2: ◆cHgGoW87TMyQ[sage saga]
2020/08/12(水) 22:28:35.54 ID:oQgLvJpl0
……思えば何時からだろう。
あの男が、どうしようもなく気になり始めたのは。
きっかけは分かる。
アイツの部隊に完敗した事……そして、短いながらもアイツと言葉を交わした事だ。
でも、最初の感情はこんなものではなかった筈だ。
ムカつく。
弱っちい雑魚が、仲間と周囲の環境に恵まれて勝ち続けている。
自分はせっせと罠を張って、遠くからヒョロヒョロ弾を撃っているだけのくせして。
お前が強いんじゃない。
A級でエースを張るレベルのチビと、ブラックトリガー級のトリオンを持つ小娘が強いだけだ。
それにおんぶに抱っこをしている雑魚眼鏡。
ムカつく。ムカつく。ムカつく―――!
と、こんな印象だった筈だ。
そんなアイツへの印象が変わり始めたのは、玉狛第二のログを見直した辺りからだった。
特に印象深かったは、私達との試合の、一つ前のログを観た時。
それは、今シーズンで玉狛第二が唯一敗北した試合。
ボロ負けしたのは知っていたが、改めて見直すと酷い内容だった。
隊長であるアイツは何の仕事もできずに序盤で撃破され、チビスケも影浦さんと二宮さんに封じ込まれた。
完敗。
私であれば当分は立ち直れない程に散々な内容だった。
だが、アイツは立ち上がった。
たった数日でスパイダーという新トリガーを引っ提げて、私達に勝利した。
思えば、私はこの時初めて感じた。
この眼鏡はただの雑魚ではないんじゃないか―――と。
ただ、この時はまだ悪印象が先行していた。
言ってもただ図太いだけの眼鏡だと。
そんな気に掛けるような奴じゃないと、言い聞かせるように考えながら、でも気付けばアイツの試合を追っていた。
B級上位常連の、生駒隊と王子隊とのランク戦。
実力以上の相手に、見事アイツ等は勝利した。
前回敗北を喫した東隊、影浦隊、アタッカー4位の村上鋼を有する鈴鳴第一との試合。
アイツは再び度肝を抜く作戦を立てて来た。
ここに来て新メンバーを加入させてきたのだ。
これまたエース級の新人の活躍もあってか、見事勝利を収めた。
順位はB級3位まで上がり、アイツが目指す遠征選抜の条件『B級2位以上』が、現実味を帯びてきた。
アイツは、言った。
ただ自分がそうするべきだと思っているから。だから、遠征部隊入りを目指すのだと。
初めて言葉を交わしたあの時、迷いもせず、躊躇いもせずに、そう言った。
そして、言葉の通りアイツはあらゆる手を使って部隊を勝利へと導いた。
スパイダーを取り入れ、シーズンの半ばに大型新人を加入させ、その目標に手の届く位置まで這い上がった。
……アイツの活躍を見る中で、私はふと思った事がある。
私に同じ事ができるだろうか?
例えばあのチビスケとトリオンモンスターが仲間だったとして、それでアイツ同様に勝ち続けることができるのだろうか?
自分がアイツと同じ立場にいて、同じ事ができるのだろうか? という、疑問。
……出来る、と思いたかった。
アイツに出来て、私に出来ないなど―――その事実を認めることなど―――プライドが許さなかった。
だから、自らを言い聞かせるように思い込む。
私にだって同じ事はできる。
ただアイツは環境に恵まれていて、私は恵まれていないだけ。
それだけがアイツと私の差なんだと、自分を守るように私は考え続けた。
だけど―――それから少しして、私は知った。
三雲修の、強さを。
その一端を表すエピソードを、知った。
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