4:名無しNIPPER[sage]
2020/08/23(日) 21:01:51.53 ID:mEhN2ZkD0
提督の指示で回線が接続され、大規模作戦中にもかかわらず数秒で深海棲艦指揮官が応じた。
「今回の大規模作戦最終海域だが難易度を変更させていただきたい」
回線の向こうから息をのんだような気配がつたわり、束の間の沈黙が支配した。
「難易度を変更されますとゲージは完全に復活し、最初からやり直しになりますが、よろしいでしょうか」
深海棲艦指揮官は嘲るような調子で、必要以上に丁寧な態度で確認をしてきた。
これまでの大規模作戦を全て甲で突破した提督にとってはこれ以上の屈辱はない、だが艦娘たちのために耐えるしかなかった。
数度の皮肉や嘲り、確認の後にようやく深海棲艦は難易度変更に了承した。
「それでは、甲から一ランク落として乙ということでよろしいでしょうか」
鎮守府に残された時間は少なかった、現状では乙でも厳しい、ここは恥を忍んで丁にまで引き下げるべきだと判断した。
「丁といわれましたか?これまでずっと甲でクリアされてきたのに!ご冗談を」
時間稼ぎとも思えるやり取りの後、難易度は変更された。
苦々しい表情で受話器を置いた提督は連合艦隊に帰還を命じようとした、連合艦隊はまだボスマスには着いてないはず、まだ間に合う。
連合艦隊を帰還させ謹慎させる、残った艦娘で再編成し最終海域を丁クリアする、最低限の勝利ではあるが上層部への言い訳はなんとかなる。
長門たちも営倉で反省させてやれば、落ち着きを取り戻すだろう、提督は元の鎮守府を取り戻すことを固く心に誓った。
司令室に明石が走りこんできたのは、その時であった。
「出撃した艦隊が帰港しました、長門がいません」
港に向かった提督たちが見たのは泣きはらした陸奥が率いる連合艦隊の残余であった。
長門は道中で空襲を受け大破していた、万全を期して出撃したものの道中で大きな被害を受けたのは運が悪かったと言うしかないだろう。
しかし長門はそのまま進撃を続け、更に被弾し撃沈された、まさに提督が難易度変更を交渉していたその時である。
深海棲艦指揮官が執拗に意味のない確認を繰り返し、時間をかけていたのはこれをしっていたからであろう。
提督を拘束し無理に出撃した長門にとって責任の取り方はこれしかなかったかもしれない、だが他に道はなかったのか。
呆然と立ちすくむ提督に代わり、今度は大淀が指示をだした。
小破した戦艦を中心に連合艦隊を再編成し、再出撃の準備を進める、惜しげもなくプレゼント箱が割られ、燃料と弾薬が艦娘たちに補給された。
ようやく落ち着きを取り戻した提督が旗艦の武蔵の手を取り、激励を行った。
すでに朝日が昇り、夜は明けている、メンテまでの時間がせまっていた。
難易度丁と言えど失敗が許される状況ではなかった、極度の緊張感のなかで数度の出撃が行われる。
最後のボス撃破は拍子抜けするほどあっさりとクリアできた。
連合艦隊からの無線でそれを伝えられた時も司令室に歓声はない、失ったものが大きすぎた。
長門を失っただけではない、鎮守府は大きなものを失っていた。
次の大規模作戦でも甲に挑戦するだろう、だが一度挫折すれば安易に難易度を落とすだろう。
必死で甲種勲章を狙い、全力で立ち向かう鎮守府は永遠にうしなわれたのだ。
END
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