魔王と魔法使いと失われた記憶
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730: ◆Try7rHwMFw[saga]
2020/12/29(火) 21:47:12.76 ID:Dh94pGk20

「……落ち着いたか」

「そうみたい。デボラさん、さすがに疲れて眠ってるわ」

私はゆっくりと扉を閉めた。……やっと、一息つける。

私たちは、「蜻蛉亭」にいた。娼館の部屋を病室代わりに使わせてもらえることになったのだ。
カサンドラさんは「お代は頂くわよ」と言っていたが。魔族であるエリックの姿を見ても嫌な顔をしなかった辺り、やっぱりいい人なんだろう。

カルロス君の処置は、一応無事に終わった。
デボラさんの付き添いで見ていたけど、「時間遡行」の過程で例の「触手」が背中から生えて来た時にはさすがに焦った。エリックを呼びに行こうと思ったくらいだ。
でも、もともと深い眠りに入ってたらしく、暴れることは幸いなかった。何でも、あのクロエさんという人の薬が効いていたらしい。

カルロス君の生命力はかなり失われているらしい。デボラさんからは「流れた血は元に戻せない」とは聞いていたけど、それと同じ理屈のようだ。
あのデイヴィッドには随分触手を斬られていたみたいだ。どうもその影響があるんじゃないかという。

それでも、彼が一命を取り留めたのは確かだ。

今、カルロス君はメディアさんが看病している。
まだ乗り越えなきゃいけない障害は幾つもあるだろうけど、一先ず大きな山は越えたんじゃないか。私はそう思った。

シェイド君はというと、猫の姿に戻ってまだ寝ている。私はもちろん、エリック以上に体力を酷使したのだろう。
そもそも、シェイド君にとって亜人の姿は仮初めのものだという。その状態を維持するだけでも、結構な体力を使うのだと聞いたことがある。


彼がいなければ、私たちがアヴァロンに勝つことはなかっただろう。いや、これは皆の勝利なのだ。


思い切り喜びたかったけど、そんな気力もないほど、皆疲れ果てていた。
とりあえず柔らかなベッドで、早く寝たいな……


でも、生憎そうもいかない。下には、私たちを待っている人がいる。
クロエさんとブランさんだ。



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