魔王と魔法使いと失われた記憶
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732: ◆Try7rHwMFw[saga]
2020/12/29(火) 21:49:22.91 ID:Dh94pGk20


私は動揺を悟られぬよう、努めて静かに訊いた。

「教授が昔冒険者をやっていたのと、関係があるんですか」

「もちろん。彼女とジャック・オルランドゥ氏は、その発掘作業に携わってた。父もそれを後援していたの。
でも、皇室はそれを潰したかった。だから、3年前にヘイルポリスを襲撃したのよ。何とか死守できたけども」

「どうしてですか?ただの遺跡の発掘作業じゃ……」

その時、「まさか」とエリックが呟いた。

「……狙いは」

「ええ。遺跡に眠る『秘宝』や『遺物』。それを独占するつもりだったんでしょうね。
あれは、使い方によってはとてつもなく危うい。あなたたちは、身をもってそれを知っているはず」


……そういうことか!!鈍い私でも、やっと分かった。


今テルモンで起きていることは、ただの反乱じゃない。強大な武力をどちらが握るかという争いなのだ。
そして、遺跡ということは……

「『サンタヴィラの惨劇』とも、関係がある話なんですね」

「恐らくは。あなたが考える以上に、『秘宝』や『遺物』は世界を変えかねないの。それも、根本から」

「お前たちが着ていたあの鎧も『遺物』か」

ブランさんが肩を竦めた。

「いや、『パワードスーツ』は『秘宝』の方だよ。というか、よく誤解されるんだけど武具だからといって『遺物』とは限らないんだ。
その魔力の源となる『魔洸石』が含まれているか否かが大事でね。あれは、人の精神に重大な影響を及ぼすのさ。
パワードスーツの動力源はあくまで着用者本人の魔力と『電力』。至って平和な代物だよ」

「そんなものを、どうしてお前たちが?その遺跡からの出土品なのか」

「ご名答。で、俺はイーリスの反ユングヴィ教団派としてクロエたちに協力する立場ってわけだ。
まあ、こいつとはガキの頃からの腐れ縁なんだけどな」

クロエさんがやれやれと溜め息をつく。

「『幼馴染』と言ってくれないかな?ま、それはともかく。
私たちがここに来たのは、ヘイルポリスにいるアリスさんとジャックさんの支援をお願いしたいからなの」

「……え??教授たちは、モリブスにいるはずじゃ……!!?」

「襲撃の気配があったからなのかな。数日前にヘイルポリスに『転移』してきたのよ。ジャックさんの容態も良くないみたいでね……
あなたたちのことは、大分気にしてた。そして、ミカエル・アヴァロン大司教の動向も。
でも、彼女は動けなかった。『本当にごめんなさい』と、言伝を預かってるわ」

襲撃……多分、あのデイヴィッドだ。私たちは出くわさなかったけど、2人からカルロス君が戦っていた相手が彼であることは聞いていた。

それにしても、新しい情報が多くて頭が混乱する。というか、私の失われた記憶とも、何か関係があるんじゃ……

私は首を振った。きっと、考え過ぎだ。

「『支援』ということは、何かに巻き込まれているのか?」

クロエさんが頷いた。

「ええ。ヘイルポリスは今、テルモン軍によって襲撃を受けてるわ。
相手は……皇弟ナイトハルト・ウォルフガング。そして父とアリスさんは、その防衛に回ってる」

「そこで、俺たちの力を借りたい。そういうことだな」

「ええ。あなたの目的が、『サンタヴィラの惨劇』の真実を暴くことにあるのは知ってる。
だから、無理にとは言わない。でもさっきプルミエールさんが言ったように、決して無関係じゃない」

エリックが私の目を見た。答えは決まっている。
私はクロエさんに頷いた。


「やります」





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