【安価・コンマ】ファンタジーな異世界に異物が紛れ込むお話
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392: ◆7m3grp2dM2[saga]
2020/10/14(水) 18:31:57.96 ID:DA03flOdo

そんなオレの思案をよそに、爺さんは髭を撫でながらゆったりとした口調で語りかける。

「なあに、焦ることは無い。直に分かる」
「お前もきっと驚くぞ。人とは、かくも脆く儚く……美しいモノなのかとな」

どこか遠くの方を見つめていた爺さんが、何かを見つけてそちらの方へと歩いていく。
その方向からは、ある一つの小さな足音が聞こえていた。

「じいや〜!」

それは小さな子供だった。
その森にはあまりにも不釣り合いな、無防備で弱く小さな命。
小鳥が鳴くような可愛らしい声でその存在を大いに主張し、到底獣の追跡から逃れられるとは思えない遅い駆け足でこちらに向かってくる。
                       ・・・
「このような場所へようこそいらっしゃいました、お嬢様」

オレに語り掛ける時よりも随分と柔らかく甘い声で、爺さんはその子供を出迎え抱きしめあっている。
オレは一呼吸おいて気付く。その子供が『オジョーサマ』という名前で呼ばれていたことに。
その子供こそが、オレを更なる強大な力を持って屈服させたその爺さんの主人なのだと。

「あなたが、じいやの言ってた子?」

無防備にも、その少女は何の躊躇いもなくオレの顔を覗き込んできた。
爺さんと違い身を震わすような魔力も感じない。
どこからどう見てみ隙だらけで、指一本動かすだけで弾けて壊れてしまいそうな柔らかい身体つき。
その立ち姿からは、ほんの一欠けらの邪気も悪意も、敵意や警戒心すらも感じられない。

爺さんとは違う意味で、その子供はオレを一切恐れることなく、満面の笑みでオレに手を差し伸べてきた。

「わたしね、アイリスって言うの。じいやのおともだちなら、わたしともおともだちだね!」

それは、今まで見たことの無い存在だった。
自分の知るどんな生き物よりも弱い存在でありながらも、きらきらとした生命力に満ち溢れていた。

謂わば、オレにとってそれが初めて『人』に出会った瞬間だったとも言えるだろう。
明確に獣とは隔絶した違いを持つ、『人』という生き物を認識した瞬間だった。




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