6: ◆cHgGoW87TMyQ[sage saga]
2020/08/12(水) 22:30:38.05 ID:oQgLvJpl0
◇
そして、数日後―――私達のランク戦が終わった。
結果はB級中位。目指していた上位には届かず、最終戦も結果を見れば私達の負けだ。
何がいけなかったのかは分からない。
新しく試したものがあり、その中で至らなかったものがあり、これが私達―――『香取隊』の現在地だった。
口惜しさはある。苛立ちだってある。
私達は全力でやったのに、この戦いに向けて今までしてこなかった努力というものだってしたのに、でも勝てなかった。
結果に満足なんて出来る筈がなかった。
でも、その一方で……納得もあった。
私は、まるで見えていなかった。
勝利へのヴィジョン。
勝つためには、どれだけの努力が必要で、どれだけの熟慮が必要なのか。
今回その第一歩を踏み出した事で、勝利という遥かな頂きへ到る道程の、ほんの片鱗を垣間見る事ができた。
B級上位をキープするには、部隊でも、個人でも、今はまだ遠く及ばないのだろう。
「……お疲れ、葉子」
自販機の横の休憩スペースに一人腰掛けていると、幼馴染の染井華が現れた。
負けたばかりだというのに、その表情は何時も通りに冷静そのものだ。
「お疲れ。麓郎達は?」
「若村君は最終戦のログを見直すって。三浦君もそれに付き添ってるわ」
「そう……ま、あの体たらくじゃ当然よね」
隊は、もう次に向けて動き出していた。
それは、今までの私達には決して無かったものだ。
前を振り返り、次に活かす。
勿論今までだって私以外の二人は同様の行為をしていたのだろうが、本当の意味で取り組み始めたのはここ最近の筈だ。
……私だって、そうだ。
見たくなんてない自分が落ちるシーンを何度も見直して、相手の動きを頭に叩き込んだ。
結果には結びつかなかったが、それも当たり前だ。
今まで何もしてこなかったのに、ほんの数週間の研究で勝てると思う方が烏滸がましい。
「どうだったの、スパイダー?」
それは、麓郎に指示されて組み込んだトリガー。
少し前のランク戦で、私達がものの見事に『してやられた』トリガーだった。
……頭に浮かぶある人物をかき消して、私は口を開く。
「……思ったよりは使いやすかったわ」
あの眼鏡に使えて私に使えない筈ないじゃない、と言いかけて口を紡ぐ。
余り意識してると、華に勘付かれたくはなかった。
「次はもっと上手く使えるよ。葉子にあってるもの」
「そう? まぁ、華がそう言うならそうなんだろうけど」
確かにしっくり来るものはあった。
あの感じならもっと使い込んでも良いだろう。
言いながら、壁に設置されたモニターを見る。
そこには今シーズンのランク戦の結果が流れている。
不意に、ドキリと心臓が鳴った。
私達の順位に、ではない。
アイツの、あの部隊の順位が、気になったからだ。
下位から順に、部隊名が表示されていく。下位……中位……そして、上位。
アイツの部隊は、上から二番目に名を連ねていた。
「……すごいね、彼。本当に遠征選抜の条件クリアしちゃった」
幼馴染の声が、どこか遠くに聞こえる。
上から二番目にあるアイツの部隊と、その遥か下に表示されている私達の部隊。
これが、今の私とアイツとの差だった。
分かっている。分かっていた筈だった。
たった数日前の決意一つで、塗り替えられるような差ではないことは。
分かっている。それでも―――悔しくて、たまらない。
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