2:名無しNIPPER[saga]
2020/09/20(日) 12:55:59.13 ID:DMraZkfV0
一日は二十四時間しかないのに実質三十時間働く。それを一週間続けたのだから過労死は誰の目にも――もはや本人の目にすら明らかな論理的かつ極めて現実的な帰結であった。それはつまり、社には正しく「笑うしか」残されていないことを意味する。
「はは……っていや、笑えねーし」
より正確に言うならば、自分が今置かれた状況を夢だと強く思い込むことくらいは許されていたが。しかしながら、彼はここまで理性が鮮明な夢を明晰夢ですら見たことが無く、それは裏返って「これ」が紛れもない現実であると声高に訴えかけていた。
今までに通ってきたどんな最新のゲームよりも解像度の高い、網膜に映り込む星明りは暖かくも冷たくも見える不思議な色をしている。いくつものそれと、虚空が彼の視界の全てである。他には何も無い。やけに殺風景な天国だった。
「いやいやいやいや、死んだとしてもここに永遠は流石に地獄でしょ。音ゲーくらい用意しとけよ、準備悪いな無能運営さんよォ」
毒づくも天国なのか地獄なのかも判別つかなかった。そして、そのままどれほど時間が経っただろうか。絶望はしかし、長くは続かなかった。
不意に青年の項垂れていた首が跳ねる。
何かに気付いたように周囲を見回す。
そして垂らされた一筋の蜘蛛の糸を見つけ出した、そのままの顔で叫んだ。
「さてはここ、天国じゃねえな、これ!?」
持っている知識をフル動員して、彼は導き出す。
見たことが有った。これと同じような展開を。知っていた、この先に待つオヤクソクを。
「誰か! 居るんだろ! 種は割れてんだからダラダラと引き延ばしてんじゃねえ! 出て来い!」
なろう小説は彼も、大好物だった。そんな青年に舞い降りた、奇跡。
「はいはい、お待たせしました。今行きますよ〜」
聞くものに何の根拠も無いがそれでも安心感を与えるという特筆すべき特徴を持った聞き覚えのある女性の声。
その声を他ならぬ社築聞き間違えるはずもない。
「もいもいももーい、もいももいもい♪」
絶望に舞い降りたのは、女神。
どこからかふうわりと純白のドレスを羽を揺らしながら現れたのは生前の同僚にして運命を司る人外の彼女――モイラ。
「社さん、貴方は死にました」
告げる声も厳かに。だが、「それ」は社築には届かなかった。なぜならば彼はこの逆転満塁サヨナラホームランとも言える状況に、感極まっていたのだから。
「異世界転生キタコレ!!」
オタクくんは叫んだ。
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