「はい、社さんです。先ほども言いました通り貴方は死にました」
「あ、みたいですね」
「何、他人事みたいな返事をしているんですか。自分の事ですよ? もっと危機感を持ってください」
「危機感……ねぇ……」
危機感を持つべきタイミングはとうに過ぎてしまっているから、今現在自分はここに居るのではないのかと、そう問いたい気持ちを青年は飲み込むことにした。反感は悪戯に買うべきではない、と。この辺りは社会人である以上、一応はわきまえている彼である。
「それで……いや、ですがモイラ様がいらしてくれたということは何か自分に有るんですよね?」
大体の察しはついているが、それでも問うのはつまり、これは会話の潤滑油のようなものだ。まるで台本でも読んでいるような、そんな心持であったことは社には否めない。
「まあ、その通りです。有ります」
規定事項とは思っていたものの、それでも内心胸を撫で下ろす青年である。もしこれが、天国への送迎便を自分が請け負ったであるだとか、三途の川の先導を務めさせていただくなんて返答だったら、それは流石に心底笑えない。
38Res/50.90 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20